Part.3 『セヴンス・ガーデン』について

2004.06.09 00:00

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--いま静岡県で開催中の<浜名湖花博 パシフィック・フローラ2004>庭文化創造館で、
サウンド・インスタレーション「音庭」をプロデュースされました。

清水:
広大な敷地で花に関する様々な催しがあるんですが、そこに庭文化創造館というパビリオンがあって、
4月~9月末まで毎月違うコンセプトで庭のレイアウトが変わっていくんです。例えば4月は花見の庭で、
歌舞伎の有名なシーンを書き割と植木などで表現するといった、イメージの庭を造る企画です。それが6つあって、
そこに大量のスピーカーを仕込み、いろいろな場所から音を出すんです。それをするために集めた音の素材を音楽的に結合
させたのが、『セヴンス・ガーデン』というアルバムなんです。

--CDに入っている曲がそのまま流れているのではないのですね。

清水:
CDではまとまった曲になっていますが、実際には音のパーツがバラバラに聞こえるんです。例えばオーケストラでいうと、
ここに第一バイオリンがいて、70m離れた所にチェロがいるという風に。スピーカーからまとまった音楽が流れてくるんじゃ
なくて、楽器一つ一つが別々のスピーカーから鳴るというぐあいです。「雑草」という曲は、雑草一つ一つの名前ごとに
録音してあるんです。実際には、それが時間差でバラバラな場所から聞こえるわけです。CDではそれをつなげて、
曲らしく作ってあるんですが。

--CDではメロディがつながって聞こえるので、普通の曲だと思っていました。

清水:
最初から最後までつないで歌っているようでしょ。バッハとテナーサックスのニュアンスと同じで、僕なりの面白さなんです。
花の名前には興味があって、綺麗な花を並べてみるんだけどイメージが湧かないんですよ。それで雑草を調べてみたら、
“タカサブロウ”とか、すごく面白い名前がいっぱいあってどんどんメロディが出てくるんですよ。そそれを合唱団に歌って
もらうと、ただのノスタルジーじゃなくて、僕自身も日本語の不思議な響きの面白さを感じたんです。

--「モノノハナ」というのはとても面白い曲です。これはメロトロンの音ですか? すごく懐かしい気分になります。

清水:

メロトロン(※07)

鍵盤一つずつにカセットテープと再生ヘッドがあり、鍵盤を押すことによってそのテープが再生されるという仕組みで音を出す
楽器。テープに音階ごとに録音すれば、どんな楽器の音でも鳴ることになる。初期のサンプラーともいえる。


をサンプリングしたものです。メロトロンは鍵盤一個一個にカセットテープがついているという一種の
サンプラーなんですが、その遠まわしというか二次的なカンジがいいですよね。小津安二郎の古い映画音楽のようだと
みんなに言われます。昔の映画音楽って世界的にこんなカンジで、小津の映画で使われてた音楽も、ヨーロッパのものなどと
そんなに変わらないんですよ。最近こういった曲調では作らなくなったんですけど、日常というものを表現するということで
作ってみました。

--マライアの名曲「花が咲いたら」を取り上げたのは?

清水:
前から

インスタレーション(※08)

現代アートでの解釈では、ある場所に置かれた事物だけでなく、それを含む空間全てを作品とする考え方。
そこには当然音楽も含まれる。


の音楽なんかもやってたんですが、そのころはブライアン・イーノ的なアンビエントが
主流で、音の壁を作りがちだったんです。でも僕のマライア時代やソロアルバム『案山子』なんかは、音の壁を作るんじゃなく、
意味の投げかけということを熱心にやってたことがあるんです。そのころに作ったものは自分にとってとても重要なもの
だったということに気付いて、それで庭のインスタレーションをやるということで、それなら良い曲があるじゃないかと
思ったんです。亡くなった生田朗くんが書いた詞も素晴らしく、これは使わない手はないなと。マライアのバージョンは
もっとリズミックなんだけど、曲想を変えてやってみました。

--このスピーカーシステム、エリザベスを紹介してもらえますか。


清水:
高さが2mくらいある8チャンネルのマルチ・チャンネル・スピーカーなんです。メロディ、ハーモニー、リズムをまとまった
形で聴くものではなくて、それぞれ違う音がバラバラに出てきて、それが立体的に聞こえるようなスピーカーがほしくて、造形作家の佐藤伊智郎さんに制作してもらいました。
実際には、小さなスピーカーからは、それぞれ違う種類の鳥の鳴き声が出ていて、真ん中からは女の子のハミングが出ている
んです。会場ではこれ2つが50mくらい離れて向かい合っていて、ランダムに音が出ているというわけです。
ここで使った音源をまとめたのがCDの「エリザベス」です。意外に射程距離が長くて、離れていてもよく聞こえるんです。
近くだと、回りで鳥が鳴いていて、真ん中から女の子の声が聞こえてきて、すごくヘンなカンジですよ。花博が終わったら、
これでコンサートをやりたいなと思ってるんですよ。

--音の聞こえ方へのコダワリですね。

清水:
スピーカーって音楽を聴くための音の出口だと思っているけど、実はスピーカー自体が演奏者で、
できた音楽を流すだけが役割じゃないと思ってるんです。

--これからどんな音楽を作っていこうと思いますか?

清水:
バッハのCDをこれまで3枚作って、これを最初に出した時に言ってたんですが、このアプローチをやるなら1枚や2枚
じゃなくて、10枚くらいのシリーズになるまでやらなきゃだめだと思っていた。だからこれを引き続きやっていきます。
同時に『セブンス・ガーデン』のようなものも小出しにやっていきます。ロック、クラシック、ジャズという決まった音楽を
やるというんじゃなく、面白いことをやるための手段としてそれらの音楽を利用していこうという考え方です。
インタビュー●森本智

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