圧巻のパフォーマンスと映像美、そして大変化! Mr.ChildrenライヴDVD特集【佐伯明氏レヴュー】

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Mr.Childrenは初期の頃から“ワンテイク至上主義”であるとか“ライヴ的一発レコーディング”を遠ざけていた。パーソナル・ユースのスタジオがなかった頃、彼らはホテルの部屋を借りて(当時はまだそれほど普及していなかった)ハードディスク・レコーディングを行なっていた。つまり、丁寧に音を配置し、積み上げていたのである。磨き込まれた完成度の高い楽曲をデビュー当時から目指していたMr.Childrenにとって、ライヴで伝わるものは追補的なものでしかなく、まず伝えるべきは音源でしかあり得ないという強い意志が彼らをストイックなレコーディング作業へと向かわせていた。巨大アリーナでコンサートをやることが増えた『Atomic Heart』(’94年)以降も桜井和寿は「コンサートはそれ以上でも以下でもない」と言って、ことさらライヴ空間を特殊化することはなかった。 そんな彼らが“音を出せる現場=ライヴ”を音源以上に重んじるようになったのは、私見では02年12月の(桜井が病気から復帰したあとの)横浜アリーナでのライヴではなかったかと思う。ステージ上にいるミュージシャンが同時に音を出す“一回性”を持った現場の魅力。たとえそれが些細なものであっても、今を生きている重要な音であることを、あの時からMr.Childrenは自覚し、活動をしてきたのではないだろうか。そうした蓄積がアルバム『I♥U』を導いたと言ってもあながち言い過ぎではなかろう。僕にとって『I♥U』は、メンバー4人がそれぞれに“出す音”にリスペクトとキャラクターを感じながら作っていった、ミスチル史上もっとも“大切なバンド感”を表わしている作品である。よって、『I♥U』を引っさげておこなわれた5大ドームツアーは、もっとも4人の音が同格に表出したライヴの内容面を携えていたし、ファイナル東京公演を収めた今回の映像作品が、よりつぶさに4人の音を出す・声を出す挙動をつまびらかにするものになるであろうことは、容易に想像できた。 ここのライヴは、映像監督の丹下絋希が、細密に編集を行なっていったことがわかる作品となっている。スローモーション映像を的確に入れ込むことで、前述した“音を出す挙動”が、1回きりでありながら永遠を感じさせるような感触を持つに到っているし、さらにメンバーそれぞれが“音を出していない時”が、実はバンドにとって重要な地盤になることを証明する箇所がいくつもある。例えば、7曲目の「くるみ」で冒頭を桜井が弾き語り形式で歌い出す時、ギターの田原健一はオフマイクで歌っているし、17曲目の「overture~蘇生」のovertureの部分=jenがカウントを出す前では、4人ともうつむいて音を出すその時を待っている。音を出さない時も音楽を形成する磁場の中にあるバンドは、一種崇高なものだ。ツアー中、小林武史と話をした際に彼は「今回のMr.Childrenのライヴはあらゆる方向に“放射している”というか、そんな感じがする」と語っていたのだけれども、音と共に何かを放つその何かが、4人の内に無言のままあることがはっきりと見て取れる高次元の映像になっているのである。その小林をステージに迎えて(僕の知るかぎりMr.Childrenの正式なライヴでの共演は初めてである)の「Sign」は、人と人の連結が一回性のある楽曲の表出になるという自明の理を、優しくかつある意味で格調高く、映像化している。 アルバム~ライヴ~DVDを受け取って初めてわかってくるMr.Childrenの最高の状態。それはバンドの内側から放射するべき気持ちの高まりがあることと、キャリアを積んできたことで獲得したメソッドやスキルが不可分に繋がりあっていないと成せない。したがって、総合すれば、本作はMr.Children史上他に類を見ないマスタピース演奏映像作品だと言い切ってよいと思う。 文●佐伯明

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