その“格好良さ”はあくまで“ストリート”の視点に基づいたもの

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その“格好良さ”はあくまで“ストリート”の視点に基づいたもの

独自の“ライミング”でヒップホップのワールド・タイムと歩調を合わせる“翻訳者”

キングギドラ復活2枚シングル

「UNSTOPPABLE」

DefSTAR Records
DFCL-1063 1,223(tax in)

1 UNSTOPPABLE
2 ミヤコ
3 ドライブバイ
4 UNSTOPPABLE (Instrumental)
5 ドライブバイ (Instrumenta)

※出荷停止中




「F.F.B.」

DefSTAR RECORDS
DFCL-1064 1,223(tax in)

1 F.F.B.
2 平成維新 feat.童子-T&UZI
3 夜明け
4 F.F.B.
5 平成維新 (Instrumental)

※出荷停止中
倒置法や熟語を多用したタイトなライミング

キングギドラジブラ/K ダブシャイン/DJ オアシス)が日本のヒップホップ・シーンに大きな影響を与えたことは間違いない。

だが、現在のこの復活フィーバーの中、実際に彼らが及ぼした影響の中身について、具体的に言及しているものは意外に少ない。酷いものになると、「彼らがいなかったら日本語ラップはなかった」と言い切るものまでいるが、それは正確ではなく、歴史修正主義的ですらあるし、しかもあまりに漠然としすぎている。

キングギドラの功績やその偉大さをより実感するためにも、彼らがシーンに一体何をもたらしたか、今一度整理しておく必要があるだろう。

まず、よく言われることだが、日本語でいかに格好良いラップをするか、その方法論は彼らが確立したと言っていい。本来、英語の文法で形作られたラップを、根本的に構造の異なる日本語で、いかに“格好良く”表現するのか。しかも、ストリート文化の証明たる話し言葉を駆使して、だ。

それまでの日本語ラップは、特にこの“話し言葉”の縛りが大きく、そこに幾ばくかの無理が生じたため、おのずとそれを“ユーモア”に転化するか、あるいはそのイビツさ自体を魅力にしてしまうか、しかなかった(あとは「日本語をいかに英語的に変化させるか」だ)。

しかしジブラとK ダブシャインは英語が堪能ゆえ、“本場”のラップの歌詞も完璧に把握していることから、そうしたシーンの現状に飽きたらず、自分達の方法論を模索していった。

その結果が、口語体にそれほど拘らず、倒置法や熟語を多用し、その分、格段にタイトなライミングをすること、であった。

こうして生み出された彼らのラップは際立って独自性があり、しかもそれが明確に「ライミング」という手法を主張するものだったため、当時のMC達や若いリスナー達に多大なショックを与え、以後、キングギドラの方法論は日本語ラップのスタンダードとなり、ひとつのスタイルとして定着したのである。

日本語ラップへのファンタジーの注入

しかし、キングギドラの功績はそれだけはない。更にもう一つの功績は──そしてこちらの方が今となっては重要かも知れないが──“日本語ラップへのファンタジーの注入”である。

開発されたばかりの新しいライミングの技術を用いて、いざ“何を歌う”か? そうした時に、例えばK ダブシャインはポリティカルなメッセージや“ストリート”の現実を意識的に取り上げ、ジブラは時にサイエンティフィックな比喩やファンタジックなイメージを駆使し、歌詞の内容面でも、彼らは独自の“格好良さ”を追求していったのである。

そして、その“格好良さ”はあくまで“ストリート”の視点に基づいたもので……というより、それを強固に主張することで、その“ストリート”はある種のフィクションとして、日本各地のキッズ達に機能していったのである。

分かりやすく説明するために、彼らの復活作である2枚のシングル収録曲「ドライブバイ」と「F.F.B.」を例に挙げよう。前者のタイトルはもともと米国のスラングで“車を使った銃による襲撃”という意味だが、これを彼らはラップ・ゲームにおける攻撃に置き換え、フックでこう連呼している。<ニセもん野郎にホモ野郎/一発で仕留める言葉のドライブバイ/Yo コイツ殺ってもいいか?/奴の命奪ってもいいか?>。

また、「F.F.B.」というタイトルはズバリ「ファースト・フード・ビッチ」であり、どちらにせよ、お世辞にも社会良識から歓迎されるものではなく、しかしそれこそが現在アメリカで主流の“ヒップホップのイメージ”を正確にトレースしている、とも言える。制作費も大量に使われているのであろう、豪華なPVもそれに追い打ちをかける。

こうしてまた、彼らはヒップホップのワールド・タイムと歩調を合わせ、それを日本に翻訳し、ヒップホップを啓蒙する役割を担っているのだ。

彼らは方法論でもメッセージ性でも、常に良き“翻訳者”であった。そして、そうであるために必要なのは、上からものを言う隠遁者の態度ではなく、現役として一目置かれるに足るフレッシュな存在感である。

キングギドラは活動休止後も(それまでは一歩引いていたDJオアシスまで含めて)活発に活動を続け、常に現役のアーティストして、シーンにアクセスし続けた。

よって、僕などは、彼らがただ「キングギドラ」として復活することにあまりニュース・バリューは感じない。

彼らは常にシーンにいたし、そしてまた、このキングギドラの新作も、昔の名声に寄りかかることのない、極めて現代的な作品だからだ。

文●古川 耕

ご存じの通り、この2枚のシングルは、2002年4月現在出荷停止となり、店頭へ置かれたCDも全て回収された。

「UNSTOPPABLE」及び「F.F.B.」に収録されている楽曲「ドライブバイ」「F.F.B.」に関し、同性愛者やHIV感染者の方々に対する不適切な表現が含まれているとの一部の方々からの指摘から、急遽改めてその歌詞の内容が検討された。メンバーに悪意は決してなかったとはいえ、結果的には、同性愛者やHIV感染者の方々に不快な思いをさせかねない歌詞が一部含まれているとの判断からの回収である。

上記原稿は、問題発生前に執筆されたものであるが、彼らの持つエネルギーと類い希なる才…そして本質的な存在意義を伝えんがための内容に、奇しくもその歌詞が引用されている。

問題となった歌詞の内容に関しては一般市場を流れる商品として“改善されるべきもの”であるという意見にバークス編集部も異論はない。

その上で、音楽メディアとして彼らを見つめ、現在の音楽シーンの一端を鑑みた時、ミュージシャン/アーティストとしての彼らと、その影響力を多くの音楽ファンへ伝えることを“是”と考え、上記原稿に修正を加えることなく掲載することとしたい。

リリース・パーティ@HARLEM 2002/04/04

復活に盛り上がるシーンをよそに、若干の戸惑いを抱いた人も多いだろう。

なんせ、あのキングギドラだ。

最早神格化した感さえある日本のヒップホップ・シーンの伝説的なこのグループを、リアルタイムで経験した者にとってみれば、果たして移ろいの早い今のシーンにおいて以前同様(もしくはそれ以上)の輝きを保つことはできるのか…と危惧してもおかしくはない。ヒップホップに限らず音楽界では、復活~再結成という名の戯言に幻滅させられることも少なくない…。

そんなキングギドラのリリース・パーティが渋谷ハーレムで行なわれた。 会場の外には入りきれないファンが行列をなし、中はラッシュアワーのような状態で動くことすらままならない。この伝説復活への注目度の高さを改めて感じさせ、否が応でも期待感は募る。

そして午前2時を回った頃、アトミック・ボム代表、童子-T、そしてUBGからUZIが登場し、フロアは更に熱気を増す。そして唐突に流れたキングギドラのクラシック「未確認飛行物体」のイントロで会場は狂喜!

大合唱が巻き起こる中、DJ KEN-BOが「大掃除」、「行方不明」など次々とキングギドラのクラシックをミックスし、盛り上がりも頂点に達した時、遂に登場…。絶叫にも近い歓声の中、ジブラ、K ダブシャイン、DJオアシスが揃い踏みし、まずは復活シングルの一曲「UNSTOPPABLE」をキック。狭いステージ上を目一杯に動き煽る2人を前にフロアは一気にモッシュ寸前の状態へ。リリース前だというのにも関わらず、フックを口ずさむ人が多数いたのが非常に印象的だった。
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曲間のMCではいつも以上に饒舌に、そして興奮気味に語るジブラとK ダブシャイン。本人たち自身が如何にこの日を待ち望んでいたかが感じ取れた。

次に ハーレムに集まったギャルたちには少し耳が痛い(?)もう一枚のシングル「F.F.B.」をプレイ。際どいリリックのイメージが先行しているが、パーティ・ソング的な雰囲気も充分持ち合わせている曲なだけに、これまた盛り上がらないわけはない。

そして童子-T、UZIを交えての「平成維新」を披露。各々ソロMCとしてのキャリアを積んでいる4者だけに、実際この並びを目にすると圧倒されてしまう。

K ダブシャインのダイヴまで飛び出すほどの熱狂振りで、さぁ次の曲は何?? なんて期待していたら、アレ? 終わり? 『空からの力』からの曲は…とは思ったが、あくまで今日はリリース・パーティ。その辺の曲は本チャンのライヴまでのお楽しみってことなのかな。

短いながら2002年最新型キングギドラを感じるには充分の時間であり、前述した危惧も一気にフッ飛んでしまった。さらに強靭に生まれ変わったキングギドラが、日本のヒップホップ・シーンのみならず音楽シーンで暴れまわってくれるだろう。

文●升本 徹

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