【連載】Vinyl Forest Vol.11 ── Almunia「New Moon」

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今回、Blue Eclairがご紹介したいのは「Claremont 56」だ。すでに何度か本連載でも取り上げている「Leng」の親レーベルにあたる。主催するのはご存知の方も多くなったであろうか、MuddことPaul Murphyである。そういえば2010年は彼自身、来日をはたしているし、一緒にDJをしたChris Duckenfieldの評判もよかったようだ。

「Claremont 56」は連載第2回でレビューしている「Is It Balearic?」のCoyoteとも親交が深いレーベルだ。レーベル色としてはいわゆるバレアリック系と言われているが、もともとシーンにいわゆるチルアウト系、バレアリック系などと言われるトラックが流れる前から、いやもっと前から彼らはそうであったし、ミニマルテクノが全盛期の時も彼らのスタンスは変わらなかった。本当に自分たちが求めるダンスミュージックを制作し、またルーツとなるバンドやトラックを掘り起こしてはシーンに投下していくスタンスだ。Holger Czukay関連の盤がいくつかリリースされたが、ああいった例もひとつに挙げられるだろう。

「Claremont 56」を少し違った側面から見れば、とてもブランディングが上手いレーベルとも言えるかと思う。そのスタンスが時に“頑固”などとも言われるが、実際は、ただ単に自分たちのスタンスを貫いているだけなのである、今のシーンでこういったスタンスが逆に新鮮なのかもしれない。

本連載のもうひとりの執筆者・Dee-S 氏も私と同様に、2009年頃からこのレーベルには注目していた。当時の私はこのレーベルの音源についてはもともとプレス数が少ないという事もあって、シークレットウェポン的な使い方をしていた記憶がある。スローなテンポからミドルテンポの橋渡しになるようなトラックが多くあり、ヒプノティックな雰囲気を作り出せた。

2010年はレーベルが注目された年でもあったので、リリースも比較的多かったように感じた。そして、2011年一発目のリリースはAlmuniaという新人をフィーチャーしている。A面の「New Moon」は、まず一言で言うと、ベースが太いスローモー・フュージョントラック。どこか哀愁感が漂うアルペジオに泣きのギターが絡み、その上にディレイがかかったエレクトリックな上モノが重ねられたトラックになっている。一方のB面はぐっとBPMを下げた「Travel」のインストバーションで、エレクトロ・ブギーチューンなトラック。

A面はまさに「Claremont 56」のレーベル色が出たな、という印象。今回も500枚しかプレスをしないそうなので、もし見かけたら早めに確保しておいた方が賢明かと思う。

2011年は「Claremont 56」も「Leng」も早い段階からリリースをしている事から、リリース量は前年並になるのでは? と予想できる。個人的にではあるが、リスナーを裏切る盤がリリースされる心配はなさそうに思える。バックカタログは中古市場でもたまに見かけるので、ディグしている最中に見かけたら、一度聴いてみて頂きたいレーベルだ(thanks Mudd)。

text by Blue Eclair

◆Blue Eclairs Room
◆【連載】Vinyl Forest アーカイブ

──【連載】「Vinyl Forest」とは

筆者の私達は音楽好きなのは言うまでもないのだが、それでも年齢を重ねるにつれ不感症になりつつある。原因はハッキリしていて、テクノロジーの進化によって低価格、高品質な制作環境が容易に手に入る昨今にもかかわらず、楽曲のクオリティが退化の一途を辿っているからだ。低コストで在庫を抱えずに済むからレーベルは多くのリリースができる反面、現場ではとても使えないトラックも非常に多い。

そこで、データ音楽販売が主流となった昨今のダンスミュージック界隈の懐事情を鑑みて、

「私たちは、レーベル側が在庫リスクを背負い、インディながらも頑なにVinylをリリースするという行為そのものが、レーベルが充分な楽曲クオリティを保証しているのではないのか?」

という持論(フィルタリング)で巡り会えた珠玉の刺激物と、今では考えられない予算を投じてリリースされた名盤をご紹介していく。

text by Dee-S&Blue Eclair
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