【連載】Vinyl Forest Vol.18 ── Tensnake「I Need Your Lovin'(Tiger&Woods Remix)」

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私、Blue Eclairが今回ご紹介したいのは、ここ2年程で知名度が急上昇中のアーティストであるTensnakeだ。

Tensnakeのトラックと言えば、もはや彼の代表作となった「Coma Cat」が挙げられる。2010年当時、この「Coma Cat」は、リリース直後から話題になり、多くのアーティストからフェイバリットが付けられた。また国内外問わず多くのフロアで流れ、DJ諸氏のミックスにも多く取り込まれた。筆者だけでなく読者の方の中にも、このヴァイナルは購入した方もいるであろうし、国内のレコード店では何度か再入荷していたので記憶にある方も多いと思う。

キャッチーなシンセメロディと、何とも言えない胸キュン感のバランスが絶妙だったこのトラックだが、実はこれはエディットものであって、元ネタはAnthony&The Campの「What I Like」というトラック。これをキラキラした80'sエレクトロブギーに仕上げていた。またメロディーだけでなくジャケットも印象的で、「猫」そのものであったから、記憶に残りやすかった。

さて、読者のみなさんはこのTensnakeの「Coma Cat」のカップリングに収録されていた、B面の「I Need Your Lovin」というトラックがあったことを覚えているだろうか。あまりにもA面の「Coma Cat」の注目度が高かったので、B面のトラックについては記憶にない方も多いのではないかと思う。忘れている方はヴァイナルを引っ張り出して頂き、ぜひとももう一度聴き直してみてほしい。こちらも「Coma Cat」同様に80'sフレーバーが溢れるトラックだった。

少し細かいのだけれど、「Coma Cat」に収録されていた「I Need Your Lovin」は、実はDubバージョン。一方、今回紹介のヴァイナルに収録されているA面の「I Need Your Lovin」はオリジナルバージョンで、また別のトラックである。両者を聴き比べてると、「I Need Your Lovin」は本来ヴォーカル曲であったとわかる。“I Need Your Lovin”というループフレーズを使って、Dubバージョンに仕上げたのが「Coma Cat」の「I Need Your Lovin」であった訳だ。

今回は「I Need Your Lovin」のオリジナル版がA面に収録されている。ヴォーカルがたっぷり収録されていてミッドテンポの80'sフレーバー溢れるトラックでなので、DJ諸氏は多くの場面で使えるのではないかと思う。しかもこのオリジナル版は当面、ヴァイナルのみでのリリースだそうだ。なので、すぐ購入した方が良いと断言しておく。加えて、初回盤はシルバースリープの限定仕様でのリリースだそうだ。

さて、アーティストのあるトラックのオリジナル版が収録されているだけであれば、それほど大きく取り上げられないとは思う。今回は、この「I Need Your Lovin」のリミキサー・Tiger&Woodsに大注目だ。Tiger&Woodsは、ここ数年のNu Disco界隈に突如として出現したミステリアスなアーティストのひとりに間違いなく挙げられると思う。未だ素性はよくわからないが、どうやら、Larry TigerとDavid Woodsというユニットであるようだ。アーティスト名からもう予想はできるが、かの有名な“アノ方”をパロディしているのは間違いないだろう。収録曲やアルバム名にもそれっぽいパロディが散りばめられて、余計な心配をしてしまうぐらいだ。

しかし、ただおちゃらけていないのが、彼らの凄いところ。リリースするトラックがどれもスマッシュヒットを飛ばしている。レーベルにタイガーのスタンプが押してあるだけの簡単な仕様なのに、どのレコード店でも即ソールドアウト状態だ。

というのも、エディットのネタの選び方、ベースの音色、ループの長さ、どれを取っても彼らがエディットするとTiger&Woodsっぽいトラックに変身してしまう。今回の「I Need Your Lovin’(Tiger&Woods Remix)」は、リミキサーを伏せ字にして聴いたとしても、彼らのファンであれば、なんとなくTiger&Woodsっぽいと感じるはず。彼らのトラックを分析すると、イントロから最初の音のスタート、各所の音の配置方法やブレイクまでの引っ張り方などは、完全にフロアで踊ることを想定していると感じる。特にベースにはこだわりがあるのではないかと思う。聴くとなぜか踊ってしまうトラックが多いのだ。今回の「I Need Your Lovin'(Tiger & Woods Remix)」は、彼らお得意のループを繰り返して繰り返して、じらして、ヴォーカルまで持っていく展開。他のトラック同様、年末にかけて様々なフロアで流れるのだろう。

Tiger&Woodsについて一言で表現すれば、「今っぽいNu Disco」。彼らのようにエディットで個性を際立たせているアーティストは多くなく、数枚のヴァイナルをリリースし、今年はRunning Backレーベルよりアルバムもリリースしている。

実は驚きの情報があるのだが、音楽配信サービス・Soundcloudには、彼らの「Wiki&Leaks」という、かの有名サイトをパロディしたアルバムがフリーでダウンロードできる状態になっている。タイトルから察するに、新曲をリークされたというプロモーションなのだろうか。全曲が彼ららしさたっぷりのトラックなので、もしNuDisco系のトラックを制作したい方などは、ぜひ、一度彼らのトラックを聴いてみてほしい。きっと何かのヒントを得られると思う。

text by Blue Eclair

◆Blue Eclairs Room
◆【連載】Vinyl Forest アーカイブ

──【連載】「Vinyl Forest」とは

筆者の私達は音楽好きなのは言うまでもないのだが、それでも年齢を重ねるにつれ不感症になりつつある。原因はハッキリしていて、テクノロジーの進化によって低価格、高品質な制作環境が容易に手に入る昨今にもかかわらず、楽曲のクオリティが退化の一途を辿っているからだ。低コストで在庫を抱えずに済むからレーベルは多くのリリースができる反面、現場ではとても使えないトラックも非常に多い。

そこで、データ音楽販売が主流となった昨今のダンスミュージック界隈の懐事情を鑑みて、

「私たちは、レーベル側が在庫リスクを背負い、インディながらも頑なにVinylをリリースするという行為そのものが、レーベルが充分な楽曲クオリティを保証しているのではないのか?」

という持論(フィルタリング)で巡り会えた珠玉の刺激物と、今では考えられない予算を投じてリリースされた名盤をご紹介していく。

text by Dee-S&Blue Eclair
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