KORG x littleBitsからシンセを組み立てられる「Synth Kit」登場、その他ラインナップも同時発売 - Maker Faireレポート

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コルグ・KID(KORG Import Division)は、littleBits社のコルグとのコラボレーションによる「Synth Kit」および現行ラインナップ「EXPLORATION シリーズ」を日本国内で12月中旬より発売する。11月3日にはDIYの祭典Maker Faire会場でプレスカンファレンスが開催され、littleBitsの開発者らによるデモも行われた。本稿ではその模様もあわせてお届けする。

シンセサイザーを組み立てられる回路キット「Synth Kit」が発表されたのは、11月3、4日に日本科学未来館で行われた地上大最大のDIYの展示発表会「Maker Faire Tokyo 2013」(オライリー・ジャパン主催)の会場。「Maker Faire」は、エレクトロニクス(電子工作)、ロボット、クラフト、アート、サイエンス、音楽など、さまざまなジャンルの「Maker」が集うDIYの祭典。アメリカ発のテクノロジー系DIY工作専門雑誌として2005年に誕生した「Make」のコミュニティにより成長を続け、全世界的なムーブメントとなった「Makerムーブメント」のお祭りだ。電子工作ガジェット「littleBits」の製品発表の場として最もふさわしいシチュエーションだ。今回発表されたのは「Synth Kit」のほか、複数のモジュールを組み合わせたセットである「EXPLORATION SERIES」3種。「EXPLORATION SERIES」はすでに海外で販売されているものだが、「Synth Kit」については日本での発表が世界初のお披露目の場となった。


■モジュラー・シンセサイザーが組み立てられるSynth Kit


▲Synth Kitを構成するBitsモジュール。左上よりオシレーター(2個付属)、ランダム、キーボード、マイクロシーケンサー、エンベロープ、フィルター、ディレイ、ミックス、スプリット、スピーカー、ワイヤー。このほかパワー・モジュールが付属。

「Synth Kit」は、自宅で手軽にカスタマイズや拡張可能な“自分だけの”モジュラー・シンセサイザーを組み立てられるキット。初心者にピッタリの電子工作ガジェットlittleBitsが、電子楽器メーカーのコルグとコラボレーションにより誕生。ミュージシャンや、新しいサウンドを求めるエンジニア、そして音楽とテクノロジーの関係を探求したい、音楽を趣味としているすべての人々に向けて開発されたものだ。

「Synth Kit」は、「Bitsモジュール」と呼ばれる12個のモジュールで構成される。組み立ては機能ごとに色分けされた各モジュールを小さな磁石でつなぎ合わせることで行う。この際に磁石の極性により間違った方向に接続されることがないのがポイント。「Synth Kit」のモジュールの種類は、パワー(電源供給モジュール)、オシレーター(×2)、フィルター、エンベロープ、ディレイ、キーボード、マイクロ・シーケンサー、ミックス、スプリット、ランダム、シンセ・スピーカー。モジュールの一部はコルグの有名なアナログ・シンセサイザーで使用していた回路をベースに開発したものである点にも注目。フィルターにはコルグのシンセサイザーMS-20の回路を採用している。

「Synth Kit」なら、何度でも組み換えができるモジュラー・シンセサイザーを作り上げることが可能。しかも、littleBitsシステムは拡張性があるので、複数の「Synth Kit」を組み合わせてさらにパワフルなシンセサイザーを構築することもできるし、その他のlittleBitsモジュールを組み込んで、光やメカを使用したシステム作りも自由自在。鍵盤ではなく光で音をコントロールするなんてことも可能。その際も面倒なハンダ付けや配線、プログラミングは一切不要なので、子供から大人までだれでも楽しめるというわけだ。回路組み立ての手順を解説した付属のプロジェクト・ブックレットには10種類の工作例を掲載。また、各モジュールの回路はオープンソースとなっており、これらの回路をベースに新たな回路を設計することも可能となっている。

付属の12個のBitsモジュールの概要は以下のとおり。

●ブルーのパワー・モジュール:
・Power(付属の9V電池とケーブルを接続し、モジュラー全体に電源を供給)
●ピンクのインプット・モジュール(9個):
・Oscillator(×2。大元となる音を作り出すモジュール。pitchとtuneを調節可能。square/sawの波形切り替えも可能)
・Random(ホワイト・ノイズを出力するnoiseモード、ランダムな電圧信号を出力するrandom voltageモードを用意)
・Keyboard(1オクターブ分13個のスイッチでメロディを弾くことができる。オクターブの切り替えも可能)
・Micro Sequencer(連続したメロディを作り出す。4つのノブのポジションで決められた電圧をステップごとに順番に出力)
・Envelope(音に音量変化を加え、ピアノのようにアタックの強い音やサックスのように緩やかに音量が変化する音を作ることが可能。attackとdecayを調節可能)
・Filter(音に大きな変化を与える。cutoffとpeakを調節できます。MS-20後期型のフィルター回路を採用)
・Delay(エコー効果を実現します。timeとfeedbackを調節可能)
・Mix(2つの信号を1つに足し合わせて出力。それぞれの入力のボリュームも調節可能)
●オレンジのワイヤー・モジュール:
・Split(信号の流れを2つに分岐できる)
●グリーンのアウトプット・モジュール:
・Synth Speaker(ボリューム調節可能。アウトプット端子も搭載)

■すぐに工作が始められるEXPLORATION SERIES

音以外のインタラクティブなもの、動くものに興味があるという向きには、さまざまな電子工作が楽しめる「EXPLORATION SERIES」がオススメ。Btisモジュール10個セットの「Base Kit」、14個セットの「Premium Kit」、18個セットの「Deluxe Kit」の計3種類をラインナップする。いずれもハンダ付け不要、プログラム不要、配線不要でさまざまな電子回路を組み立てることができる。Bitsモジュールは機能ごとに色分けされ、モジュール同士を磁石で接続して大きな電子回路を組み立てることが可能。「Base Kit」なら15万種、「Premium Kit」なら60万種、「Deluxe Kit」なら100万種以上の電子回路が製作できるという。

「Base Kit」には、インタラクティブな工作に必要なすべてのモジュールを収録。9V電池、車輪やダンボールなどをDCモーターに取り付けやすくするモーターメイトを付属する。「Premium Kit」には圧力センサー、バイブレーター、そして前後方向にスイングさせるなどのコントロールも可能な最新のサーボ・モーターを収録。「Deluxe Kit」にはサウンド・トリガー、ライト・ワイヤー、DCモーター、サーボ・モーター、モジュール同士の接続に便利なワイヤーや付属品も多数入っている。


▲EXPLORATION SERIESは3種類、左からBase Kit、Premium Kit、Deluxe Kit。ボックスの周りにあるのは、各キットで作成できるプロジェクトの例。音や光に反応して、LEDを光らせたり、モーターで何かを動かしたり、アイディア次第でさまざまなものが作れる。

◆Synth Kit
価格:オープン(コルグオンラインショップ価格 16,000円)
◆Base Kit
価格:オープン(コルグオンラインショップ価格 11,000円)
◆Premium Kit
価格:オープン(コルグオンラインショップ価格 16,000円)
◆Deluxe Kit
価格:オープン(コルグオンラインショップ価格 21,000円)
発売日:2013年12月中旬予定

■子供から大人まで、楽器ができない人にも、できる人はカスタム楽器を


プレスカンファレンスでは、はじめに商品開発担当者Paul Rothman(ポール・ロスマン)氏が登壇し、littleBitsの魅力やそのねらい、今後の展開について発表を行った。氏はデザイナーやアーティストとしての活動のほか、電子工学とインタラクティブデザイン分野をメインに活躍するMakerであり、ニューヨーク大学で音楽技術の学士号とインタラクティブ・テレコミュニケーション・プログラムの修士号を獲得、現在は学生の指導にも当たっている人物。実際にEXPLORATION SERIESのBitsモジュールを使った製作のデモンストレーションや、ウェブサイトで見ることができる作例の紹介を交えつつlittleBitsの魅力が伝えられた。


ボタンの操作や音、明るさに反応するインタラクティブな作品がカンタンに作れること、磁石によりカンタンにくっつき、その特性によって間違ってつなぐこともないこと、キットによりモジュールの数は違うものの、どのキットであってもいろいろな形で作品が作れることなどが示された。また「Synth Kit」については、「今日の発表のアナウンスを楽しみにしていた」と語り、コルグの協力に謝辞を述べるとともに8~9カ月のプロジェクトとなったことなどが紹介された。


子供がSynth Kitを組み立てるシーンを含むプロモーション映像の上映のあとはコルグの開発者も登壇。monotron、monoribe、volcaなどコルグの次世代アナログ・シンセを中心に開発を行うコルグ開発部の高橋達也氏、アナログ・シンセのほかKAOSSILATORをはじめとするガジェット楽器製品、DSD製品など数多くの商品企画を手がける商品企画室の坂巻匡彦氏がRothman氏とともに席についた。


▲開発に携わったメンバーが登壇。写真左はコルグの高橋達也(左)と坂巻匡彦氏(右)。

Rothman氏はまず、「Synth Kitはシンセサイザーが持っているそれぞれ機能をモジュール化して、ばらしたもの」と説明。続いて高橋氏がオシレーター、エンベロープ、ディレイ、キーボード、スピーカーなど各モジュールの機能と、つなぎ方が音を出しながら説明していく。シーケンサーでトリガーし音を出したままでモジュールをつないだり外したりを繰り返しても問題ない点には驚かされた。確かにこれなら子供でも気にせず使えると実感させられた場面だ。


共同開発の経緯については、坂巻氏が今年の1月に「littleBitsの音版を作りたい」と同社を訪問。「うまくいかないんだろうなあ、でも興味を持ってもらえたらいいな、ぐらいで行ったんですが、ものすごく食いつきがよくて。で、ミーティングをちょっとしたら『やろう』ということになってそっからすぐに検討が始まって開発が始まった」と紹介された。

続いてどんな人に使ってほしいかという質問には、「音に興味がある人全員」「音楽をやろうと思うとどうしても楽器の演奏になってしまう」「もっと純粋に音自体を触るってことを楽しんでほしい」「粘土で形を作るのと同じ感覚で、音を形づくることができるんです」「僕らみたいな世代の人間もそうですし、子供だって積み木をやるようにこれで遊んだらおもしろいんじゃないか」と坂巻氏。Rothman氏は「ほんとに幅広い人に。小さい子供から大人まで楽しんでほしい」「特に音に興味のある人、エレクトロニック・ミュージックに興味がある人。でも、どういうふうにシンセサイザーに手をつけていいかわからなかったような人に、これをきっかけに何か自分で作り始めてもらって、最終的にはいろいろなところで自分のサウンドの能力を広めてもらうようになってほしい」「ただ、それだけじゃなくてミュージシャンとして活躍している人たちにも。楽器を使いこなせるけれども、そこにとどまらず自分達でカスタムの楽器を作って、自分達の頭の中にある音をいろんな形で体現してもらいたい」とした。

また、子供の音楽教育がlittleBitsでどう変わるかという質問には「ぜんぜん変わるんじゃないですかね」「子供が音楽をやろうと思うとピアノやバイオリンになっちゃうと思うんですけど、これだったらエレクトロニック・ミュージックが初めから始められる」「そういう機会って今までなかったと思うんで、これから10年後音楽シーンがどう変わるかすごい楽しみです」と坂巻氏。高橋氏は「これの試作ができあがったときに楽しすぎてびっくりしたんですけど。とにかく早いし思うままにいろんな組み合わせができる」「たとえばディレイを発振させたのをオシレーターに入れたりとか無理なこともばんばんできちゃうので」「ラック式のモジュラー(シンセサイザー)よりもおもしろいんじゃないかなと思ってるんで」「(これまでとは)違うスタンスでシンセシスを扱えるようになった」とコメント。最後はRothman氏。「これまでの音楽教育でトラディショナルな形でやっていた場合だと、『楽器を学べなければ』というところでひっかかっていたお子さんもいると思います。ですが、そうではなく、サウンドにまず興味を持って、そこから実際に何かをやっていもらうという機会を展開できる」「これで楽しんでもらって、後から楽器について技術的なことを『もっと詳しく勉強しよう』と思ってもらうことができるので期待しています」とした。

その後は登壇者3人によるSynth Kitを使ったセッションが披露された。3人の担当するモジュール群を同期してシーケンスを鳴らす、LFOやフィルター、エフェクトでサウンドを変化させる、ノイズを出す、volcaのリズムも同期させるなどさまざまな音を聴かせた。ぶっつけ本番の即興とは思えない演奏で会場を沸かせた。

そして、最後にもう一言ずつ発言。「いろんな楽器を作ってきましたけど、一番だれでも使えて、一番楽しいものだと思うんで、このMaker Faireの期間中に試してほしい(坂巻氏)、「今までmonotronやmonotribe、volcaとアナログ製品を作ってきて、そこで培った技術がこの中に詰まっている」「音質的にも胸を張れる、すばらしいものができたと思う」(高橋氏)。最後はRothman氏により「ようやくリリースすることができたかと、すごくうれしく思っています。これからいろいろな人がいろいろな音を作って驚かされるんだろうなあと思っています。これからこれを使っていろんなサウンドを作ってもらいたいと思います」と締められた。


▲セッションに使われたSynth Kitを中心としたBitsモジュール群。さまざまなモジュールに加えコルグのvolcaも同期して使用。

プレスカンファレンス後には一般来場者向けのプレゼンテーションや、Paul Rothman氏とIAMAS准教授の小林茂氏とのトークセッションも開催。小林氏の「アナログ・シンセサイザーの歴史の中でも革命と言っていい」「歴史的な瞬間にみなさんといっしょに立ち会ってるんじゃないか」というコメントが印象に残った。また、展示会場のコルグブースも大盛況。ちょっと触っただけでブースの担当者に「○○はできるの?」「発売日は?」「価格は?」と聞く人が多く、littleBitsの親しみやすさが実感できる展示となっていた。


▲展示会場のコルグのブースにもlittleBits製品が展示。実際に手にとって試せる展示には多くの来場者が集まり、写真撮影もままならないほど。親子連れが目立ったのも大きな特徴。littleBits製品のほか、monotoronやkaossilatorなどのガジェット楽器も多数展示。

◆littleBits日本語ウェブサイト
◆コルグ
◆BARKS 楽器チャンネル
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