ローランド「HS-5」、アンプ・モデリングやエフェクトも内蔵しいつでもどこでも即セッションを楽しめる“セッション・ミキサー”

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ローランドから、新たなコンセプトのミキサー「HS-5」が登場した。ミキサーというと、レコーディングやライヴのPAなどで使う、あの四角い機材を思い浮かべるかもしれないが、この「HS-5」はそれとは少し違う。円形を基本とするユニークなデザインのこの製品は“セッション・ミキサー”と名付けられているように、バンドで手軽にセッションするためのミキサーだ。ギターやベース、キーボード、マイク、それにV-Drumsのような電子ドラムなどを接続して最大で5人まで、全員がヘッドフォンでモニターしながらセッションすることができる。

マルチエフェクターなどで人気の高いCOSM(楽器やアンプの物理的特性をモデリングするローランド独自の技術)のエフェクトも各入力に搭載し、ギターやベースに適したアンプ・モデリングやヴォーカル用のコンプレッサーなどを使えるから、楽器だけを持ってくればすぐにスタジオ同様の音でセッションができる。また、モニターは各人の好みに合わせて楽器のバランスを自由に設定できるので、全員が聴きやすくプレイしやすい環境でセッションできるのも特徴だ。さらに、USBメモリに演奏を録音可能、PCと接続すればマルチトラックでの録音も可能になっていて、セッションを基に曲作りもできるし、教室や自宅など場所を問わずちょっとした練習や気軽なジャム・セッションが楽しめる。


■みんなで囲める使いやすいインターフェイス


最大で5人までセッションできる「HS-5」だから、入力はもちろん5系統。入力AからDまでの4つは背面に端子があり、それぞれマイクと楽器を同時に入力可能で、後述のエフェクトなども使え、ギター入力用にレベルを切り替えることもできる。楽器用入力はLとRの標準フォーンで、ギターなどのモノラル音源はL側だけ、シンセなどステレオ出力の楽器はLとR両方を使う。ダイナミックマイクを接続可能なマイク端子はバランス(XLR)タイプで、ノイズに強い設計だ。5番目の入力Eは側面にあり、ここには標準フォーンでステレオのライン入力のみが用意される。電子ドラムやシンセなどエフェクトが不要で、ヴォーカル・マイクを同時に使わないメンバーがここを使うことになるだろう。


また、各メンバーがモニターするヘッドフォン用の出力は、「HS-5」の側面に放射状に間隔をあけて配置されている(Eのみ、メイン出力のMAIN MIX OUTのヘッドフォン出力を使う)。だから演奏するときには、バンドのメンバーは「HS-5」をぐるりと取り囲むように集まることになる。まるでみんなで鍋でもつついているような感覚で、楽しくセッションできるというわけだ。ちなみにヘッドフォン出力は、標準フォーンとミニジャックの両方が用意されているので、様々なタイプのヘッドフォンを使えるのもうれしいところだ。

「HS-5」の基本的な使い方は、楽器やマイクを接続し、音量のバランスをとるだけ。ミキサーだから使い方に難しいところはない。ただし、ひとつだけ守るべきルールがある。それは、入力したのと同じ名前のセクションでモニターすることだ。たとえば、ギターを入力Aに接続したら、そのギタリストはセクションAを使ってヘッドフォンでモニターする。入力Bにヴォーカルマイクを接続したら、そのヴォーカリストはセクションBでモニターする、ということだ。「HS-5」では入力した音を、同じ名前のセクションに“自分の音”として他の音と区別して出力していて、これによって自分の音と他のメンバーの音のバランスをとることができるようになっているからだ。


■COSMアンプ・シミュレーター/エフェクト内蔵でこれだけで音作りも可能

では、セッションを行なうときの実際の手順を見ていくことにしよう。マイクや楽器を入力端子に接続、各セクションにヘッドフォンをつないだら、まずは各楽器の入力レベルの調整を行なっておこう。入力レベルは、中央上部にあるAからEのつまみの周囲にあるインジケーターで表示される。レベルが高くなるにしたがって、緑のLEDが時計回りに点灯するし、レベルオーバーのときは右端の赤いLEDが点灯するから、調整は簡単だ。赤が点灯しない範囲で、緑のLEDが多めに点灯するように調整するのがコツだ。マイクを接続した場合は、上部にあるマイク・ゲインつまみでゲインを調整できる。ただ楽器用のゲイン調整はないので、楽器のほうで音量を調整しておく必要がある。楽器側で調整が難しいギターなどを基準に、シンセのボリュームを調整するなど他の楽器を合わせるようにするといいだろう。なおギターやベースの場合は、そのままではレベルが低くなることが多いが、本体裏面にあるHi-Zスイッチをオンにすれば、適正レベルで調整することができる。

「HS-5」で手軽にセッションできる大きな理由のひとつが、ギターやベース、ヴォーカル用のエフェクトやアンプ・モデリングが内蔵されていることだ。楽器とケーブルだけを持ってくれば、音作りも「HS-5」に任せてOK。初めに入力レベルをある程度決めてからエフェクトで音を作り、再びレベルを調整するのがいいだろう。たとえばAにギターを入力した場合は、まずセクションAのINPUTボタンを押してインプット・タイプを選択する。インプット・タイプはGTR(ギター)、BASS(ベース)、MIC(マイク)、LINE(ライン)の4つが用意されていて、これを選択することでそれぞれの楽器に合うエフェクトを使うことができる。

ギターの場合は、10タイプのアンプを選べる。INPUTボタンを押しながらAつまみを回せば、次々にエフェクトが切り替わる。たとえばつまみを回して左端のインジケータが点灯すれば、澄んだクリーン・トーンが特徴のJC-120、もう少し回して次のインジケータが点灯すると、フェンダーのTwin ReverbをモデリングしたCLEAN TWINになる。このほか、カッティングをシャープに刻めるフェンダーBassmanコンボをモデリングしたTWEED、懐かしいブリティッシュサウンドのVOXのAC-30をモデリングしたVO DRIVEも用意されている。より歪んだサウンドとしてはヴィンテージ・マーシャルをCOSM技術によって改造したハイゲインサウンドのMS HIGAINもあるし、Marshall 1959のインプットIとIIをパラレル接続したMS 1959 I+IIや、MESA/Boogie DUAL Rectifier(いわゆる“レクチ”)のR FIER VNTなど、図太く過激に歪むサウンドもあって、幅広いジャンルに対応しそうだ。また、INPUTボタンを長押しすれば、Aのつまみでエフェクトのかかり具合を調整できるし、B~Dのつまみがそれぞれ低域、中域、高域のボリュームになって、アンプのトーン・コントロールのように使えるので、音作りの幅も広い。さらにEのつまみでパン(左右の定位)を変えられるのもポイント。ドラムをセンター、ギターは少し左、シンセは右、というように、楽器ごとに少しずつ定位を変えておけば、全員でプレイしたときでもすっきりと聴き分けやすくなるだろう。

ベース用にはコンプレッサー、スラップ用のコンプレッサー、ベース用のクリーン、ハイゲインなど5つのエフェクトが用意される。ベースらしい音を手軽に作ることができるし、ギター同様にアンプを通したようなリアルなサウンドが得られるので、ヘッドフォンでのモニターでも違和感はない。また、インプット・タイプでMICを選んだ場合は、ヴォーカル用のコンプレッサーや、コンプレッサーとディレイ、コンプレッサーとエコーを組み合わせたエフェクトなど5種類を選べる。どれもかかりはやや控えめだが、少しかけると声に艶が出るし、もちろん声が引っ込んでしまうようなことがなく、使いやすいエフェクトだ。そしてLINEを選べばエフェクトはかからない。シンセや電子ドラムなど、エフェクトをかけたくない場合はLINEを選ぶことになる。ちなみに、マイクと楽器を同時に接続した場合にGTRやBASSを選択してエフェクトを使っても、エフェクトがかかるのは楽器だけ。ギタリストのコーラスが歪んでしまうようなことはもちろんない。

それぞれの音作りができたら、すべてをミックスしたときにいいバランスになるように、楽器ごとの音量を調整しておこう。MAIN MIXのボタンを押して点灯させ、AからEのつまみで各楽器の音量を設定すればいい。

■全員が好みのミックスバランスでモニターできるサブ・ミキサー


「HS-5」の大きな特徴は、セッションに参加しているメンバー全員が、好みのバランスでモニターできることだ。それを調整するのが、円形の部分にあるモニター出力のセクションだ。扇形に区切られたセクションはAからDまでの4つで、ここでヘッドフォンのモニター音量を調整したり、リバーブをかけたりすることができる。前述の“自分の音”と他の音のバランスをとるのがMY MIXのつまみだ。左に回すと自分の音が小さくなり、右に回せば自分の音だけを大きくモニターすることができる。自分の音がまったく聴こえないと演奏が不安定になりがちだし、他の音もしっかりモニターしないとよいアンサンブルにはならないから、ここは慎重に設定しよう。また、REVERBのつまみで“自分の音”にリバーブをかけることも可能だ。リバーブがかかると艶やかになって心地よい音になるのだが、埋もれて聴こえにくくならないよう、かけ過ぎには注意しておこう。リバーブ・タイプはECHO(エコー)やROOM(ルーム・リバーブ)、PLATE(プレート・エコー)など5タイプが選択でき、AからDのつまみでリバーブ・タイムやリバーブのレベルも設定可能だ。

ここまでの調整だけでも、かなりやりやすいモニター環境を作ることができるのだが、「HS-5」にはさらに詳細にモニターのバランスを設定できる機能がある。それがサブ・ミキサーだ。サブ・ミキサーを使うと、全体のアンサンブルにおける各楽器の音量バランスのほかに、メンバーごとにバランスを変えることができるのだ。ちょっとレコーディングに詳しい人なら、いわゆるキューボックスを思い浮かべればいい。キューボックスは、レコーディング時に手元にある小さなミキサーで、ギターはこれくらい、ドラムはもう少し大きく、といった感じで、プレイする人がやりやすいように個別にバランスを設定できるものだが、「HS-5」ではあれと同じことをAからDのセクションで設定することができるのだ。

サブ・ミキサーを使うには、中央にある各セクションのMIXのボタンを押す。たとえばMIX Aを押して点灯させると、セクションAのサブ・ミキサーが呼び出され、セクションAのモニターのバランスを設定することができる。サブ・ミキサーを呼び出したあとは、MAIN MIXで全体のバランスをとるときと同じ。AからEのつまみで、それぞれに入力した楽器の音量を調整すればいい。

バンド経験者なら、ちょっと使うだけでこのサブ・ミキサーの便利さがよくわかるはずだ。スタジオでセッションするとき、なかなか全員が納得できるバランスにならないことも多いだろう。生音のドラムに合わせて音量を調整しなければならないのに、ギタリストはアンプを鳴らしきるために大音量を出したがるし、ヴォーカルが聴こえないからといって無理して音量を上げるとハウリングで“キーーーン”。誰もがそんな経験をしたことだろう。しかし「HS-5」でのセッションならそんな心配はいらない。全員にとって無理がなくもっともやりやすい環境でプレイできるはずだ。

また、このサブ・ミキサーがあるおかげで、コーラス・ハーモニーの練習にも「HS-5」は重宝する。コーラスするときは他の人の声につられることもよくあるから、自分の声をしっかり聴いていないとピッチが定まらない。逆に他人の声もちゃんと聴かないとうまく合わせてハモるのは難しい。どちらもきちんと聴こえ、歌いやすい状態に調整できる「HS-5」は、アカペラグループの練習にも向いているし、バンドでコーラス・ハーモニー部分だけをアカペラで練習するような場合にも便利に使えるだろう。

これらのミキサーの設定は、USBメモリに保存することができる。曲ごと、あるいはメンバー構成ごとに設定を保存しておけば、いつでも最適な環境でセッションを楽しめるというわけだ。

■USBメモリやPCには録音可能、PCにはマルチトラックで

「HS-5」でのセッションを録音することも可能だ。とくにジャム・セッションから曲を作っていくバンドの場合は、つねに録音しておくことをおすすめする。セッション中に偶然生まれた素晴らしいフレーズも、録音しておけば、あとで思い出せずに悩むことがなくなるからだ。録音は、USBメモリとPCで行なうことができる。USBメモリを左側面の端子に接続しておけば、「HS-5」本体中央の録音ボタンを押すだけで、一度に200分までのセッションを残すことができる。もちろん再生ボタンを押せば、USBメモリにあるセッションを聴くことが可能だ。


PCと接続した場合はさらに高度な録音が可能だ。「HS-5」をUSB接続してDAWソフトを起動すると、MAIN(HS-5)というステレオの入力デバイス(録音できるポート)が認識される。これが「HS-5」のメインミックスなので、これを録音すれば全体を1つのステレオトラックにまとめることができる。そしてこのほかに1-2(HS-5)、3-4(HS-5)…といったように5つのステレオデバイスもあり、これが「HS-5」のAからEの楽器の出力にあたる。つまりこれらをDAWソフトの別々のトラックに割り当てれば、マルチトラックでの録音ができるのだ。たとえばフレーズをコピー/ペーストしたり、プラグインや外部エフェクトでギターをリアンプしたり、様々な編集ができるので、ジャム・セッションを基に緻密な曲作りをすることも可能だろう。

手軽にセッションができて文句なく楽しい「HS-5」は、それだけではなく、曲作りや練習にも役立つ点が多いのがユニークなところだ。とくに頻繁にスタジオを使えないアマチュア・バンドには便利だろう。もちろんスタジオで大きな音で鳴らしてセッションするのも楽しいし、それは必要なことなのだが、適切な音量できちんとモニターできていなければ、どこがよくてどこが悪いかもよくわからないから、アンサンブルを向上させるのも難しい。なかなか上手くならない、そんな悩みを抱えているバンドは、ぜひ一度「HS-5」を使ってみてほしい。今まで気づかなかった色々なことが見えてくるだろう。

●「HS-5」主な仕様

・内部処理
サンプリング周波数:44.1kHz
信号処理:AD/DA 変換=24 ビット
・レコーダー
トラック数:2 トラック(ステレオ)
レコーディング・モード:USB メモリー=WAV(44.1kHz、16 ビット)
記憶メディア:USB メモリー(512MB ~ 32GB)
録音時間(単位:時間):2GB=3、4GB=6、8GB=12、16GB=24、32GB=48
※ 録音時間は目安です。USB メモリーの仕様などにより変わることがあります。
※ 録音されたファイルが複数ある場合、合計の録音時間はこれより小さくなります。
※ 1 曲あたりの録音時間は最大200 分です。
録音曲数:512 曲
・エフェクト
ギター用:ギタープリアンプ(Amp)=10 種類
ベース用:プリアンプ(Amp)=5 種類
ボーカル用:コンプレッサー、イコライザー、ディレイ
リバーブ(Reverb): 5 種類
・入出力
オーディオ入力:セクションA ~ D = MIC 端子:XLR タイプ(バランス)、INPUT L/R 端子:標準タイプ(アンバランス)※ 1、セクションE = INPUT L/R 端子:標準タイプ(アンバランス)、ステレオ・ミニ・タイプ ※ 1 INPUT L 端子はハイ・インピーダンスに対応
オーディオ出力:セクションA ~ D = PHONES 端子:ステレオ・標準タイプ、ステレオ・ミニ・タイプ、セクションE = PHONES 端子:ステレオ・ミニタイプ、OUTPUT L/R 端子:標準タイプ(アンバランス)
周波数特性:20Hz ~ 20kHz(+0dB / -2dB)
規定入力レベル:セクションA~D=MIC端子:-61~-13dBu、INPUT L/R端子:+4dBu(ハイ・インピーダンス時 INPUT L:-5dBu)  セクションE=INPUT L/R端子:+4dBu、ステレオ・ミニ・タイプ:-10dBu
規定出力レベル:セクションA~D=PHONES端子:+6dBu  MAIN MIX OUT=PHONES端子:+4dBu、OUTPUT L/R端子:+4dBu
・外形寸法 / 質量
幅 (W)257 mm、奥行き (D)248 mm、高さ (H)68 mm、質量1.1 kg

◆「HS-5」製品ページ
◆ローランド
◆BARKS ローランド チャンネル
◆BARKS 楽器チャンネル
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