いつまでも色褪せないロックの名曲を手に入れよう AORのすべてVol.1

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世代を問わず、誰もが今でも楽しめる名盤、名曲は、'70年代後半から'80年代にかけて数多く登場する。
ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、
大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高い作品が次々に送り出されるようになったのだ。
とくに顕著なのは、'80年前後に一大ブームとなったAORだ。
AORには都会的でおしゃれなイメージがあるが、ボサノバやジャズを取り入れた軽いタッチのものから、
ブルースやソウルをベースにした泥臭いもの、さらにはハードロックまでさまざまなジャンルが含まれる。
共通するのは、緻密なスタジオ作業で入念に練り上げられたサウンド、メロディを大切にした歌のよさ、
そしてアルバムとしての完成度の高さだ。
今回紹介する40枚のアルバムも、今もって聴き応え十分な名盤ばかりだ。

ちなみにAORとはアダルト・オリエンテッド・ロック、つまり大人向けのロックの略称だというのが一般的だが、
実はご当地アメリカではAORといえば“アルバム”・オリエンテッド・ロックのこと。
シングル狙いのアイドルではなく、アルバム単位でじっくり聴かせるアーティストの音楽がAORなのだ。

この夏、ビールのCMで流れる平井堅の歌声に耳を奪われた人も多いのではないだろうか。メロディになんとなく聴き覚えがある、そう思った人もいるに違いない。それもそのはず、あのバラードは、'73年にイーグルスが発表した「デスペラード(ならず者)」という曲がオリジナルで、リンダ・ロンシュタットカーペンターズなどのビッグネームを含め、さまざまなアーティストがカヴァーしている名曲中の名曲なのだ。
イーグルスはもともと、「ロスの歌姫」として大人気だったリンダ・ロンシュタットのバックバンドとして集められたメンバーにより結成された。'72年のデビュー以来、最大のヒットとなった「ホテル・カリフォルニア」をはじめ、「テイク・イット・イージー」「ニュー・キッド・イン・タウン」など数多くの名曲を生み出し、ウエストコーストロックの立役者として'70年代を通して活躍した。'80年には後期メンバーのジョー・ウォルシュが大統領選に出馬するまでに上り詰めている。その間、数回のメンバーチェンジを経て、スタイルも変遷するが、枯れた味わいと哀愁、それにロックの骨太さが共存するメロディラインは、つねにイーグルスのトレードマークであり続けた。「デスペラード」もまさにそんな名曲だ。平井堅の甘いトーンとは雰囲気の違うオリジナルも、ぜひ聴いてみてほしい。そのイーグルスは、'82年に活動を停止したあと、'94年に復活、この秋には来日公演も決定している。この機会に、大人のロックの名盤もじっくり堪能してみたいものだ。



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マーヴィン・ゲイ 『ホワッツ・ゴーイン・オン』

'61年にモータウン・レーベルからデビューして以来、実父に射殺される'84年まで、メッセージ性の強い歌詞と甘くセクシャルな声を武器に、数多くの傑作を生み出し続けた。'71年の本アルバムは、ジャズやクラシックの要素も取り入れ、洗練されたアーバン・ソウルの先駆けとなった名盤だ。歌詞は政治色が強いが、音の方はまさに思わず腰が動くソウル。
クイーン 『オペラ座の夜』

クイーンが初めて全米1位になったのは意外にも'79年、ロカビリーテイストの「愛という名の欲望」だ。その後のヒット作も多いが、名盤といえばやはりこの「オペラ座の夜」。多重録音によるギターオーケストレーションやゴスペルばりの重厚なコーラス、そしてドラマチックな曲構成。凝りに凝った作風が確立されている。多彩な曲を一気に聴かせる構成も見事の一言だ。

ボズ・スキャッグス 『シルク・ディグリーズ』

泥臭いサザンロックをルーツに持つ彼が、ミスターAORと呼ばれるきっかけとなった作品。白人とは思えない「濃い」声と洗練されたセンス、R&Bやソウルを取り入れたサウンドが見事にマッチしていて、その後のAORに多大な影響を与えた。都会的でメロウながら、男らしい骨太さも感じられるのがボズ・スキャッグスらしい。ロックに「大人」を持ち込んだアルバム。
ジョージ・ベンソン 『ブリージン』

ギターソロを弾きながら同時にスキャットを歌う独自のスタイルで有名なジャズギタリストのジョージ・ベンソンが、ヴォーカルでポップシーンに出た作品。曲はインストゥルメンタル中心だが、ジャズ・フュージョンではなくポップソングに仕上がっている。「This Masquerde」ではヴォーカリストとしても一流であることを証明し、80年代以降は歌モノのヒット作も連発した。

イーグルス 『ホテル・カリフォルニア』

持ち味の底抜けに明るいカントリーロックに重厚なサウンドが加わった本作は、カントリーロックをよりハードに、という結成時のコンセプトが結実した一枚。ウエストコーストならではの明るさと、大人びた落ち着きの両方がうまくミックスされている。枯れたヴォーカル、延々と続くツインリードギターで西海岸の荒廃を表現したタイトル曲がとくに有名。
スティーヴィー・ワンダー 『キー・オブ・ライフ』

'76年にLP2枚とEP1枚で発売され、グラミー賞を総なめにした大作。愛や神、人種差別などヘヴィなテーマの歌詞が多く、音楽的にも幅広いジャンルを吸収し、高度なアレンジを多用しているが、聴きやすいR&Bアルバムになっているのは、明快なメロディと卓越した歌唱力の賜物。一人で全楽器を演奏することで生み出されるグルーヴも聴きモノ。

スティーリー・ダン 『aja』

緻密なアレンジと厳選したミュージシャンの起用により、上質なポップ作品を送り出す完全主義者のスティーリー・ダンのアルバム『aja』は、スティーヴ・ガッドのドラムソロを収めたタイトル曲をはじめ、何人もの有名ギタリストのソロにNGを出した「PEG」など、全曲が歴史的名演といってもいい。サウンドも楽曲も練り上げられていて、すべてのAORのお手本となった。
マイケル・フランクス 『スリーピングジプシー』

インテリジェントなジャズ、軽いタッチのボサノバをミックスした都会的なサウンド、そしてささやくような特徴的なヴォーカル。“ライト&メロー”という言葉ををそのまま表現したアルバム。バックはクルセイダーズやラリー・カールトン、デヴィッド・サンボーンといったスゴ腕のジャズ系ミュージシャンが務めており、抑えを効かせながらも艶っぽく情感あふれるサウンドはだ。

ビリー・ジョエル 『ストレンジャー』

弾き語りフォーク系シンガー・ソングライターというイメージを払拭したのが本作。歌とピアノを中心とした曲作りはそのままに、大胆にバンドサウンドを取り入れ、明るく伸びやかな歌がより際立っている。タイトル曲のほかにも、「ムーヴィン・アウト」、「素顔のままで」などヒットシングルを連発した名盤だ。この秋には紙ジャケットでの再発も予定されている。
ボビー・コールドウェル 『イブニング・スキャンダル』

都会の夜景に似合いそうな甘く哀愁を帯びたサウンドは、まさにAORの王道。歌声はソウルフルで、シングル「風のシルエット」は、白人であることを隠してブラック系FM局のヘヴィーローテーションを得ていたほど。'88年にタバコのCMに使われた美しいバラードの「Come to Me」も聴きどころ。

ボストン 『ドント・ルック・バック』

緻密に作り込まれているという点ではボストンがハードロックで随一だろう。分厚いコーラスや凝ったギターオーケストレーションといった手法はクイーンともよく似ているが、こちらはよりアメリカンな明るさを持ち、重厚だがメロウなハードロックだ。セカンドに当たる本作は、収録曲それぞれ、そしてアルバムトータルの完成度が非常に高い。ハイウェイにも似合いそうだ。
ドゥービー・ブラザース 『ミニット・バイ・ミニット』

「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」、「ロング・トレイン・ランニング」といった豪胆なアメリカンロックでヒットを飛ばしたドゥービーだが、スティーリー・ダンのマイケル・マクドナルドとジェフ・バクスターの加入により、後期はAOR色が濃くなる。このアルバムは、以前の明快なアメリカンロック色に加え、ジャズやソウルがバランスよく取り入れられている。

リッキー・リー・ジョーンズ 『浪漫』

屈折した心情をアコースティックなサウンドに乗せて歌うシンガー・ソングライターのリッキー・リー・ジョーンズは、そのけだるい声が魅力のひとつ。フォークをベースに、ジャズやR&Bをミックスしたサウンドは、このデビューアルバムですでに完成されている。バジー・フェイトンやスティーヴ・ガッド、ジェフ・ポーカロによる抑えた演奏もすばらしい。
マンハッタン・トランスファー 『エクステンションズ』

今も現役のジャズコーラスグループ。プロデューサーにジェイ・グレイドンを起用し、ポップアルバムとして送り出したのがこれ。ウェザー・リポートの曲をヴォーカルで劇的に表現した「バードランド」、ジェイ・グレイドンの絶妙なハーモニーソロが聴ける「トワイライト・ゾーン」など、聴きどころ満載だ。
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