GRAPEVINE、嬉しい残像を残したインストア・ライヴ・レポ

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9月11日、GRAPEVINEインストア・ライヴ『STAGE ONE』at Tower Records渋谷店

当日は、スタート間近になって、突然の雨。雨という天候は、たいてい残念な気分になりがち。だけどバインの場合、<季節外れの雨が好きな~>(「風待ち」より)という一節を歌う、ヴォーカル・田中和将氏の声が聞こえてくるから、高揚したテンションはそのままに保たれる。不思議。

1曲目はギターがウネるように響いて始まる「BREAKTHROUGH」。サビに進むに連れ、勢いの増す曲。もちろんメンバーの演奏も同じように目まぐるしく熱くなって行く。続けて、待望の新作から「その未来」。早いリズムで構成されたこの曲に、身体を預ける。身体に巻きつくように流れるギターソロから、ドラマティックに激しく展開していく。3曲目「アダバナ」。シングルカットされた「その未来」のカップリング曲。バインならではの、高度なツインギターが疾走感を掻き立てる、ダイナミックに満ち溢れた曲が続く。

熱いテンションはそのまま、「ポリゴンのクライスト」を挟んで「VIRUS」へ。さっきまでの熱気が嘘のように、今度は切ないグルーヴで私たちを包み込む。この曲はニューアルバム『deracine』の中でバラードと位置付けされてもいいだろう。でも、ただやり切れなくなるような物悲しいバラードではなく、“ぎゅっ”と胸が締めつけられるけど、次の行動に向かって外に放たれる、そんな力強い曲だ。その強さの尾を引きながら、繋がっていったのは「13/0.9」。低音に奏でるギターも重いリズムも、全てがロックへの欲求を心地良く満たしてくれる。『deracine』のオープニングを象徴する、新しいバインの可能性を裏付けた曲だと実感。

そして、7曲目「光について」。耳にも肌にも馴染んだこの名曲を、隅々まで噛み締め、吸収しようとする思いが誰の脳裏にも生まれていたはず。

2回目のブレイクタイムを挟み、『deracine』からバイン初のリカット・シングルになった「放浪フリーク」。リカットされるのも頷ける、ポップ色豊かな楽曲。心地よいさわやかなギターがクルクルと弾み、まるで明るい日向の方へ導かれているようだ。続く「BLUE BACK」で、会場の興奮はとうとう最高潮に。今まで新譜を聴き逃したくないというように大切に聴いていた観客も、みんな一体化しての大合唱。この熱狂を身体中で受け止めながら、全く冷めることなく、終盤へ。「アンチ・ハレルヤ」「ミスフライハイ」と、楽器、声、“鳴るもの”全てが圧倒的な、もう誰にも止められない勢いのある曲が続き、「ラスト!」の声が聞こえて、12曲目の「GRAVEYARD」。安心感のあるリズムに幾何学的なキーボードが重なり、多彩に構成された曲に身を委ねてみる。もちろん、まだ聴き足りないし、感じ足りない。でも、この余韻が次のライヴをもっと楽しませてくれると言い聞かして、去っていくメンバーを見送る。

あっという間の1時間半。けれど、内容は「短い」よりも「濃い」という印象が強く、10月から始まるツアーを期待せずにはいられない、そんな嬉しい残像を残したライヴだった。

文●尾崎 由美子
写真●古溪一道
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