伴 都美子の新アルバムで再認識する「はじまりはいつも雨」の奥深さ(後編)

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「はじまりはいつも雨」は、CHAGE and ASKAのASKAがソロで発表した作品。1991年3月にリリースされ、ASKA自身が歌った曲としては、初のミリオンを達成した楽曲でもある。また、この曲にはASKA自身も思い入れが強いようで、最新ソロアルバム『SCENE3』では、同曲へのアンサーソングとして「愛温計」という曲を収録している。以上のような理由より、伴ちゃんのファンはもちろん、この曲のカヴァーに関しては、ASKAファン、そしてCHAGE and ASKAファンからも、にわかに注目度が高まっていた。

そんな伴ちゃんバージョンの「はじまりはいつも雨」は、ベースの甘いフレーズとボサノヴァのリズムが心地よい、イージーリスニングに適した1曲に姿を変えている。聴いている以上に歌うのが難しいASKAのメロディーラインも、伴ちゃんの歌唱力を持ってすればまったく問題なく、これならASKAファンも “あ、女性が歌う「はじまりはいつも雨」っていいかも” と思うことだろう。実に伸びやかで、伴ちゃんのヴォーカリストとしての才能と声から伝わる温もりを再認識する。

ここで、一度ASKAバージョンの「はじまりはいつも雨」を聴いてみよう。すると、歌手が違う以上の “何かの違い” を覚える。そう、伴ちゃんバージョンとは異なり、オリジナル版は意外と “幸せ感” が抑え気味なのだ。ASKAの声質がそう感じさせるのかもしれないし、男と女の声という違いというのが大きいのかもしれない。ただ、これだけではない気がする。そもそも、「はじまりはいつも雨」は、幸せを歌った曲なのだろうか?

描かれている物語は、上手くいっている恋人同士(少なくとも、別れる前提の歌ではない)。また、「はじまりはいつも雨」については、これまで別れのキーワードだった“雨”を幸せの歌に使ったことで、一部からは “雨の概念を変えた曲” とさえも言われている。しかし、実際に伴ちゃんとASKAの歌を聴き比べてみると、ASKAの歌にはそれほど幸せな感じがしない。ではその変わりにASKAバージョンでは、どんな想いがこの曲を占めているのか? ヒントは歌詞にあると推測する。

<君を愛する度に 愛じゃ足りない気がしてた / 君を連れ出す度に 雨が包んだ>
<僕は上手に君を 愛してるかい 愛せてるかい>

<君は本当に僕を 愛してるかい 愛せてるかい>
<わけもなく君が 消えそうな気持ちになる / 失くした恋達の 足跡をつけて>

この曲に込められているのは “不安” なのかもしれない。好きだからこそ感じる不安。もしくは、ASKAの言葉を借りるなら<爪のかからない そんなもどかしさ(CHAGE and ASKA「if」の歌詞より)>といったところか。ラヴソングとして取り上げられることが多い「はじまりはいつも雨」だが、ASKAは我々の意識しないところで、好きゆえの “切なさ” や “もどかしさ” をこの曲にそっと忍ばせた。我々はそれを無意識のうちに受け入れ、奏でられる恋物語にうっとりと酔いしれながら、どこかでこのASKAが忍ばせた感情に共鳴する。ゆえにこの曲は世間に溢れるほどあるラヴソングの中でも、より多くの人の心を打ち、結果、大ヒットしたのではないだろうか(余談だが、この曲のあと、CHAGEとASKAはCHAGE and ASKAとしての活動を再開し、「SAY YES」を発表することになる)。突き詰めて考えると、「はじまりはいつも雨」という曲は、とても “懐の深い” 名曲なのだ。

オリジナル曲のみを聴いただけでは決して気づくことがないものを気づかせてくれるカヴァーアルバム。伴 都美子ファンだけでなく、ASKAファンも井上陽水ファンも、佐野元春ファンもTRFファンも、彼女がこの『Voice ~cover you with love~』でカヴァーしたバージョンとそれぞれのアーティストのオリジナル版を聴き比べてみてほしい。もしかすると、このアルバムを通して、楽曲についてより深く理解できるかもしれない。


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