増田勇一のライヴ日記【4】2007年5月25日(金)フィンランド・フェスト2007@恵比寿・リキッドルーム

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音楽そのものを自国にとっての有益な輸出物として認識している北欧の音楽大国、フィンランド。手元の公式資料によれば人口520万人に満たないこの国では、現在、6万人の若者が音楽学校に通い、3万人がプロフェッショナル・ミュージシャンとして活動し、800世帯がトナカイの飼育で生計を立てているのだという。

一般的にはいまだにサンタクロースとムーミンの住む国として認識されているのかもしれないが、音楽ファンにとってはハノイ・ロックスやHIM、ザ・ラスマスやローディといったバンドたちの出身地として知られていることだろう。実際、そのローディが『ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト』で優勝後に首都ヘルシンキで行なった凱旋フリー・コンサートに10万人が集まった事件や、ごく最近ではハノイ・ロックスの最新シングル「Fashion」がシングル・チャートで首位に輝いていたりする事実からも、この国の音楽シーンにおいてロックがメインストリームの重要な一角を担っていることがうかがえようというものだ。

そしてこのイベントは、そんなフィンランドの音楽状況の活発さをリアルに伝えるものとして企画された催しの一環としてのもの。登場したのは出演順にザ・クラッシュ、ヴォン・ハーゼン・ブラザーズ、アポカリプティカ、そしてストラトヴァリウス。ぶっちゃけ、僕のお目当てはチェロでヘヴィ・メタルを演奏する異端的バンド、アポカリプティカ。前半に出演する2組に関しては事前の予備知識もほぼゼロに近い状態。しかし、この手のイベントの際には、“こうした機会だからこそいち早く味わえるもの”との出会いを大切にしたいところ。それゆえに開演に間に合うように出かけたのが、結果、大正解だった。

まず一番手のザ・クラッシュ。カタカナで書くと英国パンクの伝説的バンド(THE CLASH)みたいだが、こちらはTHE CRASH。単純に言えばキーボード奏者を要するポップ・ロック・バンドで、ヴォーカリストの声質と歌い方がときおりスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンを思わせ、愛嬌のあるベーシストをはじめ、なんだか全員が良い意味での“垢抜けないチャーミングさ”みたいなものを持ち合わせている。正直、演奏そのものに特筆すべき点は見当たらないが、楽曲には耳をひくものが多々あったし、質感としては一時期のファントム・プラネットあたりに近いものを感じさせられもした。バイオには「デュラン・デュランが不思議の国でジャクソン5に出会ったような感じ」と形容されたことがあると記されていたが、多分僕の形容のほうが現実に近いと思う(自画自賛)。
※編集部註:5/23リリース1stアルバムより「ポニー・ライド」試聴⇒https://www.barks.jp/listen/?id=1000018468

続いて登場したヴォン・ハーゼン・ブラザーズは、名前からも察しがつくようにヴォン・ハーゼン3兄弟からなるグループ。ドラマーとキーボード奏者を従えながら3人がフロントに並び、ギター/ベースを弾きながら歌う。このバンドがまた“拾いもの”だった。いわゆる70年代ロック的なグルーヴを底辺に持ちながら、熱のこもったロック然とした演奏と、コーラスを多用したヴォーカル・パフォーマンスを披露。逆に言うと突出した歌い手は存在しないのだが、コーラスワークの見事さにはそれを補って余りあるものがある。全体に漂う哀愁味と、大地にしっかりと根を下ろしているかのようなたたずまいも魅力的だ。楽曲によっては往年のウィッシュボーン・アッシュを彷彿とさせる部分もあったし、グループの成り立ちとしては、やはり70年代に活躍したアメリカ(という名のグループ)がハード・ロック・バンド化したかのような風情でもあった。ザ・クラッシュ、そしてこのヴォン・ハーゼン兄弟については今後、あれこれ調べてみようと思う。

そして三番手としてステージに登場したのはアポカリプティカ。これがまさに圧巻だった。メタリカの楽曲をチェロで演奏したことで知られるようになり、本家メタリカからもお墨付きをもらっている彼らだが、僕がこの夜、彼らのライヴ・パフォーマンスに初めて接してまず感じたのは、彼らが優れた演奏家であるのみならずエンターテイナーであるということ。正直な話、チェロの演奏技術について語れるような知識は僕にはないが、ステージ上に立つ人間が発するオーラについては感覚的に判断できる自信がある。実際、彼らは基本的にはステージ上に並んだ椅子(巨大な背もたれには髑髏があしらわれている)に着席して演奏するのだが、曲によっては立ち上がり、扇風機のように長髪を振りまわしながら攻撃してくる。しかもメンバーのうち1人は1曲目から上半身ハダカで、終演時には3人がハダカで全員汗まみれ。本当にこの人たちは「クラシック出身者がメタルを演奏する」という意外性が売りものなのではなく、「メタル・バンドだけどたまたま演奏楽器がチェロ」なのだな、と納得させられた。

ちなみにこのアポカリプティカについては、この原稿を書いている数時間後、都内某所でインタビューすることになっている。彼らの素性や今後の動向などについては、また機会を改めてお伝えしたいと思う。

このイベントに、僕的な都合でひとつだけ問題があったとすれば、転換がゆっくりめで長丁場のライヴがさらに長いものになったこと。トリを務めたストラトヴァリウスについては、そのあとに別の仕事を控えていた都合上、冒頭2曲しか観ることができなかったので、多くを語ることは控えておきたい。が、三者三様のライヴ・パフォーマンスのあとで重鎮がしっかりと場を締める、という流れは成立していたと思う。そしてもうひとつ感じさせられたのが、この種のヘヴィ・メタルの根強い人気ぶりと普遍性の高さ。全曲観たわけでもないのに失礼な言い草にはなるが、冒頭の2曲を観ただけでも革新と無縁なバンドであることは想像ができる。が、それが彼らにとって不要であることも瞬時に理解できるのだ。

以上4組、駆け足でご紹介してきたが、このイベント自体、ショウケース的な意味での充実感が高かったことは言うまでもないし、今後も是非、継続的に開催して欲しいものである。

というか、それ以上に僕は、日本でフィンランドを味わうよりも、フィンランドで本場の味を堪能してみたくなった。個人的な話で恐縮だが、ノルウェー、スウェーデン、デンマークには過去に取材で出かけたことがあるのに、何故かフィンランドにだけは上陸したことがないのだ。2007年、この実に興味深い“ロック輸出国”を訪れる機会は、僕に訪れるのだろうか?


文●増田勇一

■「アポカリプティカ 2007年5月25日(金)フィンランド・フェスト2007@恵比寿・リキッドルーム~写真編~」はこちら
https://www.barks.jp/feature/?id=1000031826
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