PJハーヴェイ、『White Chalk』に込められた清らかさとシンプルさ

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PJハーヴェイに対してどんなイメージをお持ちでしょうか? 彼女の音楽を聴いたことがあろうとなかろうと、パティ・スミス系の“女性パンク・ロッカー”と見ている人が多いかもしれない。とくに真っ赤なミニ・ドレスで登場した<Fuji Rock Festival '04>でのスーパー・クールなパフォーマンス(もしくは写真)を見たことがある人は、そんなイメージが強く焼きついているかもしれない。

 参照「<FRF'04>真っ赤なドレスでへヴィ&セクシーに…PJハーヴェイ」
 https://www.barks.jp/news/?id=1000002272

しかし彼女は、3年ぶりにリリースされる新作『White Chalk』で、全く違う姿/サウンドを披露、いい意味で期待を裏切ってくれた。パンクどころかロックという言葉さえ浮かんでこない、ピアノの小品集のような美しいアルバムを完成したのだ。どのトラックも情緒的でエモーショナル。哀愁漂うメロディーとヴォーカルにはこれまで以上に彼女の繊細さが現れている。

“ピュアでシンプル”なアルバムを作りたかったという彼女に、その自信作について聞いてみた。

――ニュー・アルバムを聴かせていただきました。とてもきれいな曲ばかりで、これまでの最高傑作ではないかと思いました。

PJ:ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいわ。わたしもすごく満足していて、いままでで最高のアルバムが出来たと思ってるの。

――あなたはこれまで、いろいろとイメージ・チェンジを繰り返していますが、今回のアルバム制作時にはどんなイメージが念頭にあったのでしょう?

PJ:いつも音楽が先に来るものだけど…、このアルバムの曲を書いているとき、それにレコーディングしているときも、すごく自然にヴィジュアルが浮かんできたの。アート・スクール出身だからかもしれないけど、いつも音楽と一緒にヴィジュアルも浮かんでくるのよ。わたしにとって自然なことなの。今回のアルバムでは、とてもシンプルでヤング、そしてナイーヴな感覚を持っていたわ。子供のようなナイーヴさね。それにブラック&ホワイト、とてもシンプルよ。それを、アート・ワークや写真にも反映したかったの。

▲『ホワイト・チョーク』
――アルバム・タイトルの『White Chalk』の意味するところは?

PJ:これまでのほとんどのアルバム・タイトルと同じように、(収録されている)曲の1つから取ったの。言葉の響きがシンプルで、簡潔で気に入ったのよ。短い言葉だけど、清らかさとシンプルさを同時に持ち合わせてる。アルバムのイメージにピッタリだって思ったわ。白いチョークって何百年も前からあるものなのに、(何を描いても)あっという間に消すことができる、そんなイメージが気に入ったのよ。

――タイトルにあるだけでなく、アルバム・ジャケットでも白いドレスを着た写真を使用していますが、白という言葉にどのようなイメージを持っているのでしょう?

PJ:シンプルで子供のようなクオリティ、真っ白でまだ何も描かれていないキャンバスって感じかしら(笑)。そこに自分の好きなイメージ、アルバムを投影できる。

――今回のアルバムを作るにあたり、インスピレーションを得た出来事はありましたか?

PJ:生きていること、わたしの人生があるだけよ。特に誰かからインスピレーションを受けたってことはなかったわ。わたしが送ってきた生活、人生があるだけ。ときどき、自分はスポンジみたいだって思うの。自分の周りの世界で起きていることをすべて、何でも吸収するのよ。アーティストとして、それをべつの言葉で再生する。それがいつもわたしのやってることよ。

――ということは、いまのあなたの人生はとてもシンプルだということでしょうか?

PJ:えーっと、より複雑になってるわ(笑)。…子供のとき、大人になるのが楽しみだったのを覚えてる。人生はもっとシンプルになるんだろうなって思ってたの。でも、この頃それは違うってことがわかったわ(笑)。人生、もっともっと複雑になってる。誤解も多いし(笑)…。わたしの人生、ちっともシンプルじゃないわよ(笑)。

――でも、今回のアルバムではシンプルさに焦点を合わせたのですね(笑)?

PJ:曲の性質は、信じられないほどシンプルよ。感情や雰囲気をシンプルに…最高の形で組み合わすことができたわ。サウンド的にも、このアルバムには複雑なところはまったくない。そのナイーヴさがとても気に入ってるの。

――今回、ピアノで曲を作ったと聞いていますが、それはこれまでとは違う方法なのでしょうか?

PJ:全部ピアノで作ったわけじゃないのよ。2~3曲はギターで作ってる。でも確かに、いつもとは違う経験をしたわね。ピアノって…、まったく別の動物だもの。ハーモニーもあれば不協和音もあるし、あのたくさんの鍵盤を使っていろんな実験ができるわ。だから、すごく自由に感じたの。いろんなことが試せて、自分の行きたいところ、どこへでもたどり着けるって思ったわ。わたしにとって、新しいチャプターへの入り口、開いた扉って感じだった。

――アルバムではあなたが全てピアノを弾いているのですか?

PJ:メインの部分は全部そうよ。

――どんな種類のピアノを使ったのでしょうか?

PJ:とても古くて、高いとはいえないアップライト・ピアノ、ボロボロの…。Wegmanっていうの。73年くらい前に作られたものだと思う。わたしの父と同い年よ(笑)。それをスタジオへ運んだの。古いピアノの音が好きなの。どこか田舎のバーにあるピアノの音みたいでしょ(笑)。

――1stシングル「When Under Ether」について教えてください。どんなことを歌っているのでしょうか?

PJ:歌詞について話すのは気が進まないわね。歌詞って音楽に切り離せないからあるだけで…、リスナーは歌詞のある曲に慣れてるから…。だから言葉について話すのは、無意味だわ。ミュージックに歌詞は切り離せない。それに、みんなが好きにとれるようオープンにしておきたいの。

――このアルバムはどこか映画のようですね。PVが楽しみです。

PJ:そうすごく映画的なアルバムよね。PVに関して言うと、わたしにしたら、わたし個人のイマジネーションの上だけかもしれないけど、映像は全く必要ないかもとも思うの。このアルバム聴いていると、頭の中で独自の映像が浮かんでくるから(笑)。みんながみんな、そうじゃないかもしれないけど。もうすでにヴィジュアルはできてるって感じがするのよね。

――これまでとまったく違うサウンドですが、どんなツアーを予定しているのでしょう?

PJ:今回はいつもと状況が違うの。ツアーの計画はないのよ。自分1人だけでプレイするつもりだから、すごく柔軟性があるわ。月に1,2度、好きなときにショウをやっていければいいなって思ってる。スタンディングではなく椅子があるようなところで、リサイタルみたいな感じでやろうかと思ってるの。わたし1人だけだけど、いろんな楽器をプレイするつもりよ。ちょっと回顧的なものになるかな。これまでリリースした全てのアルバムからのトラックをプレイしたいの。ギター、ピアノ、キーボード、ドラム・マシーン、ハーモニカ、ハーブ、何でも使うつもりよ(笑)。楽しみにしてるわ。

――最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

PJ:是非日本へ行きたいって思ってるわ。しばらく行ってないし、日本でプレイしたいって思ってる。だから、ショウに来てね(笑)。それにみんながこのアルバムを楽しんでくれることを願ってるわ。わたし自身、楽しみながら作ったものだから。

秋の夜長のお供にピッタリのPJ8枚目のスタジオ・アルバム『White Chalk』は、11月7日にリリースされる。

Ako Suzuki, London
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