DIR EN GREY、ベスト・アルバム発表に寄せて──追加公演では、何かが起こる?

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いかにもベスト・アルバムを出しそうもないバンド。そんなランキングがあったなら、DIR EN GREYは間違いなく上位に名を連ねることになるだろう。もちろん敢えてこんなことを言うのは、その彼らが実際に間もなくベスト・アルバムをリリースするからであり、僕自身もその発表をかなり意外に感じていたからでもある。

▲DIREN GREY live at NAMBA HATCH,DEC.14th,2007
実際、今年は彼らにとって10周年のアニヴァーサリー・イヤーでもあり、過去の歴史を総括するようなアイテムをリリースすること自体はきわめて自然で、しかも必然性の高いことだといえる。このバンドを取り巻く状況/環境や、音楽シーンの地図における彼らの位置といったものの近年の劇的なまでの変化ぶりを踏まえれば、現在、彼らの音楽的変遷のありさまをわかりやすく理解させてくれるベスト・アルバムというのは、世のニーズがとても高いものだということも察することができるはずだ。

そうした現状を踏まえているにもかかわらず、それを“意外”だと感じたのは、DIR EN GREYというバンドの天の邪鬼な体質を理解しているつもりだからだ。彼らが世間の要求に応える? とんでもない。むしろどんなになだめすかしても、それを受け入れてくれないのが彼らである。

実際、彼らと付き合いが長く、彼らの音楽への依存度が高い人たちほど、今回のベスト・アルバム発売を意外に感じているに違いない。同時に、無条件に購入するつもりでいても、その意図をはかりかねている人たちもたくさんいることだろう。

実は僕自身、今回のベスト・アルバム発売に伴うインタヴューを行ない、彼ら自身の発言をもとにこの2作品についての原稿を書くことを望んでいたのだが、彼らには今回、この作品の発表意図や理由について説明するつもりがまったくないのだという。これまた実に、天の邪鬼な彼ららしい。もちろん現在国内ツアー中の彼らをつかまえて話をすること自体は可能だし、ベスト・アルバムの話題を酒の肴にすることも不可能ではない。が、そうした行為に出るのはフェアとは言えないだろう。

えらく前置きが長くなってしまったが、そんなわけで、今回はあくまで僕個人の主観に基づいて、12月19日に発売を迎える『DECADE 1998-2002』と『DECADE 2003-2007』について述べてみたい。まず、この2作品に関する基本事項を簡単にまとめておこう。

──◆これはベスト・アルバムであり、シングル・コレクションではない
ふたつのアルバムに収録されている楽曲のラインナップについては改めてこの場に書き連ねるまでもないはずだが、確かに多くのシングル曲が収録されてはいるものの、すべてが網羅されているわけではない。ただし、シングルとしてのセールス実績がありながら今回収録されていないいくつかの楽曲たちが、クオリティや完成度の問題で選外となったとは解釈し難い。選曲基準はむしろ単純に“バランス”だったのではないかと僕は感じている。

──◆このベスト・アルバムは日本でしかリリースされない
彼らの国外での現状を知っている人ほど、海外でのベスト・アルバムの需要が非常に高いことを理解していることだろう。また、欧米のメディアからの注目度の高さを考えれば、こうしたアイテムがプロモーション・ツールとして非常に有効な作用をもたらすことも想像に難くない。が、これら2種のベスト・アルバムは、少なくとも当面は、基本的に日本でしか手に入らない。もちろん日本からの輸入盤として欧米のCDショップの店頭に並ぶことはあるだろうが、少なくとも現地でのニーズに応えるにはまるで足りない。これもまた彼らの天の邪鬼な体質の現われなのか?

──◆未発表楽曲、貴重音源の類は一切収録されていない
それぞれのアルバムに収録された全39曲は、次世代メディア対応のデジタル・リマスターが施されている。あざとい言い方をすれば“すべての収録曲が未発表音源”ということにもなるわけだが、この場で初めて日の目を浴びることになった曲や、今回のリリースに合わせて発掘されたレア音源といったものは一切含まれていない。彼らの既発表アルバムをすべて持っている人ならば、“この2枚を買わなければ聴くことができない曲”というのはひとつも存在しないということになる

──◆それでも聴かなければならない理由がある
新たなデジタル・リマスターを経たところで、馴染みのある楽曲たちが違う曲のように感じられてしまうといったドラスティックな変化を味わうことは、基本的にはない。が、具体的にタイトルを挙げることは読者が余計な先入観を抱くことにも繋がりかねないので避けておくが、楽曲によっては過去とは違った顔つきに感じられるもの、かつては聴こえなかった音が顔をのぞかせるようになったもの、印象そのものが明らかに変化したものや、“違う場所”に置かれたことで異なった特性を発揮するようになったものも、多々ある。単純に音質が時代的な意味での“最新版”にグレードアップされているだけでなく、本来その楽曲が果たすべき役割が、より明確に果たされるべきカタチに更新されていると言っても過言ではないだろう。

あれこれと書き連ねてきたが、少しはふたつのベスト・アルバムの作品像が、あなたのなかでクリアなものになってきただろうか? とにかく僕自身の場合にも、“何故?”という疑問を感じながら触れたこの音源から、自分でも意外なほど新鮮な刺激をおぼえ、思いがけない発見をすることになった。

この2作品が、DIR EN GREY入門者に薦められるべきアイテムであることはもちろんだが、彼らの音楽に深く親しんできた人たちにこそ感じられるはずの興奮というのが、確実に存在するのだ。言い換えれば、ベスト・アルバムの発売を“意外”だと感じてきた人ほど、その興奮は大きいのではないかとも僕には思える。

そして12月17日からの新木場・STUSIO COASTでの3夜連続公演をもって10 YEARSを従えてのツアーを終了する彼らは、12月22日にはZEPP TOKYO、そして25日にはふたたびSTUDIO COASTでの追加公演を行なう。この2本をもって彼らの2007年度のライヴはすべて終了ということになるが、ベスト・アルバムのリリース後に行なわれるこれらの公演で、何か特別なことが起こるのを予感しているのは、きっと僕だけではないだろう。

そしてこの2本のライヴを経た後、DIR EN GREYはまさに新たなディケイドへと歩みを進めていくことになる。

増田勇一
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