90年代型ダンス・ミュージックの雄、PAMELAH

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PAMELAHというユニットを考える際、90年代のJ-POPシーンに於けるダンスミュージック・ムーヴメントは無視出来ない。80年代後半~90年代初頭にかけてイギリスを中心に盛り上がりを見せていた“レイヴ”ミュージック。小室哲哉がその要素を導入したtrfを手掛け、ブレイクさせた事によって、我が国流のダンス・ミュージックはお茶の間に広がりを見せていく。欧州でブームのユーロビートはやがてハウスへと姿を変えていくが、そんな中、日本では“マハラジャ”や90年代初頭にオープンした“ジュリアナTOKYO”といった大バコ系ディスコのオープンによって、ダンス・ミュージックは一般層へと急速に浸透していく。

そんな時代背景の中、男女ユニットPAMELAHは登場する。

ハード・ロックをこよなく愛するギタリスト(ソングライター)小澤正澄とヴォーカリスト水原由貴という最小限ユニット。その中で、4つ打ちビートを重視しつつも、ツボを押さえたソング・ライティングの妙で、90年代J-POPのお手本のような作品を残している。また、今でこそ当たり前な男女混成ユニットの先駆け、それがPAMELAHだった。

PAMELAHが結成されたのは1992年。ヴォーカリストの水原由貴は高校卒業後、函館KENTO'Sでオールディーズ・ナンバーを中心に歌っていた。その後、東京KENTO'Sに移籍後、ビーイング・グループに入り、それまで作家としてWANDS等に楽曲提供を行なっていた小澤正澄を長戸大幸が紹介して、ユニットを結成することになる。

1年弱を主にスタジオ・ワークで過ごした後、“PAMELAH”としてデビュー(PAMELAHの名前は、長戸が命名。長戸がリアル・タイムで見た映画「踊れ!サーフィン」(1964年)や「動く標的」(1966年:ポール・ニューマン主演の探偵映画)に出演し、1960年代に映画スターとして人気を得ていたグラビア系女優、パメラ・ティフィン(Pamela Tiffin)から取った名前だ(当時、水原はすごくバストが大きく、ただ本人はそれがコンプレックスでもあった)。

目指したのは90年代型ダンス・ミュージック。つまり、ビートはダンス・ミュージック経由でサウンドはハード・ロックという、初期B'z(1988~1990)やWANDSが得意としていた黄金律パターンを踏襲し、さらに純度を高めたものがPAMELAHのサウンドである。事実、今でも、彼らが残した足跡をたどるフォロワーは後を経たない。現在の男女混合ダンス・ユニットの先駆者、そしてユーロビートを経て進化していった90年代型ダンス・ミュージックの雄、PAMELAH。すでに活動休止から5年を経て、なおも魅力的な4つ打ちビートの世界を響かせている彼らの音楽は、閉鎖的なダンスフロアーではなく、今も尚、お茶の間のダンス・フリークス達を踊らせる魅力を放っている。

◆「BEST OF BEST 1000」シリーズ ダイジェスト映像
https://www.barks.jp/watch/?id=1000020789


[楽曲解説]

1. LOOKING FOR THE TRUTH

1995年2月21日リリースのデビュー・シングル。オリコン最高位26位と当時のデビュー新人としては幸先のいいスタート。曲頭からキャッチーなサビメロと、強力な4つ打ちグルーヴの展開が楽曲全体に勢いを与え、デビュー・シングルに相応しい出来映え。“ロック・ギターとダンス・ビートの融合”というコンセプト通り、強烈なビートの上で豪快なディストーション・ギターを鳴らす小澤のギター・プレイが斬新だ。この楽曲のレコーディング中、ディレクターが“PAMELAHの曲はギターが前に強く出ているので、それに負けないように歌わないといけない”と水原に伝えたところ、彼女自身も納得、1stアルバム以降はその世界観で歌い始めたという。

2. SPIRIT

1997年2月5日リリースの7thシングル。オリコン最高位15位。「I shall be released」後に既にあった楽曲だったが、機が熟すまで待っていたといういわくつきのナンバー。結果的にPAMELAHのシングルの中では14万枚と最高セールスを記録。この頃には、小澤は打ち込みのテクニックも向上、たった一人でトラックのミックスから最終工程まで行っていたという。なるほど、ループ一つとっても気合いを感じさせる出来映えだ。尚、この年の3月には3枚目のアルバム「SPIRIT」をリリース。オリコン最高位7位。

3. BLIND LOVE

1996年7月31日リリースの5thシングル。オリコン最高位20位。ダンス・ミュージックのフォーマットにはこだわりつつ、極限まで余計なエッセンスを削り、自分達にとっての“いい歌詞、いいメロディ”にこだわり続けた彼らが、ひとつの答えを出そうとしていた時期に制作されたナンバー。ユーロ経由のダンス・トラックであっても、楽曲全体には自分達のサウンド・スタイルへの自信を伺わせている。生々しい女子の気持ちを綴った水原の歌詞も一つの世界を確立した感がある。このシングル・リリースの2ヶ月後には2ndアルバム「Pure」リリース。オリコン最高位3位。

4. いとしいキミ

1997年7月16日リリースの8thシングル。オリコン最高位25位。前作の好セールスを受けてリリースされたのがこのシングル。この作品辺りからシングル楽曲でも様々な表情を見せ始め、ソングライターとして小澤が自信を深めてきたこともあってか、楽曲自体に幅が感じられる。実際、聞き込むと水原のヴォーカル力も底力がアップしていると感じさせる。

5. I shall be released

1996年2月21日リリースの4thシングル。オリコン最高位26位。もともとは、2ndアルバムに収録されている「純情」という曲がシングル候補としてあり、それを納品、マスタリングまで終わっていたのだが、その際“この曲でいいのだろうか”とメンバーとスタッフ・サイドの中で疑問が浮かび、新しい曲を大至急やってみようということで制作された。ほぼ1週間のタイトなスケジュールの中で奇跡的に仕上がった。楽曲全体にみなぎるスピード感も、だからこそ封じ込められているのかもしれない。ギリギリまで妥協しない彼らの姿勢がよく表れたPAMELAHサウンドの代表曲。

6. I FEEL DOWN

1995年7月26日リリースの2ndシングル。イントロ導入部で聴けるシンセ・ベースのサウンドが印象的なダンサブルJ-POPナンバー。2ndにしてこのトラック・メイキングの緻密さは、その後の小澤の活躍を予感させる感触。また、彼のギターワークもディストーション・サウンドからクリアー・カッティング、ソロまでバラエティー豊かにその才能を発揮している。
 
7. 涙

1996年11月20日リリースの6thシングル。オリコン最高位24位。クラブ系のサウンド・プロダクションを彷彿とさせ、常に新しい形のダンス・ミュージックを模索し、提案してきた彼らなりの新境地。実は楽曲自体はPAMELAH結成の頃から存在していたが、6枚目のシングル制作にあたり、小澤がサビで作っていたものをAメロにし、サビを新たに作り直して完成させた。こういったマイナー調のナンバーであっても、凛とした姿勢を崩さない水原のヴォーカル、だからこそベタつかずに女心の機微をよりリアルに感じさせて表現する手腕はさすがだ。

8. キレイになんか愛せない

1995年11月8日リリースの3rdシングル。1stシングルの路線を踏襲しつつ、よりPAMELAHらしい世界観を確立した。それは主に歌詞世界に表れ始めており、ヴォーカリスト水原由貴、という1人の女性が歌う言葉とは?を意識し始めた作品だった。だからこそ、サビ部分で繰り返される“キレイになんか 愛せないの”というフレーズは胸にぐっとくる。この年の暮れには1stアルバム「Truth」リリース、オリコン最高位7位。ブレイクのきっかけを掴む。

9. TWO OF HEARTS

1998年6月3日リリースの10thシングル。デビュー作を彷彿とさせるアッパーなダンス・チューンだが、所々に深化したデジタル・ビートの技術が顔を出す充実作。結成当初からのコンセプトを踏襲しつつ、一つ一つのパーツは明らかにヴァージョン・アップしている。また、強がりを言っていた女性から、本当に芯の通った女性像へと主人公が進化した水原の歌詞世界には、決意がみなぎっている。暴れまくる小澤のギター・プレイに、一歩もひかないその緊張感、当初のユニット結成時のコンセプトの到達点を鮮やかに見せている。

10. BABY BABY

1997年12月20日リリースのベストアルバム「HIT COLLECTION~CONFIDENCE~」に収録されていた。シンプルな4つ打ちビートのアッパーなナンバーだが、このポジティヴな世界観は明らかにPAMELAHが2ndステージへ移行した事を伺わせる。サウンドも歌詞もヴォーカルスタイルもこの曲には以前のPAMELAHサウンドの特長の一つだった迷いや影が何一つ感じられない。だからこそ、ひょっとしたらその後、PAMELAHが活動休止状態になって行ってしまうのは、2人がある種のやり切った到達点を見てしまったせいかもしれない。

しかし、こういった曲を聞くと、少なくともPAMELAHはサウンド・クオリティー的には、後期に入っても衰えを見せるどころか、むしろ充実していっていることを伺わせる。それだけに、再び4つ打ちビートブームが再燃している昨今にあって、彼らの復活を望むのは筆者だけではないはずだ。

文:斉田 才
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