九段で見た幻想的な歌物語――<志方あきこ Concert2009 ~Harmonia~>

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志方あきこにとって約4年ぶりとなるワンマンライヴが、去る3月28日、東京・九段会館 大ホールで行なわれた。チケットにプレミアもついたライヴは超満員状態。多くの立ち見も出るほどだった。

◆<志方あきこ Concert2009 ~Harmonia~>ライヴフォトアルバム

今回のライヴは、2年半ぶりのオリジナルアルバム『Harmonia』と同コンセプトを持って展開された。すなわち、地・水・風・火の4つの世界観を生かした構成で、それぞれのイメージに合わせた楽曲が披露されていく。さらに、今回のライヴにはそれぞれ背景となる物語が用意されている。地の国で孤独に生きる姫巫女、人間に恋をした水の国の人魚、風の国で翼を持たずに生まれたがために、幽閉されている咎浴の稀人(とがあびのまれびと)、そして堕落した民を焼きつくした火の国の女神…。あらかじめ物語を一読してライヴに臨むと、通常のライヴとは異なり、まるでどこか遠い国の歌物語を耳にしているかのような楽しみ方もできた。

17時55分、開演前のブザーが鳴る。オーディエンスはすでに自分の席につき、その時を待つ。そして、18時00分、オープニングムービースタート。幻想的なライヴはオンタイムに粛々と幕を上げた。

バイオリン、キーボード、ベース、パーカッション、ギター。各ミュージシャンがそれぞれのパートにつき、そしてステージ中央にはロングドレス姿の女性の影。志方あきこの登場にオーディエンスからは割れんばかりの拍手が贈られる。

まず、アルバム『Harmonia』から「遥かなる旅路」を披露。ライヴという名の音楽の旅のオープニングを飾るこの曲。印象的なトルコ語のコーラスは、彼女が実際にトルコを訪れ、体感してきた感覚、イメージがそのまま音となって表れている。

そして、ステージ上のスクリーンに “4つの世界へ旅に出よう!” というメッセージが浮かび上がる。志方あきこが描いた物語のドアが開く瞬間だ。

まずは“地の章”。緑豊かな深緑のムービーを背景に、シンバルの響きが荘厳さを醸し出す「EXEC_CHRONICLE_KEY/.」。続く「Amnesia」では、モチーフとなる“地の国”の姫巫女のように椅子にしなだれて歌う志方。「METHOD_METAFALICA/.」「まほろば」と歌い進めるにつれ、歌にも力強さが増していく。それはまるで、地の章の物語に綴られた姫巫女のように。

次にスクリーンへ映し出されたのは、深海をイメージしたバックムービー。歌詞で描かれたピュアな想いを乗せた歌声とヴァイオリンの音色がハーモニーを奏でる「アオイロ缶詰」からスタートした“水の章”では、「Sorriso」「追想歌」、そして懐かしめのナンバー「Kalliope」などが披露された。

15分の休憩を挟んで“風の章”の幕が上がる。彩色豊かな衣装にチェンジした志方とともに、この曲で彼女の世界に触れた人も多いであろう「うみねこのなく頃に」のイントロが。座席に座ったまま身体を揺らす人、じっと彼女のパフォーマンスに見入る人、それぞれがそれぞれの楽しみ方で志方あきこの音楽を堪能している。

また、圧巻だったのはダイナミックで情熱的な音が踊る5拍子のナンバー「ロマの娘」だ。この曲で志方がオーディエンスを煽ると、オーディエンスは手拍子で応える。5拍子の曲に合わせる手拍子というのは、いわゆるJ-POPを耳にしていると、なかなか経験することはできない。そして会場がこの難解なリズムで一体となった時、それは、志方あきこの今回のプレミアムライヴでしか味わうことのできない恍惚の瞬間だった。

最後の“火の章” では、荒ぶる火炎が燃えさかる光景とともに、「晴れすぎた空の下で」「金環触」「埋火」、そして<コワレロ コワレ コワレ コワレテユケ>というインパクトあるフレーズの「METHOD_METAFALICA/.EXEC_over.METHOD_SUBLIMATION/.~ee wassa sos yehar」を志方は歌い上げる。“火の章”の物語に目を通したファンの中には、この一連の流れに、栄華を極めがゆえにおごってしまい、滅亡の道へと転がり落ちていく火の国とその国の民の姿を重ねたことだろう。ステージ上では、赤と白の激しいフラッシュが何度も連鎖し、やがて物語は終焉を迎える。

ライヴ本編の最後に歌われたのは、「Harmonia ~見果てぬ地へ~」。誕生の喜びを歌ったこの楽曲によって、オーディエンスは、章立てで行なわれた今回のライヴが最後にきてひとつの解決を見たことに気づくだろう。

各章ごとでみると、死・破壊・別れといった悲劇的な最後を迎えたのだが、この「Harmonia ~見果てぬ地へ~」によって、その悲劇的結末の価値観に変化が起こる。すなわち、破壊から生まれる創造、死からの誕生、別れからの出会いへと、悲劇は悲劇だけではなく、その先には希望が生まれているという彼女からのメッセージを受け取ることができたはずだ。

とかくヒーリングミュージックや多重録音といったインパクトのある言葉が先行しがちな彼女だが、それらの基盤を支えているのは言うまでもなく、志方あきこの表現力と高いヴォーカルセンス、そして描く物語とそこに秘めるメッセージ性にほかならない。

前回の1stライヴ<Navigatoria~航海を導く星~>から4年もの歳月が費やされて行なわれた今回のライヴ。確かにファンとしてはもう少し頻繁にライヴを演ってほしいという気持ちもなくはない。しかし、彼女が情熱を傾け、納得のいく作品を制作すること、そしてそこから産み落とされる世界観で我々を魅了し続けてほしいという期待をもってすれば、この期間すらも短く感じてしまう。

何年後になるかは定かではないが、次回のライヴを心待ちにせずにはいられない。

<志方あきこ Concert2009 ~Harmonia~>
2009年3月28日(土) @九段会館
【Opening Movie】
1.遥かなる旅路
【Movie -地の章-】
2.EXEC_CHRONICLE_KEY/.
3.Amnesia
4.METHOD_METAFALICA/.
5.まほろば
【Movie -水の章-】
6.アオイロ缶詰
7.Sorriso
8.追想歌
9.Kalliope
~ 休 憩 ~
【Movie -風の章-】
10.うみねこのなく頃に
11.ロマの娘
12.うたかたの花
13.風と羅針盤
【Movie -火の章-】
14.晴れすぎた空の下で
15.金環蝕
16.埋火
17.METHOD_METAFALICA/.EXEC_over.METHOD_SUBLIMATION/.~ee wassa sos yehar
18.Harmonia~見果てぬ地へ~
Ec.1  EXEC_PAJA/.#Misya extracting

◆iTunes Store 志方あきこ(※iTunesが開きます)
◆志方あきこオフィシャルサイト
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