ラウドネス、故樋口氏のドラム・パートを使った新アルバム

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いまや“伝説の”という冠をつけて語られるハードロック・バンド、ラウドネス。彼らが結成28年を迎えるいま、22枚目のオリジナル・アルバムが5月27日にリリースされた。タイトルは『THE EVERLASTING-魂宗久遠-』。2008年11月に急逝した故樋口宗孝氏が残したサウンドをベースに作り上げられた鎮魂の一作である。

タイトルからもわかるように、このアルバムは樋口宗孝氏を追悼する意味が込められた作品だ。ドラム・パートは樋口氏が残したドラム・トラックが使われている。このアルバムは28年間のラウドネスの歴史を総括するような印象がある。ヘヴィネスと疾走感に溢れ、確かなテクニックの基に構築されたサウンドは、1980年代のキャッチーな楽曲から、1990年代の重低音の可能性を模索するがごとくヘヴィさを強調したもの、そしてすべてのロックの要素を飲み込んだものまで、ラウドネスの歴史をなぞるかのようにヴァラエティに富んだ出来になっている。

9割以上が英語で書かれた歌詞を全身の声帯でシャウトする二井原実のヴォーカル、ボトムから曲を支配する山下昌良のベース、あくまでヘヴィなリフと超絶技巧が冴えわたる高崎晃のギター、そしてこのサウンドを基底で支え続けるのが、樋口氏のドラム・トラック。他に類を見ないほどのヘヴィさが溢れるバスドラム、シュアで切れ味鋭いスネアなど、どこをとっても樋口氏のフレイヴァーが溢れかえっており、まるでそこで叩いているかのような錯覚を覚える。彼のロック・スピリットが他のメンバーに乗り移り、まさに2009年に生きるラウドネスを体現したサウンドが堪能できる。今までに聴いたことがなく、そして今後も聴くことができないと想像できるほど、彼ら4人の魂を感じられる作品となっている。

樋口氏の早すぎる死は、筆舌に尽くしがたいほど残念なことであるが、彼を含むラウドネスという怪物バンドが今に残した業績を思うとき、一つの仕事をやり尽くした彼らの偉大さが身にしみてわかる。

先日も、宇多田ヒカルがUtada名義でリリースしたアメリカでの2ndアルバム『This Is One』が、全米(ビルボード誌)アルバム・チャートで69位を記録したが、このときでも、“邦人歌手が100位以内にランクされるのは、1986年に64位を獲得したロックバンド、ラウドネスのアルバム『Lightning Strikes』以来23年ぶりの快挙”と報道されるなど、彼らが残してきた業績は、いまも日本国内でリスペクトとともに語り継がれていることがわかる。

ラウドネスがハードロック・シーンだけではなく、音楽シーン全体に及ぼした影響も計り知れないものがある。

いま盛隆を極めるビジュアル系ハードロック・バンドに、その影響が顕著に見て取れる。ギターに関しては、高崎晃のような超絶技巧派は少なくなり、ヘヴィメタル・シーンにその影響が残っているくらいだが、リズム隊に関してはラウドネスが作り出してきたサウンドの形が色濃く残っているようだ。8ビートを基調としたリズム構築はもちろんのこと、どこまでも重いバスドラム、タイトに鋭いスネア、重厚なシンバルは、ハードロックの真骨頂として、いまのロック・シーンでも当たり前のように受け継がれている。さらに、ケレン味あふれるドラミング・パフォーマンスも忘れてはならない。大げさな身振り手振りで観客にアピールしながら叩くその姿は、樋口氏が創造し世に送り出したスタイルに他ならない。そして、ビジュアル系バンドがいまや恒例のように行っている海外でのコンサートなどは、まさにラウドネスが1980年代にアメリカに進出し、開拓してきたことなのだ。

女性シンガーのバック・バンドにハードロック畑のミュージシャンが参加し、本格的なバンド・サウンドをつけるというのは、現在では当たり前のことのようになっているが、これにもラウドネスの影響が見て取れる。1980年代に大活躍した浜田麻里は、この顕著たるものだろう。女性らしい高音を強調したポップなメロディを持った楽曲のバックで、本格的なヘヴィメタルサウンドが炸裂する。これは、J-POPの女王、浜崎あゆみでもそうであるし、他の女性シンガーでも当然のようにそうなっている。浜田麻里の初期のアルバムには樋口氏が参加しており、彼のドラミングを取り入れることによって、サウンドがよりシャープさとハードさを持ち、それが女性シンガーの声と相まって、キャッチーながら世界レベルに到達した品質のロック作品を作り出した。

現在でも受け継がれているのは、アーティスト自身への影響もさることながら、いま第一線で働いている現場のディレクターなどが、ラウドネスのスタイルを引き継いでいるからに他ならない。現場の制作陣は、いままさにアラフォー。彼らは青春時代にラウドネスに出会い、そのサウンドとともに音楽ライフを送ってきた人達である。ボトムは重く、ギターは空気を切り裂く雷鳴のように耳をつんざき、そこにハイトーンのメロディアスなヴォーカルが乗りかかる。ロックの魂が根底にあることが、そういう音作りを可能にさせた。ラウドネスが日本の音楽業界に持ち込んだロックの醍醐味を、当然の記憶として今の音楽に反映させる。そういう制作陣がいまの音楽を作っているのである。

さらにさらに、樋口氏と高崎晃が作り出し、いまに影響を与えるものとして“アニソン”を上げることができる。いまではハードロック・バンドがテレビや劇場のアニメ主題歌を担当するのは珍しいことではない。これもラウドネスの功績があってのこと。マニアならご存知の1985年公開『オーディーン 光子帆船スターライト』の音楽をラウドネスが担当。また、2009年4月に発売された「感じて Knight」は、テレビアニメ『真マジンガー 衝撃!Z 編 on television』のオープニング主題歌だが、これは元々、ラウドネスの前身バンドともいえるLAZYの作品。1980年にリリースされた「感じてナイト」を、故樋口宗孝・ベースの故田中宏幸の生前のライブ音源を使用しオリジナル・メンバーの演奏で「感じて Knight」としてリメイクされたもの。サポート・メンバーとして、LAZYをリスペクトする奥田民生や斉藤和義も参加し、アニソンの金字塔として現代に甦った。

以上、ラウドネスの新作と彼らが残したものについて語らせてもらった。ラウドネスのロック・スピリッツは、いまも脈々と受け継がれている。日本の音楽シーンの根底には、常に彼らが開拓してきたものが横たわっている。それを再認識させてくれたのが、樋口宗孝氏の死であったのは皮肉というほかない。

樋口宗孝の魂よ、永遠に。

<CLASSIC LOUDNESS LIVE 2009 The Birthday Eve~Disillusion CHAPTER 2>
2009年6月18日(木) SHINSAIBASHI CLUB QUATTRO
2009年6月20日(土) FUKUOKA DRUM LOGOS
2009年6月21日(日) KOCHI BAY5 SQUARE
2009年6月26日(金) EBISU LIQUID ROOM
2009年6月28日(日) SENDAI JUNKBOX 
2009年7月2日(木) SAPPORO CUBE GARDEN
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