増田勇一の欧州日記(6)

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またまた更新が遅れてしまった。前回(増田勇一の欧州日記(5))はオランダのユトレヒトがいかにのどかな街かについて書いたところで終わっていたのだが、驚いたのはその文中にも登場した「ドイツ人女性3人組」のうちの1人からレスがあったこと。しかも日本語で。こんなとき、地球は本当に狭くなりつつあるのだな、と実感させられる。だから僕も本当のことしか書けない。もちろん最初から本当のこと以外、書くつもりはないのだが。

▲終演直後のユトレヒトのオーディエンス。女子率がえらく高く見えるのだが、フロアのなかほど以降はむしろ男子が目立っていた。
しかし素晴らしいことだと思う。彼女(もしかして今回も読んでますか?)の場合、いわばフェイヴァリット・バンドに対する愛情と知識欲をもって言葉の壁を壊しつつあるわけだ。考えてみれば、僕自身も英語の授業を真剣に受けるようになったのは海の向こうの音楽に興味を持ち始めたのとほぼ同じ頃だったし、教科書以外の文章で初めて和訳した長文はQUEENの歌詞だったと記憶している。辞書と仲良く付き合う以外に言葉の意味を理解する手段がなかったあの時代に比べたら、今は外国語を学ぶにはえらく便利で都合のいい時代になったものだと思う。日本の音楽に興味を持った海外のファンのなかに、それを切っ掛けに日本語を学ぶようになった人たちがたくさんいることを考えると、もっと日本人は英語を使えてもおかしくない気がするんだけども、いかがなものだろう? それこそ、「大好きな日本のバンドを世界へと押し出す手伝いをするために、英語を学びたい」という人たちが出てきてもいいんじゃないだろうか?

と、すっかり余談が長くなってしまったが、6月10日、ユトレヒトの<TIVOLI>で観たDIR EN GREYの単独公演は、お世辞も贔屓も手加減も抜きにして、これまでに観てきた彼らのライヴのなかでも、確実にベストの部類に入るものだった。今回のツアー初日、<ROCK IM PARK>では“自分たちのライヴ”に徹するあまり、彼らは“偶然の目撃者たち”をしっかりと繋ぎとめておくことができず、フェスの厳しさを改めて痛感させられることになった。それが2日後の<ROCK AM RING>では大幅に改善され、さらにこのツアーにおける最初のワンマン公演となったこの夜は、「これでこそDIR EN GREY!」と声を上げたくなるほどのライヴになったというわけだ。

▲ユトレヒトおまけ写真。自転車に乗りながら自転車を運ばなければならないとき、やっぱり手段はこれしかありません。しかし、のどかだ。東京でコレをやるわけにはいかないよなあ。
確かに、両フェスでの“ダイジェスト版”を観た後で、日本国内での公演に準じた内容のフル・サイズ・ショウに接したからこその、良い意味でのギャップもそこにはあったはずだし、単純に、フェスとは違ってサウンド・チェックのために費やすことのできる時間が充分にあったことも、小さくない差異だったはすだ。が、それ以上に、ステージから発散されている“気”の濃さが尋常ではなかったこと。それがこの夜のライヴの“勝因”だったように思う。

しかもフロアを埋め尽くしていたのは、偶然ではなく必然的な目撃者たち。変な話、国外のファンが日本語で合唱するというだけでも本来は普通じゃないはずなのだが、そうした光景をすでに見慣れてしまっている僕の目から見ても、この夜のオーディエンスは素晴らしかった。『UROBOROS』収録曲たちのめまぐるしい展開にも、一瞬たりとも遅れることなく、開場全体が同調しながら揺れる。もちろん、なかには初めてDIR EN GREYを観ることになった観客もいたはずだが(実際、終演後に話を訊いたなかにもそうしたファンは少なくなかった)、ほぼすべてのオーディエンスがあらかじめ『UROBOROS』を熟聴していることが確信できる熱い反応ぶりだった。

そしてこの夜の終演後まもなく、メンバーたちを乗せたツアー・バスは、次の公演地であるフランスのパリに向けて出発。僕を含む別働隊はここで一泊して、早朝から一行を追いかけることになる。パリでのライヴはKILLSWITCH ENGAGEとの、いわゆる“対バン”形式によるもの。相手は強敵。考えただけで興奮してくる。ただ、肝心のライヴの前にも、彼らにはすべきことが多々あったりするのだが。

では、次回更新をお楽しみに。

増田勇一
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