ザ・デッド・ウェザーをロンドンで直撃
いよいよ、ジャック・ホワイトのニュー・プロジェクト、ザ・デッド・ウェザーのデビュー・アルバム『Horehound』がリリースされる。文字通り、休むことなく音楽を作り続けるホワイト。今回は、ホワイト・ストライプスともラカンターズとも違う、激情サウンドを生み出した。嵐のごとくロンドンを襲った彼らにニュー・バンド、新作、そして音作りに対するこだわりについて話を訊いた。
――まずは、バンド結成の経緯を教えてください。
ジャック・ホワイト:簡単に言うと、キルズとラカンターズがツアーしてたとき、俺の声が出なくなっちまって、アリソン(・モシャート)に俺の曲を歌ってもらわなきゃならなかったんだ。その日はディーン(・ファーティタ)も一緒にプレイしていた。彼はラカンターズの1stでプレイしてて、ファミリー・リユニオンみたいな感じでツアーの終わりにジョインしていたんだ。ナッシュビルで初めて4人がステージに立った。で、ツアーが終わって、一度みんな家に戻った。アリソンはロンドンに、ディーンはデトロイトに、こいつ(ジャック・ローレンス)はクレイジーに戻ったんだんだけど(笑)、俺のレコード・レーベルが立ち上がるところで、7インチ(用に)、2曲くらいレコーディングしてみるのはどうかってことになったんだ。すぐさまスタートしたよ。12時間で4~5曲もできて、これはなにかになるって、続けることにしたんだ。それがアルバムになって、バンドになって、ツアーになって、いまここでこうやって話している(笑)。
――ジャックとの仕事はどうでしたか?
アリソン・モシャート:彼の仕事に対する意欲には感心するわ。音楽を作ることを本当に愛してる人と一緒にやるのは素晴らしい経験だった。エキサイティングだったわ。彼、よく働くの。それが私にも伝染している。もう寝ることなんかどうでもよくなっちゃった。彼と一緒にいるようになってから寝てないの(笑)。そんなの必要ない。あらゆる面で刺激的よ。彼の声、彼は同世代で1番好きなシンガーだし、1番好きなパフォーマーなの。彼と一緒にバンドをやれるのは、わたしにとってもものすごく名誉なことよ。
――女性ミュージシャンと一緒にやることが多いですが、そのほうがインスピレーションが沸くのでしょうか?
ジャック・ホワイト:どこかへ早く簡単にたどり着くことができる。異性の意見の相違があるからか、並列してるからなのか、ロレッタ・リンでもアリソンでも、アリシア・キーズ、メグ(・ホワイト)であろうとも同じだ。すぐに何かが起きる。電撃的だ。それが何なのかはわからない。基本的な男女の観念なのか、わからないけど。でも、それがこういったコラボにあると思っている。ラカンターズと比べてみると、どれだけ違うことか。より芸術的だって思っている。(女性がいると)一瞬で変わる。なんでかわからないけど、母親が部屋にいると話し方が変わるようなもんだ。女の子が部屋にいると、曲の作り方がすごく違ってくる。
――どんな風に?
ジャック・ホワイト:わからないな。いろんな意味で、より良くなる。すぐに良くなる。よりインスピレーションがある。すぐに人間の両面からのリアクションが得られるからかな。
アリソン:そう、両方の側からのストーリーを手にできる。
――曲を作る際、意識した作品、アーティストは?
ジャック・ホワイト:ないかな。アルバムを作っているときは、できるだけほかの音楽は聴かないようにしているんだ。だからここ何年もちゃんと音楽を聴いてないよ(笑)。作っているアルバムだけを聴くようにしている。でも今回は例外で、ニュー・バンドだったからカヴァーをいくつかやることになった。自分たちが何者なのか、お互いどんなものに共感するのか見つける感じで…。それがゲイリー・ニューマンの曲やボブ・ディランの「New Poney」だったんだ。ボブ・ディランのはリリースするつもりなかったんだけど、出来上がってみたらすごくパワフルでバンドの新しいサウンドの本質を象徴している、アルバムに収録するのにピッタリだと思ったんだ。ビートルズやボブ・ディランのカヴァーがアルバムに入ると、ええっ?て感じになるときもあるけど、これはピッタリだって思ったんだ。
――アルバム・タイトルはどうやって思いついたのでしょう?
ジャック・ホワイト:あれは…、ごめん、俺ばっか答えてるな(笑)。何年か前のアイディアで…、アイディアじゃないな、面白いって思った言葉だったんだ。俺の苗字はホワイトだから、ホワイトって言葉が入ったものにひかれるんだけど、White Horehoundっていう植物があって、これ歌詞に使える、これでなんか出来るかもって思ったんだ。Horehoundって興味深い言葉だよ。Hellhound(地獄の番犬)みたいな凶暴で地獄を連想させ、「Hellhound On My Trail」(曲のタイトル)みたいなブルースの香りもする。スペルは違うけど売春婦(whore)のような響きもあるのに、実際は植物だったりキャンディの名前なんだ。ゴージャスな言葉だよ。アルバムのタイトルにどうって聞いたら、みんなアルバムの音にピッタリだって賛成したんだ。
――アルバムの中で最もインパクトがあるトラック「I Cut Like a Buffalo」の意味は?
ジャック・ホワイト:俺もときどきそれを知りたいって思うことがあるよ(笑)。この曲は俺にとって本当に衝撃的なものだったんだ。曲を書いてて、すべての血管が飛び出て血が流れ出すっていうのかな…。それがいつ、どの曲で起きるのか自分でもわからない。でもそういうときがあるんだ。そして何もかも止めて、これだって思うんだ。この曲こそ俺が聴きたかったものだ、このアルバムで俺が聴きたい曲なんだって思う。そういうことが起きるんだよ。さらに恐ろしいことに、この曲はレコーディング初日に誕生したものだったんだ。良すぎるって思ったよ(笑)。だって俺ら、7インチやろうとしてただけだからね。だからそのときは、ちょっとやめとこ、やるかわからないって言ったんだ。面白いとは思ったけど。でもその後、もっと曲を作って形になり始めたとき「Buffalo」をもう一度やってみようってことになったんだ。
――スタジオにいて、どのタイミングで曲は完成したと感じるのですか?
アリソン:次の曲を始めたくなったときよ。
ジャック・ホワイト:すごく難しいよ。一番難しいとこだ。やめるとこがわかってないと、キャリアを台無しにするかもしれない、美しい音楽やアート、絵を台無しにするかもしれない。絵なんて、ずっと描き続けていられるだろ。終わりを決めるのは難しいよ。バンドにはほかの連中もいるから、もっと難しい。自分ではものすごくいい出来だと思っても、べつの奴が好きじゃないなんてこともある。誰が正しいんだ?って感じだ。
アリソン:曲の数を限定したのもよかった。決まった数しかないんだから、やり過ぎることはできない。文字通り、そこまでなのよ。
ジャック・ホワイト:ヴォーカル・ハーモニーのトラックをもう1曲入れたいと思ったって、もうトラックがないんだ。最近、「できないよ、もう曲がないからね」なんていう奴あんまりいないだろ。プロトゥールスのおかけでその気になれば2000曲だってレコーディングできるんだから。でも、そうやって限定することで、よりソウルフルなミュージックができるんだ。
――このアルバムを作っていて、1番思い出深かったことは?
ジャック・ローレンス:多分、ジャックが建てたスタジオだから…、その影響はアルバムに出てると思うよ。アルバム全体にある。インスピレーションだ。彼はものすごく時間をかけ思いを込めてスタジオを作った。それが少なくとも俺にとっては素晴らしいとこで、その一部に関われたのは嬉しかった。全員が1つの部屋にいて、曲をプレイし何かを完成させていく。自分たちが何をやってるのかさえわかっていなかった。(でも)それで隣の部屋に行って聴き直してみると、ソウルなんかすべてが入っているんだ。テープに古い器材、そういったもので作業ができたのは、俺にとって素晴らしい体験だった。
――時間をかけて、しばらく小さな場所でプレイし自分たちのサウンドを見つけるというのが理想的だと話していたことがありますが。
ジャック・ホワイト:そうだね、とくに俺にしてみれば、ライヴでドラムをプレイするのは19歳のとき以来だったから、世に出る前に20~30のショウをやればよかったのかもしれない。しばらく小さなクラブやパブでやれたらよかったんだけど、スタートした時点で俺らが誰か知られてたし、Youtubeでも流れてたし…それは難しい状況だった。それに俺たちにそんな時間もなかったし。でも、いい意味でチャレンジになったよ。自分たちを追い込んだっていうか、すぐに火がついた。勢いにまかせて進むことができた。
――今回、ドラマーに戻ろうとしたきっかけは?
ジャック・ホワイト:007のトラックがきっかけだった。あれはドラムをプレイして、ドラマーとして曲をプロデュースしたんだ。(デッド・ウェザーのトラックは)最初は7インチのつもりだったから、それをもう一度やりたい、違うアプローチをするのはいいアイディアだ、この形でどうなるか見てみたいって思ったんだ。最初から決めてたわけじゃないけど、結果的にバンドのドラマーになったわけだ。
――ジャックがドラムを叩く前でプレイすることに不安はありませんでしたか?
ディーン・ファーティタ:ああ(笑)、ないと言ったら嘘になる。でもこのバンドには並外れた平穏さがあって、すごく居心地がいいんだ。だから、ことが簡単に運んだ。彼がドラム叩くの見るのは好きだし、そっちのほうが気になるかな。
――ギターではなくドラムという位置にいると、ほかのバンド・メンバーやオーディエンスへの見方は変わりますか?
ジャック・ホワイト:すごく違うよ。まだ数回しかギグやってないけど、昔ドラマーだったとき、ティーンエイジャーのときドラマーとしてツアーしていたときのことを思い出している。でも、今回は違う部分もある。曲作りや全コンセプトのプロダクションに関わってるから、指揮者でいるような気もしている。そういう意味では、ドラマーの美点を発見したような感じだ。ドラムの席からミュージックを指揮できる。プロデューサーとしては興味深いよ。新しい発見だからね。次のアルバムもそうしようかって考えてる。指揮者としてのドラマーっていうのは新しい関心事だ。
――ジャーナリストは概してシンガーやギタリストの話ばかり聞きたがり、あまりドラマーと話をしませんが、ドラマーは一般的に過小評価されていると思いますか?
ジャック・ホワイト:ああ、そう思う。ほんとにそうだよ。リスナーやプレス、みんなからいじめられ、虐待されてるとさえ思うよ(笑)。メグも経験したことだ。ホワイト・ストライプスが出たとき上手くないとかなんとか言われてた。でも子供のとき、みんな“チャーリー・ワッツは最悪だ、リンゴはクソだ”とか言っていた。俺の好きなドラマーだったのに、そういうことが起こるんだ。いまでも同じなんだから面白いよ。なんでこんなに苛められるのかわからないね。
ジャック・ローレンス:コンサートに行くと、俺は最初に(ドラマーへ)目を向ける。ステージで1番エキサイティングなパートがドラムだと思っている。
――歌う面において、キルズと違うところは?
アリソン:わからないわ。自分では注意してないし…。誰か別の人が見つけることじゃないかしら。
――あなたのインターネットに対する姿勢はフォーラムでも話題になっていますが、あなたはただデジタルを使わないと言っているだけですよね?
ジャック・ホワイト:ああ、変な皮肉が飛び交っている。みんな俺への質問で混乱してるんだと思う。この前、ジミー・ペイジと一緒にインタヴューに答えたとき、何人もの人たちから「ギター・ビデオ・ゲームについてどう思うか」って訊かれた。それって中絶について訊かれるようなもんだよ。“俺に何って言って欲しいんだ?”って感じだ。何を求められてるのか、わからない。俺は“子供には良くないな”とか何とか言ったんだ。レコード会社の人間に“こうやって子供は音楽について学んでいる”って言われてたから。俺はそれは悲しい、こんな方法で音楽を学ぶのは良くないって言ったんだ。そしたら、ネットで“ジミー・ペイジとジャック・ホワイトはビデオ・ゲームが嫌い”だなんて流れて…。俺はビデオ・ゲームは嫌いじゃないよ(笑)。俺たちは音楽について話したんだ。前に言ったことがある。インターネットとアナログの対立はテクノロジーが好きか嫌いかってだけなんだって。“ジャック、ステーキの焼き加減はどうする?”って訊かれて“俺はミディアムが好きだな”って言っただけなのに、それを聞いた誰かから“俺はステーキはレアが好きなんだ、ジャック・ホワイトのアホめ、俺にもミディアムのステーキを食わそうとしている”って言われるようなもんだよ。違うだろ、俺は君らにこうしろとか言ってるわけじゃない。どうやって音楽をレコーディングしたいか訊かれたから、俺はコンピューターじゃなくてテープにレコーディングしたいって答えただけだ。俺にとってはそれが最良の方法なんだ。俺は、コンピューターでレコーディングするなってキャンペーンしてるか? ただ音楽や、そこで何が起きているかについて話してるけだ。ミュージックの芸術性が崩壊、腐敗し、それに対する評価がなくなってきている。だから、警告を発する者を抹消しようとするな。インターネットだったり、プロトゥールスが原因なんだよ。それらが出てくる前の60年代や70年代のミュージックはいい音を出していた。80年代にこのプロトゥールスが出てきてから、ダメになった。音楽を愛してる奴ならみんなわかってる。それを認めるべきだ。Mp3を聴くな、バンドから音楽を盗むなって言ってるんじゃない。ソウルフルで意味のある音楽にしたいなら、どうやってそれを作るか学べってことだ。美術館へ行って、水彩画と油絵の違いを学ぶんだな。それが肝心なんだよ。わかってない奴が多いと思う。彼らは“俺のおもちゃを取り上げるな。俺はiPodが好きなんだ。なんでそんなこと言うんだ”って思っているだろ。誰も君のプラスチック・ギターをけなしてるわけじゃない。俺らはただ音楽の美しさについて話してるだけだ。
――音楽を作ることに対して話をするとき、ハンドクラフトがキーになっているようですが、あなたにとって大切なことなのでしょうか?
ジャック・ホワイト:すごく大切だよ。以前は自分のレコードはほかの人の手に委ねられていた。でもいまじゃ俺の手の中にある。『Horehound』のビニール盤は俺のオフィス、俺たちの本拠地で自分たちの手によって作られ、本部にあるレコード・ストアで売られる。レコーディングからプロダクション、マスタリング、写真撮影、スリーヴの印刷、ビニール盤の制作すべてを自分でやったんだ。
ジャック・ローレンス:配送だってやっている。ちょっとでもしわになってたら、俺がやったんじゃないよ。
ジャック・ホワイト:俺でもないよ(笑)。
――それぞれのメンバーを一言で表すと?
ジャック・ホワイト:難しいな(笑)。アリソン、びびってるよ(笑)。そうだな、彼女には“気まぐれ”がいいかな。こいつ(ジャック・ローレンス)は?
アリソン:セクシー(笑)
ジャック・ホワイト:ああ、ものすごくセクシー(Sexy as hell)だな(笑)。お前には3つの言葉だ。ディーンはそうだなあ…。なんだろう、お前がやってんの何だっけ? クラヴ・マガだっけ? お前は兵器だな。こいつには何だって兵器になるんだ(笑)。
――この数ヵ月後、4人はそれぞれ別の道を歩むことになるのですか? それとも一緒に新しい音楽を作ったりツアーする時間はあるのでしょうか?
ジャック・ローレンス:(デッド・ウェザーの)ツアーも続けるつもりだし、別のプロジェクトもある。
ジャック・ホワイト:今年はホワイト・ストライプスだけじゃなく、ラカンターズの新作も作りたいと思ってるんだ。
――デッド・ウェザーもワンオフではなく、ラカンターズのように続くのでしょうか?
ジャック・ホワイト:ああ、どのプロジェクトも生きてるし、インスパイアされている。もう終わりだっていうのはない。どれも生きている。ほかにもまだまだやろうとしてることがある。
デッド・ウェザーのデビュー・アルバム『Horehound』は、7月22日にリリースされる。
Ako Suzuki, London
――まずは、バンド結成の経緯を教えてください。
ジャック・ホワイト:簡単に言うと、キルズとラカンターズがツアーしてたとき、俺の声が出なくなっちまって、アリソン(・モシャート)に俺の曲を歌ってもらわなきゃならなかったんだ。その日はディーン(・ファーティタ)も一緒にプレイしていた。彼はラカンターズの1stでプレイしてて、ファミリー・リユニオンみたいな感じでツアーの終わりにジョインしていたんだ。ナッシュビルで初めて4人がステージに立った。で、ツアーが終わって、一度みんな家に戻った。アリソンはロンドンに、ディーンはデトロイトに、こいつ(ジャック・ローレンス)はクレイジーに戻ったんだんだけど(笑)、俺のレコード・レーベルが立ち上がるところで、7インチ(用に)、2曲くらいレコーディングしてみるのはどうかってことになったんだ。すぐさまスタートしたよ。12時間で4~5曲もできて、これはなにかになるって、続けることにしたんだ。それがアルバムになって、バンドになって、ツアーになって、いまここでこうやって話している(笑)。
――ジャックとの仕事はどうでしたか?
アリソン・モシャート:彼の仕事に対する意欲には感心するわ。音楽を作ることを本当に愛してる人と一緒にやるのは素晴らしい経験だった。エキサイティングだったわ。彼、よく働くの。それが私にも伝染している。もう寝ることなんかどうでもよくなっちゃった。彼と一緒にいるようになってから寝てないの(笑)。そんなの必要ない。あらゆる面で刺激的よ。彼の声、彼は同世代で1番好きなシンガーだし、1番好きなパフォーマーなの。彼と一緒にバンドをやれるのは、わたしにとってもものすごく名誉なことよ。
――女性ミュージシャンと一緒にやることが多いですが、そのほうがインスピレーションが沸くのでしょうか?
ジャック・ホワイト:どこかへ早く簡単にたどり着くことができる。異性の意見の相違があるからか、並列してるからなのか、ロレッタ・リンでもアリソンでも、アリシア・キーズ、メグ(・ホワイト)であろうとも同じだ。すぐに何かが起きる。電撃的だ。それが何なのかはわからない。基本的な男女の観念なのか、わからないけど。でも、それがこういったコラボにあると思っている。ラカンターズと比べてみると、どれだけ違うことか。より芸術的だって思っている。(女性がいると)一瞬で変わる。なんでかわからないけど、母親が部屋にいると話し方が変わるようなもんだ。女の子が部屋にいると、曲の作り方がすごく違ってくる。
――どんな風に?
ジャック・ホワイト:わからないな。いろんな意味で、より良くなる。すぐに良くなる。よりインスピレーションがある。すぐに人間の両面からのリアクションが得られるからかな。
アリソン:そう、両方の側からのストーリーを手にできる。
――曲を作る際、意識した作品、アーティストは?
ジャック・ホワイト:ないかな。アルバムを作っているときは、できるだけほかの音楽は聴かないようにしているんだ。だからここ何年もちゃんと音楽を聴いてないよ(笑)。作っているアルバムだけを聴くようにしている。でも今回は例外で、ニュー・バンドだったからカヴァーをいくつかやることになった。自分たちが何者なのか、お互いどんなものに共感するのか見つける感じで…。それがゲイリー・ニューマンの曲やボブ・ディランの「New Poney」だったんだ。ボブ・ディランのはリリースするつもりなかったんだけど、出来上がってみたらすごくパワフルでバンドの新しいサウンドの本質を象徴している、アルバムに収録するのにピッタリだと思ったんだ。ビートルズやボブ・ディランのカヴァーがアルバムに入ると、ええっ?て感じになるときもあるけど、これはピッタリだって思ったんだ。
――アルバム・タイトルはどうやって思いついたのでしょう?
ジャック・ホワイト:あれは…、ごめん、俺ばっか答えてるな(笑)。何年か前のアイディアで…、アイディアじゃないな、面白いって思った言葉だったんだ。俺の苗字はホワイトだから、ホワイトって言葉が入ったものにひかれるんだけど、White Horehoundっていう植物があって、これ歌詞に使える、これでなんか出来るかもって思ったんだ。Horehoundって興味深い言葉だよ。Hellhound(地獄の番犬)みたいな凶暴で地獄を連想させ、「Hellhound On My Trail」(曲のタイトル)みたいなブルースの香りもする。スペルは違うけど売春婦(whore)のような響きもあるのに、実際は植物だったりキャンディの名前なんだ。ゴージャスな言葉だよ。アルバムのタイトルにどうって聞いたら、みんなアルバムの音にピッタリだって賛成したんだ。
――アルバムの中で最もインパクトがあるトラック「I Cut Like a Buffalo」の意味は?
ジャック・ホワイト:俺もときどきそれを知りたいって思うことがあるよ(笑)。この曲は俺にとって本当に衝撃的なものだったんだ。曲を書いてて、すべての血管が飛び出て血が流れ出すっていうのかな…。それがいつ、どの曲で起きるのか自分でもわからない。でもそういうときがあるんだ。そして何もかも止めて、これだって思うんだ。この曲こそ俺が聴きたかったものだ、このアルバムで俺が聴きたい曲なんだって思う。そういうことが起きるんだよ。さらに恐ろしいことに、この曲はレコーディング初日に誕生したものだったんだ。良すぎるって思ったよ(笑)。だって俺ら、7インチやろうとしてただけだからね。だからそのときは、ちょっとやめとこ、やるかわからないって言ったんだ。面白いとは思ったけど。でもその後、もっと曲を作って形になり始めたとき「Buffalo」をもう一度やってみようってことになったんだ。
――スタジオにいて、どのタイミングで曲は完成したと感じるのですか?
アリソン:次の曲を始めたくなったときよ。
ジャック・ホワイト:すごく難しいよ。一番難しいとこだ。やめるとこがわかってないと、キャリアを台無しにするかもしれない、美しい音楽やアート、絵を台無しにするかもしれない。絵なんて、ずっと描き続けていられるだろ。終わりを決めるのは難しいよ。バンドにはほかの連中もいるから、もっと難しい。自分ではものすごくいい出来だと思っても、べつの奴が好きじゃないなんてこともある。誰が正しいんだ?って感じだ。
アリソン:曲の数を限定したのもよかった。決まった数しかないんだから、やり過ぎることはできない。文字通り、そこまでなのよ。
ジャック・ホワイト:ヴォーカル・ハーモニーのトラックをもう1曲入れたいと思ったって、もうトラックがないんだ。最近、「できないよ、もう曲がないからね」なんていう奴あんまりいないだろ。プロトゥールスのおかけでその気になれば2000曲だってレコーディングできるんだから。でも、そうやって限定することで、よりソウルフルなミュージックができるんだ。
――このアルバムを作っていて、1番思い出深かったことは?
ジャック・ローレンス:多分、ジャックが建てたスタジオだから…、その影響はアルバムに出てると思うよ。アルバム全体にある。インスピレーションだ。彼はものすごく時間をかけ思いを込めてスタジオを作った。それが少なくとも俺にとっては素晴らしいとこで、その一部に関われたのは嬉しかった。全員が1つの部屋にいて、曲をプレイし何かを完成させていく。自分たちが何をやってるのかさえわかっていなかった。(でも)それで隣の部屋に行って聴き直してみると、ソウルなんかすべてが入っているんだ。テープに古い器材、そういったもので作業ができたのは、俺にとって素晴らしい体験だった。
――時間をかけて、しばらく小さな場所でプレイし自分たちのサウンドを見つけるというのが理想的だと話していたことがありますが。
ジャック・ホワイト:そうだね、とくに俺にしてみれば、ライヴでドラムをプレイするのは19歳のとき以来だったから、世に出る前に20~30のショウをやればよかったのかもしれない。しばらく小さなクラブやパブでやれたらよかったんだけど、スタートした時点で俺らが誰か知られてたし、Youtubeでも流れてたし…それは難しい状況だった。それに俺たちにそんな時間もなかったし。でも、いい意味でチャレンジになったよ。自分たちを追い込んだっていうか、すぐに火がついた。勢いにまかせて進むことができた。
――今回、ドラマーに戻ろうとしたきっかけは?
ジャック・ホワイト:007のトラックがきっかけだった。あれはドラムをプレイして、ドラマーとして曲をプロデュースしたんだ。(デッド・ウェザーのトラックは)最初は7インチのつもりだったから、それをもう一度やりたい、違うアプローチをするのはいいアイディアだ、この形でどうなるか見てみたいって思ったんだ。最初から決めてたわけじゃないけど、結果的にバンドのドラマーになったわけだ。
――ジャックがドラムを叩く前でプレイすることに不安はありませんでしたか?
ディーン・ファーティタ:ああ(笑)、ないと言ったら嘘になる。でもこのバンドには並外れた平穏さがあって、すごく居心地がいいんだ。だから、ことが簡単に運んだ。彼がドラム叩くの見るのは好きだし、そっちのほうが気になるかな。
――ギターではなくドラムという位置にいると、ほかのバンド・メンバーやオーディエンスへの見方は変わりますか?
ジャック・ホワイト:すごく違うよ。まだ数回しかギグやってないけど、昔ドラマーだったとき、ティーンエイジャーのときドラマーとしてツアーしていたときのことを思い出している。でも、今回は違う部分もある。曲作りや全コンセプトのプロダクションに関わってるから、指揮者でいるような気もしている。そういう意味では、ドラマーの美点を発見したような感じだ。ドラムの席からミュージックを指揮できる。プロデューサーとしては興味深いよ。新しい発見だからね。次のアルバムもそうしようかって考えてる。指揮者としてのドラマーっていうのは新しい関心事だ。
――ジャーナリストは概してシンガーやギタリストの話ばかり聞きたがり、あまりドラマーと話をしませんが、ドラマーは一般的に過小評価されていると思いますか?
ジャック・ホワイト:ああ、そう思う。ほんとにそうだよ。リスナーやプレス、みんなからいじめられ、虐待されてるとさえ思うよ(笑)。メグも経験したことだ。ホワイト・ストライプスが出たとき上手くないとかなんとか言われてた。でも子供のとき、みんな“チャーリー・ワッツは最悪だ、リンゴはクソだ”とか言っていた。俺の好きなドラマーだったのに、そういうことが起こるんだ。いまでも同じなんだから面白いよ。なんでこんなに苛められるのかわからないね。
ジャック・ローレンス:コンサートに行くと、俺は最初に(ドラマーへ)目を向ける。ステージで1番エキサイティングなパートがドラムだと思っている。
――歌う面において、キルズと違うところは?
アリソン:わからないわ。自分では注意してないし…。誰か別の人が見つけることじゃないかしら。
――あなたのインターネットに対する姿勢はフォーラムでも話題になっていますが、あなたはただデジタルを使わないと言っているだけですよね?
ジャック・ホワイト:ああ、変な皮肉が飛び交っている。みんな俺への質問で混乱してるんだと思う。この前、ジミー・ペイジと一緒にインタヴューに答えたとき、何人もの人たちから「ギター・ビデオ・ゲームについてどう思うか」って訊かれた。それって中絶について訊かれるようなもんだよ。“俺に何って言って欲しいんだ?”って感じだ。何を求められてるのか、わからない。俺は“子供には良くないな”とか何とか言ったんだ。レコード会社の人間に“こうやって子供は音楽について学んでいる”って言われてたから。俺はそれは悲しい、こんな方法で音楽を学ぶのは良くないって言ったんだ。そしたら、ネットで“ジミー・ペイジとジャック・ホワイトはビデオ・ゲームが嫌い”だなんて流れて…。俺はビデオ・ゲームは嫌いじゃないよ(笑)。俺たちは音楽について話したんだ。前に言ったことがある。インターネットとアナログの対立はテクノロジーが好きか嫌いかってだけなんだって。“ジャック、ステーキの焼き加減はどうする?”って訊かれて“俺はミディアムが好きだな”って言っただけなのに、それを聞いた誰かから“俺はステーキはレアが好きなんだ、ジャック・ホワイトのアホめ、俺にもミディアムのステーキを食わそうとしている”って言われるようなもんだよ。違うだろ、俺は君らにこうしろとか言ってるわけじゃない。どうやって音楽をレコーディングしたいか訊かれたから、俺はコンピューターじゃなくてテープにレコーディングしたいって答えただけだ。俺にとってはそれが最良の方法なんだ。俺は、コンピューターでレコーディングするなってキャンペーンしてるか? ただ音楽や、そこで何が起きているかについて話してるけだ。ミュージックの芸術性が崩壊、腐敗し、それに対する評価がなくなってきている。だから、警告を発する者を抹消しようとするな。インターネットだったり、プロトゥールスが原因なんだよ。それらが出てくる前の60年代や70年代のミュージックはいい音を出していた。80年代にこのプロトゥールスが出てきてから、ダメになった。音楽を愛してる奴ならみんなわかってる。それを認めるべきだ。Mp3を聴くな、バンドから音楽を盗むなって言ってるんじゃない。ソウルフルで意味のある音楽にしたいなら、どうやってそれを作るか学べってことだ。美術館へ行って、水彩画と油絵の違いを学ぶんだな。それが肝心なんだよ。わかってない奴が多いと思う。彼らは“俺のおもちゃを取り上げるな。俺はiPodが好きなんだ。なんでそんなこと言うんだ”って思っているだろ。誰も君のプラスチック・ギターをけなしてるわけじゃない。俺らはただ音楽の美しさについて話してるだけだ。
――音楽を作ることに対して話をするとき、ハンドクラフトがキーになっているようですが、あなたにとって大切なことなのでしょうか?
ジャック・ホワイト:すごく大切だよ。以前は自分のレコードはほかの人の手に委ねられていた。でもいまじゃ俺の手の中にある。『Horehound』のビニール盤は俺のオフィス、俺たちの本拠地で自分たちの手によって作られ、本部にあるレコード・ストアで売られる。レコーディングからプロダクション、マスタリング、写真撮影、スリーヴの印刷、ビニール盤の制作すべてを自分でやったんだ。
ジャック・ローレンス:配送だってやっている。ちょっとでもしわになってたら、俺がやったんじゃないよ。
ジャック・ホワイト:俺でもないよ(笑)。
――それぞれのメンバーを一言で表すと?
ジャック・ホワイト:難しいな(笑)。アリソン、びびってるよ(笑)。そうだな、彼女には“気まぐれ”がいいかな。こいつ(ジャック・ローレンス)は?
アリソン:セクシー(笑)
ジャック・ホワイト:ああ、ものすごくセクシー(Sexy as hell)だな(笑)。お前には3つの言葉だ。ディーンはそうだなあ…。なんだろう、お前がやってんの何だっけ? クラヴ・マガだっけ? お前は兵器だな。こいつには何だって兵器になるんだ(笑)。
――この数ヵ月後、4人はそれぞれ別の道を歩むことになるのですか? それとも一緒に新しい音楽を作ったりツアーする時間はあるのでしょうか?
ジャック・ローレンス:(デッド・ウェザーの)ツアーも続けるつもりだし、別のプロジェクトもある。
ジャック・ホワイト:今年はホワイト・ストライプスだけじゃなく、ラカンターズの新作も作りたいと思ってるんだ。
――デッド・ウェザーもワンオフではなく、ラカンターズのように続くのでしょうか?
ジャック・ホワイト:ああ、どのプロジェクトも生きてるし、インスパイアされている。もう終わりだっていうのはない。どれも生きている。ほかにもまだまだやろうとしてることがある。
デッド・ウェザーのデビュー・アルバム『Horehound』は、7月22日にリリースされる。
Ako Suzuki, London
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