増田勇一の『今月のヘヴィロテ(7月篇)』
振り返ってみれば7月も脈絡や一貫性とは無縁の音楽生活を送っていた。とはいえ、「元々、こういうのが好き」というものはずっと好きなままで、「でも、こういうのもやっぱり好き」というものが年月の経過に比例しながら増えているだけのことなのだから、とても普通でむしろ健康的なことのようにも思えるのだけども。というわけで、以下、7月に聴きまくった10枚。
●チープ・トリック『ザ・レイテスト』
●デッド・ウェザー『狂おしき薫り』
●チキンフット『チキンフット』
●ザ・ドリーミング『エッチド・イン・ブラッド』
●清春『madrigal of decadence』
●金子ノブアキ『オルカ』
●レンカ『レンカ』
●THE VICKERS『SIX REALM OF REBIRTH』
●デヴィルドライヴァー『プレイ・フォー・ヴィランズ』
●マシュー・スウィート&スザンナ・ホフス『UNDER THE COVER VOL.2』
まず大当たりだったのがチープ・トリックの新作。もちろんこのバンドの場合、これまでの長い付き合いのなかで“ハズレ”だったことなど一度もないのだが、考えてみればデビュー作から30年以上にわたってリアル・タイムで新譜を聴き続けてきたバンドがここまでの感動をもたらしてくれるということ自体が貴重だし、奇跡的といえるかも。次に来日実現のあかつきには、代表曲完全網羅のライヴももちろんだが、このアルバムの完全再現などにも挑んでみて欲しいところ。そんな要求をするとまたリック・ニールセン師匠に「おまえはいつも注文が面倒臭い」とか叱られそうだが。
「ジャック・ホワイトってやつは何をやらせても本当にカッコいいな」と改めて感じさせてくれたデッド・ウェザーの処女作もCDプレイヤーに載る機会が多かったし、「もうひとつのヴァン・ヘイレン」ことチキンフットについては、いい意味で新譜のような気がしなかった。スタッビング・ウエストワード時代からひそかに贔屓にしていたクリストファー・ホール(ひそかに、というわりには図々しくライナーノーツを書かせていただいたこともあるのだが)がフロントマンを務めるザ・ドリーミングの作品もようやく本邦リリースが実現して嬉しいかぎり。ちなみに『エッチド・イン・ブラッド』というタイトルの意味は「血で描かれた」であって、間違っても「血まみれでエッチした」ではないので誤解なきよう。
清春の新作は、退廃を愛しつつも良識あるオトナだったりもする彼の“叶わぬ堕落願望”が痛快な1枚。“歌”の充実ぶりはもちろんのこと、先鋭的でありつつ時代性にとらわれすぎていないサウンドスケープにも興味深いものがある。同様に、RIZEのドラマーでありつつ最近は俳優業のほうでも多忙な金子ノブアキの初ソロ作品も、マルチ・アーティストでありながら単なる音楽馬鹿ではない彼の人物像をくっきりと浮き彫りにしたものになっている。人間としての彼を知る人ほど、この深遠な世界に意外性ではなく“らしさ”を感じることだろう。
実はガーリーなポップ・ミュージックについての好き嫌いが激しかったりもする僕にとって、レンカの作品はかなりストライク。彼女が影響を認めているのはビョーク、ビートルズ、バート・バカラックという“B”が頭文字の3組。クラシックの世界で言えばバッハとブラームスとベートーヴェンが“三大B”だけども、我が家の場合はブラック・サバスとビリー・ジョエルとビースティ・ボーイズだろうか(かなりいい加減に思いつきで書いています、念のため)。デヴィルドライヴァーについては、ぶっちゃけ、「本当は今作でもっと大化けすることを期待していたのだが、元々好きなので10選には普通に入ってしまう」というのが本音。そろそろライヴが観てみたい。
THE VICKERSについては未知の読者のほうが多いはずだが、彼らは2002年に結成された東京産ロックンロール・バンド。幾度もメンバー・チェンジを重ねていて、今回リリースされた第6作は現ラインナップでの初の公式音源にあたる。ガレージ臭もすれば北欧の薫りも漂ってくる暴走型サウンドを聴かせるのだが、モーターヘッドやアイアン・メイデンをフェイヴァリット・バンドに挙げていることからも察することができるように、随所に“メタル愛”が顔を出すところが僕的にはかなりツボ。言い換えればお洒落すぎないということでもある。音源自体の完成度については、いわゆるメジャー作品のようなクオリティを伴っているわけではないが、彼らがどんなライヴを身上とするバンドであるかは確実に伝わってくる1枚だといえる。この夏は各地のライヴハウスをまわるようなので、是非この名前をチェックしてみて欲しい。
そして最後の1枚は輸入盤。ポップおたくのマシューと、バングルズのスザンナのデュエットによるカヴァー・アルバムの第2弾なのだが、ラズベリーズやらフリートウッド・マックやらモット・ザ・フープルやらカーリー・サイモンやらという選曲が素晴らしすぎて、マジで笑が止まらなかった。この人たちが日本人だったなら、きっと同じ時代に『ミュージック・ライフ』を読んでいたんだろうなあという感じ。
さらに、今月は各方面とも豊作だったのみならず、ちょっと前から輸入盤で聴きまくっていたものがようやく日本発売に至ったりというのも多く、なかなか10枚に絞り込むのが大変だった。他によく聴いたのはキャンドルマス、シルヴァーサン・ピックアップス、ウィルコ、サンライズ・アヴェニュー、ドス、スイサイド・サイレンス、ジューダス・プリーストのライヴ盤、ロイヤル・ブリス、アレクシスオンファイアー、パオロ・ヌティーニといったところ。そういえば、やはり輸入盤で手に入れたイアン・ハンターの新作も今月、日本盤がリリースになる模様。諦めていたモット・ザ・フープルの復活倫敦公演への未練がめらめら再燃する今日この頃、だったりもする。そう、ファンというのは諦めの悪いイキモノなのである。
増田勇一
●チープ・トリック『ザ・レイテスト』
●デッド・ウェザー『狂おしき薫り』
●チキンフット『チキンフット』
●ザ・ドリーミング『エッチド・イン・ブラッド』
●清春『madrigal of decadence』
●金子ノブアキ『オルカ』
●レンカ『レンカ』
●THE VICKERS『SIX REALM OF REBIRTH』
●デヴィルドライヴァー『プレイ・フォー・ヴィランズ』
●マシュー・スウィート&スザンナ・ホフス『UNDER THE COVER VOL.2』
まず大当たりだったのがチープ・トリックの新作。もちろんこのバンドの場合、これまでの長い付き合いのなかで“ハズレ”だったことなど一度もないのだが、考えてみればデビュー作から30年以上にわたってリアル・タイムで新譜を聴き続けてきたバンドがここまでの感動をもたらしてくれるということ自体が貴重だし、奇跡的といえるかも。次に来日実現のあかつきには、代表曲完全網羅のライヴももちろんだが、このアルバムの完全再現などにも挑んでみて欲しいところ。そんな要求をするとまたリック・ニールセン師匠に「おまえはいつも注文が面倒臭い」とか叱られそうだが。
「ジャック・ホワイトってやつは何をやらせても本当にカッコいいな」と改めて感じさせてくれたデッド・ウェザーの処女作もCDプレイヤーに載る機会が多かったし、「もうひとつのヴァン・ヘイレン」ことチキンフットについては、いい意味で新譜のような気がしなかった。スタッビング・ウエストワード時代からひそかに贔屓にしていたクリストファー・ホール(ひそかに、というわりには図々しくライナーノーツを書かせていただいたこともあるのだが)がフロントマンを務めるザ・ドリーミングの作品もようやく本邦リリースが実現して嬉しいかぎり。ちなみに『エッチド・イン・ブラッド』というタイトルの意味は「血で描かれた」であって、間違っても「血まみれでエッチした」ではないので誤解なきよう。
清春の新作は、退廃を愛しつつも良識あるオトナだったりもする彼の“叶わぬ堕落願望”が痛快な1枚。“歌”の充実ぶりはもちろんのこと、先鋭的でありつつ時代性にとらわれすぎていないサウンドスケープにも興味深いものがある。同様に、RIZEのドラマーでありつつ最近は俳優業のほうでも多忙な金子ノブアキの初ソロ作品も、マルチ・アーティストでありながら単なる音楽馬鹿ではない彼の人物像をくっきりと浮き彫りにしたものになっている。人間としての彼を知る人ほど、この深遠な世界に意外性ではなく“らしさ”を感じることだろう。
実はガーリーなポップ・ミュージックについての好き嫌いが激しかったりもする僕にとって、レンカの作品はかなりストライク。彼女が影響を認めているのはビョーク、ビートルズ、バート・バカラックという“B”が頭文字の3組。クラシックの世界で言えばバッハとブラームスとベートーヴェンが“三大B”だけども、我が家の場合はブラック・サバスとビリー・ジョエルとビースティ・ボーイズだろうか(かなりいい加減に思いつきで書いています、念のため)。デヴィルドライヴァーについては、ぶっちゃけ、「本当は今作でもっと大化けすることを期待していたのだが、元々好きなので10選には普通に入ってしまう」というのが本音。そろそろライヴが観てみたい。
THE VICKERSについては未知の読者のほうが多いはずだが、彼らは2002年に結成された東京産ロックンロール・バンド。幾度もメンバー・チェンジを重ねていて、今回リリースされた第6作は現ラインナップでの初の公式音源にあたる。ガレージ臭もすれば北欧の薫りも漂ってくる暴走型サウンドを聴かせるのだが、モーターヘッドやアイアン・メイデンをフェイヴァリット・バンドに挙げていることからも察することができるように、随所に“メタル愛”が顔を出すところが僕的にはかなりツボ。言い換えればお洒落すぎないということでもある。音源自体の完成度については、いわゆるメジャー作品のようなクオリティを伴っているわけではないが、彼らがどんなライヴを身上とするバンドであるかは確実に伝わってくる1枚だといえる。この夏は各地のライヴハウスをまわるようなので、是非この名前をチェックしてみて欲しい。
そして最後の1枚は輸入盤。ポップおたくのマシューと、バングルズのスザンナのデュエットによるカヴァー・アルバムの第2弾なのだが、ラズベリーズやらフリートウッド・マックやらモット・ザ・フープルやらカーリー・サイモンやらという選曲が素晴らしすぎて、マジで笑が止まらなかった。この人たちが日本人だったなら、きっと同じ時代に『ミュージック・ライフ』を読んでいたんだろうなあという感じ。
さらに、今月は各方面とも豊作だったのみならず、ちょっと前から輸入盤で聴きまくっていたものがようやく日本発売に至ったりというのも多く、なかなか10枚に絞り込むのが大変だった。他によく聴いたのはキャンドルマス、シルヴァーサン・ピックアップス、ウィルコ、サンライズ・アヴェニュー、ドス、スイサイド・サイレンス、ジューダス・プリーストのライヴ盤、ロイヤル・ブリス、アレクシスオンファイアー、パオロ・ヌティーニといったところ。そういえば、やはり輸入盤で手に入れたイアン・ハンターの新作も今月、日本盤がリリースになる模様。諦めていたモット・ザ・フープルの復活倫敦公演への未練がめらめら再燃する今日この頃、だったりもする。そう、ファンというのは諦めの悪いイキモノなのである。
増田勇一
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