DIR EN GREY、果てしなき『UROBOROS』の結末と、満たされた“明日の条件”

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果たしてこれまで『UROBOROS』について、どれだけの文章を書いてきたことだろう。2008年11月に世に放たれたこの怪物アルバムは、紆余曲折を経ながら“最強にして最狂”と形容するに相応しい現在を手に入れたDIR EN GREYが持ち合わせるさまざまな側面と可能性が、あり得ないほどの濃密さで封じ込められた究極的作品と言っていい。が、進化/深化を止めることのないこのバンドにとっては、それすらも“過去形の究極”になりつつある。1月9日、10日に東京・日本武道館で行なわれた二夜公演を味わい尽くした現在、僕はそう感じずにいられない。

◆DIR EN GREY、ライヴ画像@東京・日本武道館

<UROBOROS ‐with the proof in the name of living...‐>と銘打たれた今回の両公演は、改めて説明するまでもなく、『UROBOROS』を軸としながらワールドワイドな規模で展開されてきたツアーの完結編にあたるもの。そのタイトルからは“存在証明”といった言葉が連想されるが、実際、このアルバムの収録曲のひとつである「我、闇とて…」の詩の最後には“生きるという名の証を…”という一節があり、しかもそれは“明日の条件”という言葉と連なりながら顔を出す。この二夜こそがDIR EN GREYの存在理由を現在なりの説得力をもって証明するための場。そしてそれ自体が、未来を手にするうえで不可欠なプロセス。もちろんこの公演タイトル自体は、2008年12月29日、徹底的に『UROBOROS』の世界観体現にこだわりながら実践された大阪城ホール公演<UROBOROS -breathing->と呼応するものであり、そこまで重い解釈をすべきものではないのかもしれない。が、単なる公演タイトルとして軽い気持ちで見過ごすわけにはいかない決意めいた匂いを、あらかじめそこに嗅ぎ取っていたのは僕だけではないだろう。

そして、肝心のライヴを通じて証明されたこと。それは、現在のDIR EN GREYが本当の意味で唯一無二の存在として成立しているという事実と、『UROBOROS』という作品自体が象徴していた“自己探求の旅”には、やはり終着点など設定不能だということだった。

二夜公演の具体的な流れに関しては、別掲のセットリストをご参照いただきたい。なにしろ彼らは両日でのべ46曲を演奏し、しかも演出面での特殊効果などを含む特筆すべき要素のない曲は、ほぼ皆無という状態。第一夜、オープニングSEの「SA BIR」に導かれながら「VINUSHKA」が始まった瞬間から場面を追い続けていくと、それだけで短編小説に等しいくらいの文章を書かなければならなくなる。それに取り組むのは、いつか速報性を重んじる必要のない原稿を書く機会が訪れたときに譲ることにしたい。同時にそれは、「あの曲がひさしぶりに演奏された」とか「この曲のこの部分の演出がすごかった」といった文章を綴ることが馬鹿らしく思えてしまうくらいに、とにかくすべてが凄まじかったからでもあるし、当然ながら理由としてはそちらのほうが大きいのだが。

あくまで『UROBOROS』を中心軸に据え、さまざまなキャスト(=過去の楽曲)を効果的に配し、起点も経路も風景すらも異なっていながらも、結論は同一。そんなふたつの物語を、DIR EN GREYは日本武道館の巨大空間で提示してみせた。京のヴォーカル・パフォーマンスにしろ、各メンバーの演奏ぶりにしろ、難度の高い技をぶつけあう競技のような無闇なテクニカルさとは無縁と言っていい。が、このバンドは難解さや高尚さ、ある種の小賢しさでオーディエンスを黙らせようとするのではなく、声に、音に、込められたものの圧倒的な濃さによってすべてをねじ伏せてしまう。技量のみで比較すれば、この5人以上にすぐれた演奏家はここ日本にもたくさんいる。が、本当にひとつでも歯車が違っていたら、誰か一人でも違った方角を向いていたら成立しないのがDIR EN GREYなのである。そんな、緊張感を超えた緊迫感。それをここまでヒリヒリと感じさせてくれるバンドはそうそう存在しない。

もちろんそれは、かつてこのバンドが抱えていた“危うさ”や“脆さ”とはまったく別種のものである。正直に言えば、未成熟さゆえのそうした部分を、たとえば“歪んだ美しさ”などと、つとめて好意的に解釈しようとしていた時期が過去にあったことも僕自身にはある。しかし現在のDIR EN GREYは、まさにDIR EN GREYとして完璧な状態にあると言っていいし、それを裏付けているのが経験であることも、言うまでもない。2009年を通じて国内/国外で消化されてきたライヴは、欧州や南米でのフェス出演なども含め、全96本に及ぶ。その本数自体が最重要なわけではないし、このバンドの歴史においても年間最多本数というわけではない。が、地方の小さなライヴハウスで体感した熱、海外の巨大フェスのステージに挑むときの強い覚悟、初めて訪れた国で味わったファンの飢餓感…そういったものすべてがDIR EN GREYを真に“最狂”なまま“最強”に鍛え上げたのだと僕は思う。

複数のスクリーンを組み合わせながら描き出される、リアルかつ奇想天外な映像。立体的な空間を演出する照明効果。その場を焼き尽くさんばかりの勢いで噴出する炎。そうしたさまざまな演出とシンクロしながら披露された各々の楽曲たちが伝えてくれたのは、たとえばこのバンドが遠い昔からテーマのひとつに掲げてきた“痛み”であり、“目を背けてはならない現実”であり、“人間の愚かさと、それゆえの義務”だったようにも思う。が、そうしたいかなる示唆的メッセージよりも、DIR EN GREYという存在自体の、度を越した激しさ、濃密さ、鋭利さに、僕は圧倒されることになった。

しかし冒頭にも記したように、それでもここは終着点にはなり得ない。とりあえずの着地点ではあっても、やはり彼らは自分たちの尾を追いかけていくことになる。そんなエンドレスな旅がまだまだ続くことを、「VINUSHKA」で第一夜の幕を開け、同楽曲で第二夜のアンコールを終了するという展開自体が象徴していた気がする。

もうひとつ象徴的だったのは、そうして2本のライヴが完結した直後の風景だ。第二夜の最後、「VINUSHKA」の余韻を味わうまでもなくメンバーたちは姿を消した。そして通常はオープニングに用いられる「SA BIR」とともに2009年の公演履歴が映画のエンドロールのように流れた後、スクリーンに映し出されたのは、「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」のビデオ・クリップ。その映像自体が“大人の事情(=ご立派な常識)”により、これまでTVなどでは途中までしか公開されてこなかったことをご存知の読者も多いはずだが、結果的にはこの場こそが、この映像作品の全編が公衆の面前で披露される最初の機会となった。その衝撃的展開には悲鳴めいた声もあがっていたが、それ以上に特筆すべきは、その場面で誰も会場をあとにしようとはせず、大合唱でこの曲に共鳴していたことだろう。そして、明るくなった場内に鳴り響いていたのは、文字通り割れんばかりの拍手。間違いなくそれは、すでに楽屋に戻っていたメンバーたちの耳にも届いていたはずである。

こうして<UROBOROS ‐with the proof in the name of living...‐>は幕を閉じた。しかし繰り返しになるが、DIR EN GREYの自己探求の旅には終わりなど存在しない。とはいえ、そんな迷路のなかで限界を感じているメンバーは一人もいない。終演後のメンバーたちの表情に浮かんでいた充足感が、それを無言のうちに物語っていた。

増田勇一

<UROBOROS ‐with the proof in the name of living...‐>
2010年1月9日(土)@東京・日本武道館
-SE-SA BIR
・VINUSHKA
・凱歌、沈黙が眠る頃
・RED SOIL
・STUCK MAN
・GRIEF
・慟哭と去りぬ
・Merciless Cult
・凌辱の雨
・蜷局
・GLASS SKIN
・我、闇とて…
・dead tree
・HYDRA -666-
・BUGABOO
・冷血なりせば
・DOZING GREEN
-encore 1-
・INCONVENIENT IDEAL
・CONCEIVED SORROW
-encore 2-
・残
・激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
・THE III D EMPIRE
・羅刹国
・CLEVER SLEAZOID

2010年1月10日(日)@東京・日本武道館
・我、闇とて…
・Deity
・OBSCURE
・RED SOIL
・STUCK MAN
・慟哭と去りぬ
・蝕紅
・蜷局
・GLASS SKIN
・THE PLEDGE
・DOZING GREEN
・dead tree
・BUGABOO
・冷血なりせば
・凱歌、沈黙が眠る頃
-encore 1-
・HYDRA -666-
・AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS
・朔-saku-
・残
・激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
-encore 2-
・THE FINAL
・INCONVENIENT IDEAL
・VINUSHKA
-SE-SA BIR
・激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇(MUSIC CLIP)

◆DIR EN GREYオフィシャルサイト
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