ASKA、ミステリアスなタイトルの普遍的なセルフカヴァー作品集『12』

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ASKAが、これまでCHAGE and ASKAとして、そしてソロアーティストASKAとして世に生み出してきた数多くの楽曲の中からセレクトして、セルフカヴァーしたアルバム『12』(トゥエルブ)をリリースする。

このアルバムには、「LOVE SONG」「天気予報の恋人」「WALK」「PRIDE」など、これまでCHAGE and ASKAとしてリリースしてきた作品、さらに「はじまりはいつも雨」「月が近づけば少しはましだろう」といった、ASKAソロ曲を新たにレコーディングして、全12曲収録している。

デビューして30年。ASKAがこれまで生み出してきた楽曲には、その時代時代を反映したストーリーが刻まれていると同時に、現在においても通じるメッセージが存在している(それはそもそも、ASKAの曲に“スタンダード・ナンバー”と呼ばれる楽曲が持つ普遍的なメッセージ性とクオリティを兼ね備えているがゆえのことなのだが)。今回の『12』は、そんなASKAの過去の楽曲に再度スポットを当て、ASKAがひとりのリスナーとして、今、この時代にこの楽曲たちを最も聴きたいアレンジでレコーディングした作品だ。言い換えるなら、過去の作品たちに、今このタイミングでジャストな服を着せ直して、楽曲の持つメッセージをこれから先10年後、20年後、30年後…遠い遠い未来の誰かへと伝えていくため、そして残していくための作品だともいえる。

◆ASKA『12』収録曲全曲レビュー&「LOVE SONG」PV映像

収録曲の詳細については、別掲の全曲レビューに譲るとして、アルバム全体を通して感じるのは、“ASKAがひとりのリスナーとして、今一番聴きたいアレンジで”“未来のリスナーに残していくためのアルバム”ということで、良くも悪くもリスナーを裏切るようなアレンジはない、ということ。過去にCHAGE and ASKAでリリースしたセルフカヴァー・アルバム『STAMP』ほどの“スリリングな感覚”は味わえないかもしれないが、一方で、今回の作品は何度も聴いているうちに、さもこちらがオリジナルのような気になってしまう。つまりこれは、それぞれの楽曲にピッタリのアレンジがなされているということであり、ASKA、制作陣が目指したものを具現化できたアルバムだということでもある。

そして、新しい服を着たこれら楽曲を聴いていて気づくのは、原曲を聴いていた“あの頃”と、今とでは少しだけ曲の捉え方が違うということ。『12』の収録曲は、いずれも15年近く、もしくはそれ以上前の作品ばかり。当時10代だったリスナーは20代に、20代だったリスナーは30代となり、オリジナルを耳にしていた頃よりも、様々な経験をしてきたはずだ。そして2010年、あの頃に聴いていた作品を再び新しい気持ちで耳にすると、この10年、20年、それ以上の人生経験が、ある種のセンサーのように働き、当時にはわかりえなかった曲に込められた想いや行間を感じることができるようになる(それはリスナーの独りよがりなのかもしれないのだけど…)。

また制作サイド、ASKA自身もまた、当時と楽曲に関しての想いや伝えたいことが変わってきているのかもしれない。たとえば、今回新たに制作された「LOVE SONG」のPV映像を見てもそうだろう。目の前にある大きな壁を壊すために、年齢や、性別や、人種を越えて多くの人が手を取り合って協力する姿を描いたこの映像。「LOVE SONG」は確かに<君が想うよりも 僕は君が好き>と歌う“ラブソング”だが、この2010年版の「LOVE SONG」に込められた“LOVE”には、もっと広い意味が込められているのは明らかだ。

『12』は、単なるセルフカヴァー・アルバムではない。原曲こそ過去にリリースされているが、新たに施されたアレンジ、新たに歌い直したヴォーカル、そして歌われている内容の受け取り方、さらに新たに込められた想いという意味では、むしろ新曲という表現さえ近いように感じられてしまう。そして「スタンダート・ナンバー」というのはそういうもの。原曲こそひとつだが、歌うアーティスト、施されるアレンジ、そして受け取り手(リスナー)、さらに時代や空間などによって柔軟に姿を変える。それができるのは、曲の中に、柔軟な変化を許容できるだけの“のりしろ”と、姿をいくら変えても変わらない普遍的なものがあるからであり、ASKAの作品も、まさにそうなのだ。
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