ASKA、ミステリアスなタイトルの普遍的なセルフカヴァー作品集『12』

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【ASKA『12』全曲レビュー】

デビューして30年。ASKAがこれまで生み出してきた楽曲には、その時代時代を反映したストーリーが刻まれていると同時に、現在においても通じるメッセージが存在している(それはそもそも、ASKAの曲に“スタンダード・ナンバー”と呼ばれる楽曲が持つ普遍的なメッセージ性とクオリティを兼ね備えているがゆえのことなのだが)。

今回の『12』は、そんなASKAの過去の楽曲に再度スポットを当て、ASKAがひとりのリスナーとして、今、この時代にこの楽曲たちを最も聴きたいアレンジでレコーディングした作品だ。言い換えるなら、過去の作品たちに、今このタイミングでジャストな服を着せ直して、楽曲の持つメッセージをこれから先10年後、20年後、30年後…遠い遠い未来の誰かへと伝えていくため、そして残していくための作品だともいえる。


アルバムのオープニングを飾るのは、「SAY YES」のドラムをはじめ、ASKAのライヴやレコーディングではもちろん、最近では浜崎あゆみのツアーメンバーとしてもおなじみ、江口信夫が叩くドラムからの「LOVE SONG」。1989年にCHAGE and ASKAのシングルとしてリリース(ちなみに「LOVE SONG」は1992年にも再びシングル化されている)されたこの曲。「SAY YES」でオリコンウィークリーシングルチャート13週連続1位(約3ヶ月間)という空前の大ブレイクをはたす2年前の作品ながら、言うまでもなく作品クオリティはとても高い。ドラマの主題歌ということで大ヒットした「SAY YES」だったが、彼らにとっては、ヒットというのはひとつのきっかけであり、もしそのきっかけが「LOVE SONG」の前に転がっていれば、間違いなく「LOVE SONG」がCHAGE and ASKAの国民的ヒット曲となったことだろう。

さて、今回の「LOVE SONG」は、最初にも触れた通り、ドラムの音色などからバンドサウンドの色合いを濃くしているのがわかる。また、曲中には効果的にブレイクを入れることでダイナミックさが増し、よりドラマチックに曲が展開していく。ASKAのヴォーカルはというと、歌い方こそあの頃とは変わっているが、曲に流れる“SOUL”を感じさせ(余談だが、「LOVE SONG」は元々仮タイトルは「SOUL」だった)、原曲と同様にしなやかさと優しさで聴かせる。

「風のライオン」は、CHAGE and ASKAのアルバム『RHAPSODY』収録曲(1988年)であり、1990年リリースのバラードベスト『THE STORY of BALLAD』にも収録されている一曲。オカリナ系の音色でオリエンタルな雰囲気を醸し出す、このノスタルジックな楽曲では、当時の“ASUKA”と2010年のASKAが時代を超えて交錯する。Aメロ、Bメロの歌い方では原曲の歌い方がチラチラと顔を出すが、言葉の噛みしめ方や呼吸はやはり今のASKA。あの頃の長かった髪を切ってもう久しくなるが、2010年のASKAには、どんな風が吹いているのか。風向きはあの頃と同じか。はたまた…と、そんなことを想像してしまいそうな1曲だ。

オリジナルに近いアレンジは、ASKAのソロシングルとしてミリオンセラーを記録した「はじまりはいつも雨」(1991年)。ピアノ、グロッケン、ハープの音色が雨だれのように響けば、ASKAの歌声は雨に染み込むように生まれては消えていく。これはつまり、当時のアレンジがいかにその曲の個性を十分に引き出せていたか、ということの裏返しでもあるだろう。ちなみに『12』のアレンジは、ASKAにとって盟友ともいえる、澤近泰輔と十川ともじが担当。「はじまりはいつも雨」は、原曲も今回も澤近のアレンジによる。
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