ASKA、ミステリアスなタイトルの普遍的なセルフカヴァー作品集『12』

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シンセサウンドを押し出した「WALK」(1989年のシングル)。CHAGE and ASKAの楽曲の中でもファンからの評価の高いこの曲は、若干デジタルを意識した新たな服が着せられた。ただ、音の方向性は違うように思えて、実はとても似たベクトルにあり、全体を通して聴くと原曲と同じように不思議な音空間を作り出しているのがわかる。いわば、オリジナルが20世紀の(アナログな)「WALK」なら、今回の「WALK」は、21世紀を意識した少しデジタルの香りのする「WALK」なのだろう。

シングルカットされていないにも関わらず、絶大な人気を誇る名曲「PRIDE」(1989年、CHAGE and ASKAのアルバム『PRIDE』収録)は、2009年末のクリスマスライヴ<昭和が見ていたクリスマス>で聴かせてくれたような、ストリングスとピアノという荘厳な歌い出し(クリスマスライヴでは澤近のピアノによる歌い出しだったが)。そして曲が展開していくにつれて増していく、楽曲の壮大さ。この曲には、その歌詞のひとつひとつ、メロディーの一音一音から、込められた魂、想いが強烈に伝わってくる。たとえるなら、讃美歌のような美しさと強い信念を兼ね備えた楽曲だ。

映画のエンドロールが目の前に浮かぶかのようなアレンジに生まれ変わった、1988年のCHAGE and ASKAのシングル曲「恋人はワイン色」。そもそもドラマの主題歌だったこの曲だが、新アレンジでは、ダイナミックなリズムとともに、ポップなラブストーリーを見終わったかのような幸福感をもたらしてくれる。これほどまでに鮮明なヴィジョンが浮かんでくる楽曲というのも驚きだが、歌詞の内容も含めて、20年以上前の楽曲なのに、いまだまったく色あせることない魅力を楽曲が備えているという発見にも注目したい。

クラシックギタリストの木村 大を迎えた「伝わりますか」は、ちあきなおみに提供し、のちにASKA自身もアルバム『SCENE』(1988年)でセルフカヴァーした楽曲だ。木村の奏でる温もりあるガットギターのアルペジオが、歌われている女が求める“温もり”を感じさせる。このギターの音色、ASKAの歌声が空間に消え入る一瞬の寂しさ。ぜひそのあたりまで聴き込んでみてほしい。ちなみに余談だが、この曲、当時、ASKAがドラマ『友よ』のロケのために三重県の鈴鹿(鈴鹿サーキット)を訪れていた際、ホテルで無性にギターが弾きたくなって、近くの楽器屋でレンタルして弾いていたところ生まれたというエピソードを持つ。

ゴスペルのようなコーラスから入る「月が近づけば少しはましだろう」(1995年リリースのASKA3枚目のソロアルバム『NEVER END』収録)からは、ASKAの息づかいが聞こえる。当時、<この詞については、深くコメントする気持ちはない>と話したASKA。今回もメロディーを撫でるのではなく、歌詞を打ったヴォーカルによって、人の持つ弱さ、傷つき続ける人の生き様をリアルに映し出す。1995年の初出から、15年が経過し、あの頃よりさらに傷を負いながら生きてきたASKAが、その姿を晒したかのような生々しい歌声、叫び。そして、そこまでしてもなお、歌い続けるという姿勢がその歌声を通して痛いほどに伝わり、思わず涙してしまう。これはASKAだけではない。この曲に歌われている想いは、これまで生き続けてきた、そしてこれからも生き続けるすべての人に当てはまるはずだ。
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