ジェフ・ミルズのサイエンス・フィクション・ミュージック

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ミニマル・テクノのオリジネーターにして「ターンテーブルの魔術師」と称されるジェフ・ミルズ。ダンス・ミュージックという快楽を追求する音楽の枠に留まらず、彼の作り出す音楽には哲学や思想が色濃く反映されている。そんな彼が長きにわたり考究しているテーマが“宇宙”だ。このことから、また、その風貌から“宇宙人DJ”と例えられることも多い。

◆ジェフ・ミルズ画像

これまで年に数回来日し、2002年からは毎年10月に1カ月間、週替わりで志向を凝らしたレジデンシー・パーティを開催してきたジェフが、2006年のレジデンシーをもって日本での活動を封印。3年間にわたる「宇宙旅行」に出て、その旅の記録をアルバムとして発表することを宣言した。定期的に彼のプレイを見られる恵まれた環境にいた日本のファンが、こんなにも長い間、生のジェフが見られないということはこれまでなかったことだ。その封印がようやく解かれ、渇望していたオーディエンスの前に再び姿を現したのが2009年末のWOMBでのカウントダウン・パーティだった。「ジェフ・ミルズで新年を迎えられる」ことに至福を感じるテクノ・ファンは日本だけに留まらず、海外からの問い合わせも多かったという。

12月31日、この日のWOMBには正面に円形のステージが設置され、そのステージ上にはたくさんのCDがディスプレイされたラックがあるのみ。DJセットの姿は見えない。オープンと同時に、フロアに設置された2台のお立ち台に、シルバーのフルボディスーツに包まれた2名の女性ダンサーが登場。シンメトリーにシンクロするダンスのコンセプトは「Advent(到来)」。それは何か特別な事が起きる予感を呼び起こすスピリチュアルな開眼を示唆し、そのダンスは来るべきものへ信号を送り、迎え入れる準備を意味するものだとジェフ・ミルズは定義付けた。この時点ではまだジェフは姿を現さず、オーガニックなパルスを中心にした重厚な胎動のような音楽が彼女たちのサウンドトラックとして用いられた。

いよいよ正面スクリーンにカウントダウンの数字が映し出される。フロアはいつの間にか超満員の熱気に溢れ、ジェフの登場を待ちわびる。00:00:00。2010年に切り替わった瞬間、スクリーンにジェフの目覚めを象徴するような目のアップが映し出される。そして、ハードなフライトスーツに身を包んだジェフ・ミルズが3年ぶりに日本のオーディエンスの前にその姿を現した。大きな歓声が上がる。さらにオーディエンスは彼のDJスタイルに息を飲むことに。円形ステージには、ミキサー、4台のCDJ、TR-909が埋め込まれていて、彼は地面に膝まづきプレイをしているのだ!常々想像を超えたコンセプトを提案してくれる彼だが、このような斬新なプレイスタイルで特別な空間を作り出そうとしているとは、まさに驚愕のひとこと。

もちろん、今回もコンセプト、映像、演出含めすべてジェフ・ミルズのアイディア。円形ステージに斬新なプレイスタイル、その後ろに円形状に映し出される宇宙の映像とアルバム『スリーパー・ウェイクス』のジャケットにも描かれているスパイラル。ライティングもあえてレーザーは使わず、3段に分けて設置されたストロボで視覚を震撼させる。

ジェフ自らが作成した進行表には、時間軸でその時に映す文字、映像、ライティングの細かい指示が書き込まれていた。視覚的こだわったものがもうひとつある。衣装だ。彼は服装さえも音楽のコンセプトのひとつとして捉えている。航海中に身に付けていたフライトスーツの他に、“セカンドスキン”という名のジャンプスーツをこの日のためだけに制作。衣装を手がけたのは、2008年のFirst Transmission、WIRE09でもジェフの衣装を作成したPUBLIC IMAGEだ。航海も終わりに差しかかり、いよいよ地球への帰還が近づいたときにチャンジされた細身のスーツを連想させる“セカンドスキン”は、地球への帰還に際した正装ともいえるものだろう。

オープニングのダンサーパートからクロージングまで、プレイされた楽曲はすべてこの特別な日のために作られた旅の記録。その数はなんと125曲にもなる。ステージ後方に配されたラックのCDは、使用したものを裏返しにしていったのだが、終わったときにはほとんどの盤面が裏になっていた。この日、この場所を訪れたオーディエンスは100曲以上の彼の新曲を聴けたことになる。

地球帰還のスペシャルなショーに先立ち、新作オリジナル・アルバム『スリーパー・ウェイクス』がリリースされた。前述のように約3年間の宇宙旅行からインスパイアされた壮大なるスペース・シンフォニーだ。ジェフの音楽は「テクノ」とカテゴライズされるものだが、彼自身は自分の音楽を「サイエンス・フィクション・ミュージック」と呼んでいる。コンセプチュアル・アートとも呼べる彼の創作する音楽は、単なるテクノとは一線を画するものだ。これからは彼の作り出す音楽を、我々も「サイエンス・フィクション・ミュージック」と呼ぼうではないか。

最新の「サイエンス・フィクション・ミュージック」が、早くも4月に我々の手元に届くという。それは、『スリーパー・ウェイクス』の旅の途中で、宇宙遊泳中のジェフが遭遇したアクシデントのレポートとしてまとめられたもの。実験的なコンセプトを基に作られた『Exhibitionist』から実に6年ぶりとなる一筋縄ではいかないMIXアルバムで、彼の波乱に満ちた旅を確認してほしい。

Text by yukari sakamoto
Photo by STRO!ROBO, HIDEYUKI UCHINO

『ジ・アカーランス』
2010年4月14日発売
XECD-9128 (税込)2,880円
※生産限定ヴァイナル・ディスク仕様
XECD-1128 (税込)2,480円
※通常盤
・「この1時間4分44秒にわたるMix Reportは、宇宙遊泳中にジェフ・ミルズが体験したアクシデントの記録である。」
・日本初Vinyl-Disc(ヴァイナル・ディスク)仕様
・Jeff Millsによる6年ぶりのDJ MIX CD
・未発表ボーナス・トラック/ Vinyl-Discに限定収録
<Vinyl-Discとは>
ドイツのメディア製造会社が開発した新たなメディアで、約70分収録可能なCD面と、約3分収録可能なアナログ面(12cm)の両面ディスクとなっている。アナログ面(12cm)は、ターンテーブルで再生可能。もちろんCD面も通常のCDプレイヤーや、PCでも聴く事が出来る。
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