「百鬼夜行奇譚」第ニ夜:【鬼櫻】桜花[弐]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第ニ夜:【鬼櫻】桜花[弐]
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駅から僕の自宅までの道のりには、緋寒桜の並木が続いていた。彼女はいつも人通りの多い道を歩いてくるのだが、初春になると緋寒桜の並木のある、少し寂しい裏道を歩いた。冷たい闇夜を切り裂くように咲き誇る桜は、まるで暗闇に紅の毛氈を敷きつめたようにも見えて、とても美しかった。誰が植えたのか、いつからあるのかもわからない、緋寒桜の並木。この街には似つかない見事な桜だった。そして彼女は桜が好きだった。

そんなことを思い出しているうちに自宅のある駅に着き、電車を降りる。駅から自宅までの道のりは歩いて十分程度。決して駅から近いとは言えない立地条件だったが、道すがら商店街やコンビニエンスストアも多く、それなりの広さのあるマンションでもあったため、気に入って昨年の十月に引っ越して来たのだった。

しかしもう4月も半ばを過ぎたというのに、この寒さはどうしたことだろう。薄手のジャケットだけで外出したことを悔やみながら、家路を急いだ。

歩きながらまた携帯を開き、もう一度メールを見返してみる。彼女から最後に送られて来たメールの送信履歴は、一月二十七日の、午後十一時二十一分。決して早い時間ではないが、深夜と呼ぶほどの時間でもない。

あの夜、あまりに彼女が遅いので探しに行ったのだが、彼女の姿はもう何処にもなかった。携帯は繋がらず、そして写メールで送られて来たような満開の桜なども、何処にも見あたらなかった。

あれから彼女は自宅にも、実家にも戻らず、会社も無断欠勤のままだった。警察で会った憔悴しきった彼女の両親から向けられた視線が、痛くて、そして悲しかった。結局、突然の失踪ということで皆は納得するしかなかった。

「何処行っちゃったんだよ・・・」そう呟いて、また今夜もあの裏通りを歩く。彼女が消えた日から、帰路はずっと裏通りとなっていた。あの日から、何度も何度も歩いた道。桜はすでに散ってしまっていて、今は葉桜がざわり、と揺れるばかりであった。

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

次回「【鬼櫻】桜花[参]」 5月17日(月)公開予定

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<Kayaマンスリーライヴ“DIVA”>
6月6日(日)池袋BlackHole
7月7日(水)池袋RUIDO K3
8月8日(日)新宿RUIDO K4
9月9日(木)高田馬場AREA
10月10日(日)渋谷RUIDO K2
11月11日(木)池袋BlackHole
12月12日(日)未定

◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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