泉谷しげる、「俺はやるよ。“もうやめてくれー”って言われるまで」

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1970年代から2010年代まで、時代を駆け抜けたオリジナルアルバム22枚に渡る、レーベルを超えた泉谷しげる初のオールタイムベスト『天才か人災か』発売となった。

デビュー作『泉谷しげる登場』から39年。10ものレーベルを渡り歩いたフォーク~ロックの猛者たる泉谷しげるのオールタイムベストは、2CD全36曲+豪華アーティストとの対談含む、ヒストリカル映像満載のDVDがついた永久保存版だ。

泉谷が眉間にしわを寄せてにらみをきかせるインパクト大のジャケットのイラストは、「20世紀少年」の浦沢直樹による描き下ろしだ。

「自覚なき人災ヤローの肖像画を書いてもらうには、線画の天才・浦沢直樹にお願いするのがイチバンだったんだ!ど~でぇ、このムダのない線のみでここまでオレの特徴を押し出してくれンだからさ~、スバラシ!! 浦沢さんと友人になれてよかった!よかった!!」──泉谷しげる

●泉谷しげる「天才か人災か」を語る

──初のオールタイム・ベストですね。これまでも、とてもオフィシャルなものとは思えないような怪しいベスト盤はいろいろ出てましたけど…。

泉谷:そうなんですよ、怪しいベスト盤はいっぱい出てた。エレックやフォーライフが勝手につくったやつとか(笑)。

──ぼくも何度買おうとしたことか(笑)。アナログ時代のアルバムをLPで持ってる世代にとっては、CDのベスト盤はあんがい重宝しますからね。

泉谷:決定版と言えるようなベスト盤を出してくれっていうのはよく言われた。でも、レコード会社を10社も渡り歩いてると、オールタイム・ベストってなかなかつくれないんですよ。いろんなレコード会社と交渉しなきゃいけないから。

──今回の選曲はご自分でされたんですか?

泉谷:いや、これはポニーキャニオンとフジパシフィック音楽出版の企画だから、両社のスタッフに任せました。これまで俺のアルバムを出してきたほとんどのメーカーと交渉するって言うから、それなら選曲は任せるよって。自分で選ぶと偏っちゃうかもしれないし、多くの人が聴きたい曲が選ばれてる方がベスト盤としては優秀なはずだからね、38年分の録音から選んだ36曲だもん、そんなにハズレたものにはなりようがないし。

──DVDには撮り下ろしのインタヴューが収録されてるそうですね。

泉谷:うん。エレックはどうして潰れちゃったのか~とか、フォーライフから抜けたのはどうしてか~とか(笑)、モノローグで2時間以上しゃべった。でもさ、アイツがバカで~とか、コイツがダメで~なんて言ってると、こいつら(キャニオンとフジパシフィックのスタッフ)が、バツ、バツってジェスチャーするんだよ(笑)。そこが面白いところなのにさ~。ま、ほかの会社にも協力してもらえたからできたベスト盤なんで、大人の対応としてはごもっともなんだけど(笑)。結局、あそこは使えません、ここはヤバイっすなんて言って、40分強にまとめられたのかな。だったら最初から言えよ~なんだけど、長年の恨みつらみをしゃべってるうちに調子が出てくるのが俺だから(笑)、それもしょうがないか、と。

──1971年のデビューから今日までを振り返るインタヴューDVDがついてるっていうのは、オフィシャル感を高めてますよ。

泉谷:そうだね。今回のポイントはDVDとジャケット。ジャケットは俺が浦沢直樹さんに直接頼んだんだからね。スポーツ新聞ではやけに大袈裟に書かれちゃったけど、浦沢さんと一緒にボブ・ディランを観に行ったときに、呑んでる席で“描いてよ~"ってダメもとで言ってみただけ(笑)。

──いやあ、ジャケットは大迫力ですよ。さすがは“中学のときから泉谷ファン”と公言してる浦沢さんだけのことはある。あの表情は“ベスト盤?ふ~ん”って言っちゃいそうな泉谷さんをよくとらえてますね。

泉谷:俺もそう思ったんだ。ホントは嬉しいくせに、“なにがベスト盤だ、遺産でショーバイしやがって”って顔だよ、これ(笑)。写真渡したわけじゃないのにそういう“いかにも”な顔を描いちゃうっていうのが凄いですよ。天才だね、あの人は。俺は間違いなく人災の方だけど(笑)。

──CD2枚とDVDがスリップケースに入っているモノとしての大きさの上に、浦沢画伯が描いた赤い泉谷がドーンですから、ショップでもこれは目立ちますよ。

泉谷:だよね。だから箱によけいな文字は入れるなって言ったの。浦沢さんの絵が存分に語ってくれてるから、そこは曇らせたくなかった。箱だから立つでしょ。ぜひ飾ってほしいな~。アートですよ、このジャケは。

──しかし、改めて38年間の音をこうしてダイジェストされると、泉谷作品の平均点の高さが際立ちますね。こんなに長くやってくれば普通は何回かのピークが見えると思うんですけど、サウンドは時代に応じて変化しているものの、泉谷さんの曲づくりやヴォーカルはほとんど変わってない。そのときそのときでは、ぼくも“今度のアルバムはカッコいいぞ”とか、“ちょっとオーヴァー・プロデュース気味か?”なんて思ったりしてたんですけど、まとめて聴かされると一貫した泉谷節に“参りました”ってなっちゃう。

泉谷:それはさ~、ヒット曲ってかたちでピークがないからじゃない?俺は曲つくって発表しちゃうと、売れようが売れまいが、それは皆さんのものだと思ってるのね。「春夏秋冬」だって“今日レコーディングする曲はつくってかないと~”ってコタツでミカン食いながらササッと書いて、持っていっただけ。スタジオでギター弾く指先を見たら、爪にミカンの皮が挟まってて黄色い、みたいな~(笑)。そうやってパッとつくってサッと録音して、出しちゃったら“皆さんのお好きなように”だもん。ピークを意識してるヒマはないわけですよ。ヒット曲が何曲もあるなら、世間から“お前はこことここがピークだった”って言われた気になるかもしれないけど、幸か不幸かそういうヒット曲がない(笑)。

──でも、加藤和彦さんや吉田健さんがプロデューサーだったりして、サウンドは時代とともに変わっている。だからぼくは、ベスト盤で聴けば泉谷さんの曲づくりやヴォーカルの変化も感じやすいんじゃないかと思ってたんですが、結果的には“普遍的な泉谷節”の方が強く印象に残って…。

泉谷:たしかに加藤さんとか吉田健には、泉谷しげるをこういう音に料理しよう、みたいな思惑が毎回あったと思うんですよ。でも、俺にはそんなのない(笑)。今度のアルバムのコンセプトは~なんていうのはないんだもん。ただ、曲できたー、録るってだけ(笑)。もう子供みたいなもんですよ。だから、加藤さんや吉田健に音楽的なこと言われても、“俺は難しいコードなんてわかんないですから~”だもん(笑)。

──それがよかったんでしょうね。

泉谷:そうだね。レコーディングだからうまく歌おうなんてことは俺はハナから考えてなかったし、そんなこと考えてたら萎縮していくばっかりでしょ。もしそこに陥ってたら、俺みたいなタイプがこんなに長く音楽をやってこれるわけがないんですよ。考えないからできた。どんなにがんばったってそんなに凄いものがつくれるわけがないって思ってるから、どれもそこそこのものになったってことなんじゃないかな。俺はフォーク始める前はローリング・ストーンズとかが好きだったから、どだいギターの弾き語りじゃああはならないよなっていうのがあった。日本で言えば、岡林(信康)先輩は声の美しさが半端じゃなかったし、RCサクセションはアコギで演ってるころからそれまで聴いたことないような凄いロックだったわけですよ。だから、欧米のロックをコピーしようとか、誰かの歌い方を真似してみようとかは、全然思わなかった。自分ができることをやるしかないってところから始まって、そのままずーっとやってきたってことなんだろうね。

──泉谷さんをあんまり知らない人は“俺が俺が”ってタイプの人だと思ってるかもしれないけど、そうじゃないですもんね。

泉谷:全然違いますよー。人を楽しませるのが俺の仕事だと思ってるから、自分が満足することなんて考えてない。ただ“お客さまは神様です~”でもないし(笑)、単なるいい人っていうのも困るんで、“てめーこの野郎!”とか“ババアは寄るんじゃねー!”なんてやってる。でも、それはいたずら心とか不良性ってことの表現ですから。バンドのメンバーにも“誰がお前のプレイを聴きにくるだよ!”なんて怒ったりするんだけど、曲の意味をちゃんとつかんで、心が入ってればどう演ったっていい。表面的にカッコつけたり、取りつくろってみたりすると、ろくなものにならないから怒るわけで、音楽は“俺が俺が”じゃつくれないですよ。いや、ドラマだってバラエティ番組だって同じだな。

──そういう泉谷流の自己表現を一言で説明するには、どう言えばいいんでしょう?

泉谷:“男の子”ってことじゃないですか。俺のファンは圧倒的に男が多いと思うし、女のファンだってその人の中にある“男の子の感性”で俺を見てるんだと思う。たとえば音楽やってる“男の子”は、まず楽器にこだわるでしょ?音色とか使い勝手だけじゃなくて、ギターのフォルム自体に。俺はライヴのときは、“どのギター持って行こうかな”ってところから考え始めるんですけど、イヴェントに出たりすると、必ずほかの出演者が俺のギターを見にきて、“これいいなー”とか“欲しいなー”なんて言ってるわけ。で、ギターの話してるうちに、打ち解けたり、友だちになったりする。そういうのって実に男の子的だと思わない?女の子はおままごとするのに“配役”から入ったりするけど、男の子はおもちゃの“形”。大人の男なら“道具”だよね。俺は、泉谷しげるという存在は、男の子のおもちゃだったり、男の道具だったりすると思うんだ。それが“在る”ことで仲間になれたり、みんなで何かを始められたりするツールってこと。ギターとかバイクみたいに、男の子が俺を使ってくれるのが、俺はいちばん嬉しいのかもね。でも使われっぱなしじゃイヤだから、“てめーこの野郎!”って暴れてみたり(笑)。それは“俺をうまく使えよ”ってことなんですよ。

──なるほどね。近年は大きなフェスに出たりしてるおかげで、若い女の子のファンが増えてるみたいですが。

泉谷:そうなんだよー。いまはYou Tubeなんてものがあるから、孫みたいな歳の女の子に「春のからっ風」をリクエストされたりして、こっちが驚いちゃう。こないだなんて、すげー若いネエちゃんが“「街はぱれえど」が好きです”なんて言うんだもん、思わず“何で?”ってツッコミ入れちゃった(笑)。

──このベスト盤が出ると、そういう傾向はさらに強まるんじゃないですか。

泉谷:だと嬉しいね。70年代、80年代と違って、いまは音楽に力がなくなっちゃってるけど、それは音楽がつまらなくなったからじゃない。実はみんな、ネットとかを使いこなせてなくて、どうでもいいことと大事なことの区別ができなくなってるだけなんじゃないか?「春のからっ風」や「街はぱれえど」みたいな古い曲に若い子が反応するのを見てると、俺、人の心はそんなに変わってないんだなって思うもん。だから、こっちから届けて歩くってことが、いまはすごく大切。ヒトはどうだか知らないけど、俺はやるよ。“もうやめてくれー”って言われるまで、パンパースつけてもやる(笑)。そのぐらいカッコ悪いのがロックだと思ってますから。

聞き手:和久井光司

『天才か人災か』
2010年5月26日(水)発売
PCCA-003162 5,250円[Tax in]
◆泉谷しげるオフィシャルサイト

2010年5月29日(土)
みんなの祭り無礼講ライブ
@アスナルホール(名古屋市中区)
2010年6月21日(月)
One of Love Vol.1
途上国の子供たちに未来の仕事を贈るプロジェクトGIG
渋谷プレジャープレジャー(東京都渋谷区)
2010年7月11日(日)
ブルボン Presents めざましクラッシックス in 長岡
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