「百鬼夜行奇譚」第五夜:【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~[壱]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」第五夜
【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~[壱]

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時は大正。文明開化が華々しく謳われた時代の隅、新宿の片隅にそのカフェはあった。

漆喰で塗り固められた白亜の壁には、幾重にも濃い緑色の蔦が巻きつき、出窓には白いレースのカーテンが飾られている。古い西洋の絵本から抜けだしてきたようなそのカフェの入口には、『喫茶 黒猫』という看板が、控えめにかかっていた。

十月の秋晴れの中、刈ったばかりの頭を気にしながら、男が二人歩いていた。
彼等の名は、和雄と誠といった。

秋とはいえ、晴れ渡った青空の下を歩き続けると流石に暑い。二人が喉の渇きを覚える頃、ふと『喫茶 黒猫』の看板が視界に入った。

「こんなところにカフェーなんてあったかい?」
「いや、初めて見るね。どうだい、冷たい珈琲でも。」
「いいね。ハイカラじゃないか。」

笑いながら、和雄は白いドアを開けた。

ちりん、とドアにかけられた鈴が鳴る。カフェの中に入った瞬間、圧倒されるほどの甘い薫りがした。大きな出窓があるというのに、店内はとても暗い。“何か”が室内に所狭しと飾られている――目が慣れるにつれ、それがおびただしい数の薔薇の花だとわかった。

「ようこそ、いらっしゃいませ」

薄暗い店の奥から、赤いドレスの女がゆっくりと歩いてきた。
「お二人様ですね?」
どきまぎしながらうなずくと、女は静かに微笑み、こちらへ、と出窓の席へと二人を招いた。

次回:【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~[弐] 10月11日公開予定

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」バックナンバー
・第一夜【不眠】~Psycho Butterfly~
・第ニ夜【鬼櫻】桜花
・第三夜【回顧】~Awilda~
・第四夜【来世】~Awilda~

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