<意味深3>でみせたKREVAの伝説、小室哲哉も登場

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尽きることのないチャレンジ精神を、いままで誰もやったことのない、自分にしかできないエポックメイキングなエンターテイメントとして昇華し、表現する。KREVAにとっての<意味深>とは、実験と進化を同時に射止めるようなライヴ・シリーズである。

◆KREVA<意味深3>画像

2007年、2009年に続く<意味深3>に選ばれた舞台は、これもKREVAにとって特別な響きをもつ“日本武道館”2デイズ。武道館ライヴもまた2006年、2007年に続き3度目。もはやファンのあいだではKREVA×武道館=伝説という方程式が浸透している。つまり、武道館で<意味深3>を開催するということは、2010年10月13日、14日が特別な2夜になることが約束されているようなものだった。そして、そういった期待感を丸ごと受け止めて、オーディエンスが抱く想像の何歩も先を行くのがKREVAという男である。

また、今回は事前にサポート・メンバーとして“TK”こと小室哲哉が参加することを発表。KREVAがヒップホップ・アーティストとしてのキャリアを始動してからずっと、トラック制作における支柱となっていたサンプリングの方法論。それをあえて遠ざけ、KORG社製のシンセサイザー“OASYS”(最新ミニ・アルバム『OASYS』のタイトルもこれに由来する)をメイン・エンジンにすることで、KREVAはいま新たな音楽世界を築き上げようとしている。言わずもがな、日本のポップ・シーンにシンセサイザーの存在、音を広めたのはTKにおいてほかならない。そのTKがどのタイミングで現れ、KREVAとどんな音楽の交歓を果たすのか。

開演予定時間の19時を回ると、SEのビートに合わせてオーディエンスのクラップが次第に大きくなっていく。間もなくして、場内が暗転。大歓声をバックに最新作のタイトル曲「OASYS」が流れ、シンセサイザーの幻想的な音色と、ステージを照らす淡いライティングが静かに昂揚感を煽る。曲が終わると、爆発音とともに重層構造になっているステージの白い幕が1枚降り落とされると、中央に立つKREVAのシルエットが浮かぶ。四方からの歓声が悲鳴にも近い迫力をもって、KREVAに注がれる。

しかし、微動だにしないKREVA。まるでマイケル・ジャクソン『ライヴ・イン・ブカレスト』のオマージュさえ感じさせるオープニングだ。そのまま1分30秒ほどが過ぎただろうか、KREVAがすっと右腕を上げマイクを口元にもってくると、武道館中が息を飲む。第一声はソロ・デビュー曲「希望の炎」のフックのワンフレーズだ。続いて『OASYS』のリード曲「かも」のトラックが流れる。デビューから最新曲へ時間軸を鮮やかに超えるように移行し、オーディエンスが一気にKREVAのラップに集中していくのがわかる。

ステージ上手に熊井吾郎、下手にDJ SHUHOの姿が確認できる。まずはミニマムな3人編成でスタート。KREVAの衣装は角度によって『OASYS』カラーが浮かび上がる玉虫色のセットアップ。ライヴ後に聞くと、スタイリストのオーダー・メイドだという。また、同じく『OASYS』カラーをベースにしたライティング、客席を照らすレーザー光線、巨大ミラーボール、各種特効を駆使した演出は、序盤から完璧なタイミングで用いられ、特別なライヴ空間を創り上げていた。「このまま飛ばしていくぞ!」と、立て続けに放たれたのは「ストロングスタイル」「成功」「Have a nice day!」とアッパーなシングル曲。この最初のセクションで、夏フェス1本分ほどの見どころ、聴きどころが凝縮されていたといっても過言ではない。

「ようこそ武道館へ、ようこそ<意味深3>へ、ようこそ俺らのショーへ! ここから『意味深』らしく、いままで一度もやったことない曲、まだリリースされていない曲、やったことのある曲でも全然違うアレンジでお届けしていくぜ」

ここから一瞬も聴き逃せない、<意味深3>のエクスクルーシヴ・メドレーが展開されていく。まず、オリジナルはDABO、ANARCHYとタッグを組み、この夏ヒップホップ・シーンの一大アンセムとなった「I REP」(Manhattan Records The Exclusives Japanese Hip Hop Hits収録)→「I REP」と同じくBach Logicトラックの「Nothing」(09年2月配信限定楽曲)→なんとPerfumeの「575」にKREVAオリジナルのラップを付け加えながらリミックスした「575 Remix」(勝手にリミックスシリーズ vol.5)→熊井吾郎トラックの「忘れずにいたいもの」(2008年『クレハーカップ』ツアー会場特典楽曲)→同じく熊井吾郎トラックでオリジナルはSEEDAをフィーチャリング・ゲストに迎えた「good boy,bad boy」(『くレーベルコンピ/【其の五】~その後は吾郎の5曲~収録』)と紡いでいく。さらに、KREVAが「good boy~」のラップをキープしたまま、トラックはグラデーションをつけながら、ふたたび「THE SHOW」へと移行していくという合体技を披露。このセクションは、KREVAのラッパーとしての有無を言わせぬスキルやリミキサーとしてのアイデア&センスを同時に見せつけ、オーディエンスの集中力を高めていくような内容だった。

「どうもありがとう。いまみたいに1回もやったことのない曲などをやるのが『意味深』の醍醐味だよね。だけど、今日はじめて俺のライヴを観に来たっていう人もいるわけで。その人たちのためにここからは誰もが絶対知っているであろう、しかもじっくり聴ける3曲をお届けするぜ」

流れるのは「音色」のイントロ。さらにKREVAが言葉を続ける。

「とは言いつつ、いつもライヴに来てくれる人のために少しずつアレンジを変えてあるから楽しんでくれ」

「音色」「スタート」「アグレッシ部」という、KREVAの専売特許である“ビートの利いたセンチメンタル”がよりメロディアスな形で表れたシングル3曲を、さらに美麗にリ・アレンジ。なかでも「アグレッシ部」のオリジナル・ストリングス・ヴァージョンは、終盤まであえてビートを排除し、オーケストラルなムードなかでラップとメロディを刻み、楽曲の音楽的な美しさを際立たせた。

セクションの転換を知らせる「OASYS」がふたたび流れる。その後「H.A.P.P.Y.」のイントロが流れたかと思うと、KREVAが即座に音を止め、場内が明るくなる。ここからはKREVA曰く「最近の俺のライヴではおなじみになってきた、ライヴ後半に鋭気を養うために座ってみようコーナーです」に突入。武道館は一転して、リラックスしたムードに。この緊張と緩和の妙、さすがである。近年KREVAはライヴごとに最新機材などを導入し、その機能をオーディエンスにわかりやすく説明しながら実践することで、音楽が生まれる瞬間のダイナミズムを伝えてきた。

今回は、あらためて継続的に使用しているDJ SHUHOのデジタルDJセット、熊井吾郎のMPC4000によるセッションでJ-POPの楽曲を解体し、その場でヒップホップ・トラックに変貌させるというチャレンジを行なった。まずスピッツ「チェリー」、久保田利伸「Missing」を元ネタに、原曲の判別がつかないほどドープなブレイクビーツを響かせる。

「さあ、共演したことがある人の曲が続いています。最後も共演したことがある人の曲で締めたいと思います」と、3曲目の元ネタとして使用されたのは、三浦大知「Your Love feat.KREVA」で、すかさず白の衣装でキめた三浦大知本人が登場。沸き上がるオーディエンスからの歓声を受けてノリノリの大知だったが、あえなくKREVAに音を止められてしまう。ここから大知「唄わせてください」KREVA「ナッシング!」というミニコントが繰り広げられ、その果てに、KREVAが「三浦大知がKREVAの曲を唄えばいいんじゃないか?」と提案。大知も大喜びで快諾し「生まれてきてありがとう」を極上のヴォーカル・スキルでカヴァ―した。

また場内が暗転し「OASYS」が流れる。今度はどんなセクションが待っているのか。聴こえてきたのは、ミニ・アルバム『OASYS』全体のイントロ的な役割を担う1曲目「道なき道」のクラップ音。ここでまたもう1枚幕が降りて、白の衣装で統一したバンドが現れる。“そのシルエット”を確認したオーディエンスが、声なき声を上げる。まさに満を持して、小室哲哉の登場である。KREVAはこれもスタイリストのオリジナル・メイドだという“LEDサングラス”を着用。重量感をたたえたビートとシンセサイザーの音色を基軸にしたスペイシーなサウンドスケープに武道館が包まれる。

「いよいよ<意味深3>、ここからがラスト・ブロック。ラスト『OASYS』はこのスタイル、つまりバンドともにお届けするぜ。早速メンバー紹介」

各パートがKREVAのメンバー紹介とともにソロ・プレイを披露していく。「ドラム・白根佳尚、キーボード・柿崎洋一郎、ベース・角田俊介、そして俺がこの名前を紹介するとは思ってもみなかったぜ、小室哲哉!」

オーディエンスの熱狂的な歓迎とKREVAからのコールを受けて、TKは鋭くうねるシンセサイザーのフレーズを挨拶代わりに放つ。武道館の熱気がさらに高まる。KREVAが言葉を続ける。「ここにDJ SHUHO、熊井吾郎を加えてお届けするラスト・ブロック、もうひとりゲスト、今日唯一の女性、シンガーSONOMIの登場!」

白い衣装のSONOMIがバンドの重厚なサウンドにも負けない歌声を響かせた「たられば feat.SONOMI」。激しさと繊細さを共存させたTKのシンセ・プレイがなんとも感動的だった「エレクトロ・アーストラック」。KREVAが白いイスに座り情感たっぷりの熱をもって唄い、ラップした「最終回」。「せっかくこんなすばらしいメンバーが集まってくれたし、今日は『意味深』だからもう1回あの曲をやりたい「かも」」と告げ、さらにもう一度SONOMIと三浦大知を呼び込み、スペシャル・ヴァージョンで躍動させたこの日2回目の「かも」、本編ラストの「Changing Same」と続き、最高のラスト・ブロックは終了した。

メンバーがステージに並び、手をつないでカーテンコール。KREVA「せっかくだから小室さんひとこと!」小室「ホント新鮮だった。ありがとう、KREVA」。そのシンプルなひとことに武道館がまた大きな歓声と拍手に包まれる。

さらに『意味深』が『意味深』である理由は、アンコールにも用意されていた。

まずはSHUHOと熊井が現れて、ビート・セッション。オーディエンスの視線がステージに集まったところで、アリーナが騒然とする。なんと、KREVAがアリーナ後方の通路から登場! 流れるのは「あかたなはまやらわをん」のトラック。オーディエンスの緊迫と熱狂が交錯するなか、KREVAはアリーナ後方の中央に立つ。オーディエンスに囲まれながら、彼ら一人ひとりを見渡し、威風堂々とラップするKREVAの姿に、ラッパーとしての原風景を見た。ふたたびステージに立ったKREVA。<意味深3>のオーラスが訪れようとしていた。ラストのMCにKREVAがいま抱いている思いのすべてが言葉になっていた。少し長くなるが、記憶しているかぎりすべてここに記したい。

「こんなに濃い内容なのに2日間だけで残念だなって話していたんですけど、逆に2日間だからこそきっちりやるのがこれから大事なんじゃないかと思います。今日来てくれたみんなが今日感じたことを誰かに伝えて、それがどんどん広がっていくと俺は信じています。メンバー紹介のときも言ったけど、まさか自分が“小室哲哉”って紹介する日が来るとは思ってもみませんでした。テレビで小室さんが機材をいっぱい使って演奏しているのを見て、カッコいいと思って打ち込みの音楽、鍵盤でつくる音楽に魅了された俺が、いまこうして拙いなりにも鍵盤でつくった音楽で小室さんと一緒に演奏できるのは本当に幸せなことです。ちなみに小室さんがサポート・メンバーをやるのは28年ぶりで、さらに他人のつくった曲を演奏するのはほぼはじめてということです。本当にありがとうございます。今日来ているキッズが今日のライヴを見て、影響されて、いつの日か俺をステージに呼んでくれるのを楽しみに待っています。その前に俺はもっと人気者になりたいです。1位をバンバン取っていけるようになりたいんだけど、そのためにはいい曲をつくっていくことが大事だと思います。ただひとつすごく自信があるのは、KREVAと言ったときにスタッフやファンの存在も含まれているということ。だからみんなで大きくなって、その力でナンバーワンになりたいと思います。」

最後に<意味深3>に参加したメンバー一人ひとりに感謝を述べたあと、KREVAはこう言葉を結んだ。

「そんな感じでいろんな人に支えられている俺ですが、ライヴのはじまりもひとりなら、最後もひとりで終わろうと思います。『意味深』は次を期待させるものでなければいけないと思っているから。次に出る作品に入る曲をやって終わりたいと思います。いま俺がいちばん好きな曲です。」

ラストは完全初公開の新曲「EGAO」。重みのあるビートの上で、オートチューンの切ない主旋律にヴォコーダーのコーラスがドラマティックに折り重なり、映える歌だった。その歌は、たったひとりで武道館の大きなステージ立つKREVAを“音楽の中心”に存在させるように高鳴った。そして、KREVAが突き進む道なき道は、続いていく。

ライター 三宅正一(fixed)

KREVA CONCERT 2010<意味深3>
2010年10月13日(水)14日(木)
@日本武道館
1.希望の炎
2.かも
3.ストロングスタイル
4.成功
5.Have a nice day!
6.THE SHOW
7.I REP
8.Nothing
9.575 Remix
10.忘れずにいたいもの
11.good boy, bad boy~THE SHOW
12.音色
13.スタート
14.アグレッシ部
15.J-POP HIP HOP section
16.生まれてきてありがとう(ゲスト:三浦大知)
17.道なき道
18.たられば feat. SONOMI
19.エレクトロ・アース・トラック
20.最終回
21.かも
22.Changing Same
EN1.あかさたなはまやらわをん
EN2.EGAO
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