Chage、興味深いタイトルのアルバム『&C』

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Chageのニューアルバム『&C』がリリースされた。『&C』、なかなか興味深いタイトルである。

◆Chageのアーティスト画像、「まわせ大きな地球儀」ミュージックビデオ

前作『Many Happy Returns』から約1年7ヶ月ぶりとなる今回のアルバム。思えば2008年に10年ぶりのソロ活動を開始して以降、『アイシテル』(2008年10月)、『Many Happy Returns』(2009年3月)と、Chageは毎年アルバムを発表し、さらに< CONCERT TOUR 2008 “アイシテル”><Chageの細道2009>と題された全国ツアーも行なった。しかも<Chageの細道>では、今まで足を運んだことがないような場所、街を選んで行なうツアー展開と、これまで以上に精力的な活動をみせた。今回の『&C』は、特にそんなツアーでの体験、思ったことや感じたことを形にしたのだという。

まずは『&C』というタイトルについて。手元にある資料の中でChageはこう答えている。

「必ず誰かと一緒なんです。ソロアルバムだからって一人じゃない。それは共演するア-ティストであり、聴いてくれるお客さんでもある。だから『&C』。そしてアルバム1曲目はこの曲だと決めました」

アルバム1曲目はその表題曲「&C」。先の資料には「最初、自分で歌詞も書こうと思ったけど、そうじゃなくても“&”も“C”も非常に馴染みのある言葉でね(笑)。ファンの方々は深読みするだろうし,僕が書いて全部そっち側に持って行かれるのも…、ということで、ここは30年来のつきあいの松井五郎に頼んだんです」と、Chageからの解説がある。確かになんとなく深読みしたくなるところではある。しかし我々は忘れてはならない。これはソロアーティスト・Chageのアルバムだということを。

以上のような、リスナーとしての立ち位置を確認した上で、今回のアルバムに触れていきたいと思う。まずは…CDにつけられている“帯”だ。<エッジの効いたバンド・サウンドとChageの“美メロ体質”が共存した新たな名盤の誕生。>というコピーがつけられたこの帯。Chage+バンドサウンドといえば“MULTI MAX”と答えたくなるところ。ただ、特にデビュー19年目のソロ活動(1998年)以降のChageのサウンドからは、ビートルズをはじめとして、UKロックな香りがそれ以前よりも若干濃く漂っているのも確か。また、昨今、このようなコピーをつけた邦楽アーティストのCDも少しずつ減ってきており、そんなところも相まって、この帯からは、かすかに洋楽っぽさのようなものを感じてしまわないだろうか。ちなみにMULTI MAXといえば、今回のアルバムのゲストミュージシャンとして、MULTI MAXの村上啓介も名を連ねており、さらにアルバムのラストナンバーには、MULTI MAXの名曲「Windy Road」の2010年verが収録されている。

アルバム全体を聴いてまず気づくポイントとしては、同じくゲストミュージシャンとして、ヴォーカリスト・久松史奈の参加だろう(もちろん村上啓介と西川進もそうなのだが)。彼女はChage同様にさまざまな声を使い分けながら、1曲ごとに違った表情を見せる。さすが活動20周年のヴォーカリストというべき歌声は、Chageの作品をさらに色彩豊かなものへと昇華させている。

「&C」は、イントロのオルガンの音色から荘厳なナンバーかと思いきや、雰囲気は一転。ゲストヴォーカリスト・久松史奈の“Cから始まる言葉”でのラップも妖しいロックチューンへ(特にBメロは、「UNDO」にも通じるChage的曲展開と言っていいだろう)。サビには村上啓介の声も聴こえ、男女コーラスをバックに歌うChageの歌声には、ラストソングに向かうまでもなく、早々にMULTI MAXを重ねてしまいそうになる。

先にシングルとしてリリースされた「まわせ大きな地球儀」。思えばこの曲、2010年3月27日に開催された<Chageの坂道“渋茶会”>初日にて初めて披露された。あの日、「一緒に歌ってくれる? 歌えないだろ! だって初めて歌うんだから!」なんていう軽快なトークとともにパフォーマンスされた。ハッピーな曲調とChageが贈る応援歌。初披露にも関わらず、ガッチリと会場がひとつになった瞬間を記者も目撃した。またChageもこのライヴでの披露について<お客さんの反応が大きくて、そこで揺るぎない勇気を頂けた>と語り、そこからシングル化、そして同曲を軸としたアルバムを完成させることができたのだという。音源化されたアレンジは、イベントの時よりも一回りも二回りもパワフルなものとなっており、<あなたが決めた人生 だから がんばろう 負けるな>というメッセージがストレートに力強く伝わってくる。

ビートルズの作品で言うところの「Hey Bulldog」のような爆発力、パワーを持った、ストレートなラヴソング「Knockin' On The Hill」。この曲は、村上啓介が久しぶりにChageと仕事するという、まさにその顔合わせの日に、Chageの目の前で作ったという作品。Chageと村上啓介の再会の喜びを、村上啓介が曲で、Chageが歌詞で表現したのが、この曲なのだろう。…と、いうエピソードを知ったあとで改めて聴くと、この曲から、単なるラヴソング以上のものが伝わってくる。

そして前曲が「Hey Bulldog」なら、西川進提供の「ふわり」は「Strawberry Fields Forever」のような温かさを持った作品。そして同じ温度感で、村上啓介作品のカヴァー「手を握った」へと続く。いずれもChageの優しい歌声と世界観が展開される。

昭和歌謡の世界観をUKロックの音色を合わせたような「春の雪」。西川進のカオティックなギターの中から生まれてくる美しい旋律に乗る、昔の日本歌謡の空気を持ったChageの言葉。「夢の飛礫」での言葉選びのような、そんな“たおやか”な表現ができる彼だからこその1曲ともいえるだろう。余談だが、同曲を書き上げる際に、Chageは阿久悠作品ばかりを耳にしていたらしい。

そして、明らかにライヴで盛り上がるであろう、アッパーチューン「All You Need Is Live」。西川進とコラボして曲を作り、歌詞は久松史奈との共作。特にサビは久松のキーに合わせたので、彼女に自由に書いてもらったという。サウンド面は、非常に西川進っぽさが出たキャッチーなロック。間奏の混沌としたディストーションギターなどは、Chageソロ版「CRIMSON」の記憶までも引き寄せる。

Chage曰く「自分が音楽と出会った頃の衝撃なども織り込みつつ…」というこの曲には、タイトルの「All You Need Is Live」はじめ、いろんなChageの遊び心が隠されている。リスナーは、「<B面LastのSlow Ballade>が収録された<33回転のRevolution>というのは、その後に<「昭和(平成)のLove&Peace」>って表現も出てくるから、きっとビートルズのアルバム『Let It Be』なんだろうな」とか「<港港のYoko>は、間違いなくダウン・タウン・ブギウギ・バンドのアレだろう」とか「Chageさんは昔、<Peace Mark>をどっちの指につけてたっけか…」と楽しむことができるはずだ。ただし、その遊び心すべてを検証するのは、要素があまりに多い。ともすれば、すべてがそう思えてきてしまい、「『All You Need Is Love』って映画『イエロー・サブマリン』にも使われたな。潜水艇か…そういえばどことなく『港に潜んだ潜水艇』っぽい!」とか「イントロのギターは『モーニングムーン』の…」とか、収拾がつかなくなりそうになる。いずれにしても“正解”が語られているわけではないので、リスナー側も遊び心を持ちつつ楽しむのが一番だろう。

WOWOW『スペインサッカー リーガ・エスパニョーラ09-10シーズン』のテーマ曲で、最初からサッカーをイメージしていたという「無敵の海へ The Fishes」、そしてアルバム『アイシテル』収録曲にして、実はそれよりもはるか前、13年前に録音されていたという「永遠の謎」。当時のアレンジャーは十川ともじが担当し、Mr.Childrenの鈴木英哉がドラムを叩いていたという作品が『&C』のコンセプトにもマッチしたところから、今回収録されている。もちろん、13年前の音ということで、本作収録に際して十川ともじは当時のアレンジを見直している。

アルバムのラストを飾るのは、あの名曲だ。
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