amazarashi、超問題作『ワンルーム叙事詩』クロスレビュー

ツイート

羊の衣を身にまとい、野獣の心を持つ異色バンド、amazarashiの2ndミニアルバム『ワンルーム叙情詩』が11月24日にリリースになる。聴く者の心を突き刺す鮮烈な言葉を耳に馴染みの良いポップサウンドに乗せ、じわりじわりと心の隙間に入り込み、聴き終わった後は、血の滴る音世界によって頭の中心をしびれさせる。そんなパワーを持ったamazarashiが、渾身の力を込めて作った最新作。

◆amazarashi、超問題作『ワンルーム叙事詩』~画像~

その世界観をどう読み解けば良いのか。ここでクロスレビューをお届けする。amazarashiの世界の解釈は聴く人の数だけ存在するのは当然。一聴しただけでは難解ともとれる彼らを解明する一助になれば幸いである。

   ◆   ◆   ◆

人が生きていくということ、そして生きていくことに伴う根源的な哀しみ、痛み、諦観、絶望、希望…といったディープな感情にフォーカスし、それらを文学的な描写で表現しロックする。今年6月にメジャー・デビューしたamazarashi。そのすさまじいまでの独自性を持った世界観は瞬く間に話題となり、デビュー作『爆弾の作り方』は今もロングセラーを続けている。一方で、彼らに関する情報は極端に少なく、公表されているのは“青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド”ということぐらい。

そんな熱い注目を集めつつ未だ謎のベールに包まれているamazarashiが、待望のメジャー2ndミニアルバム『ワンルーム叙情詩』をリリース。これがまた強烈、強力なのだ。

死をどこかで意識しながらも薄っぺらいポジティブソングとは全く違う必死さで生の方へ、未来の方へと向かおうとする「奇跡」。「クリスマス」と題されたクリスマスソングは、言うまでもなくキラキラしたイルミネーションをバックに展開するロマンチックだったり切なかったりするラヴソングではなく、キラキラ光っているのは遠くに飛んでいくミサイル。そしてそれを流星と見間違える少女。そのシニカルな視線と透明感あふれる幻想感の妙が美しい。表題曲である「ワンルーム叙情詩」に至っては、虚無感を抱えた主人公が自らの部屋に火を放ち、燃えさかる炎の中に自分の生を見ているというストーリーで、狂気スレスレの激情の中にどこか深閑とした静寂があり、まさに叙情的だ。

恐ろしいほど圧倒的な筆力で描かれた7編。しかもここで忘れてはならないのは、この文学的詞世界が、とても聴きやすいポップ(orロック)ミュージックにしっかり昇華されているということ。歌詞にメロディとサウンドが付き、“歌”になった時、その詞世界は一層威力を増し、より鮮明なイメージを喚起する。そこがバンドamazarashiとしての本当の凄さである。

前作からさらにAmazarashiワールドを追求した1枚。本作を一言で言い表すなら、“唯一無二”。ここで得られる衝撃と感動は、他では絶対に得られない。聴く聴かないは自由だが、聴かないのは人生の損失だと思う。

文●赤木まみ

   ◆   ◆   ◆

「自分はどうして生まれてきたんだろう?」

生きていると一度はブチ当たる、こんな疑問。もちろん、そんなことを一度も考えずに年を重ねる人もいると思うが、悩みのない人生なんてきっとないから、たいてい誰もが一度は通るテーマなのかもしれない。

amazarashiの新作『ワンルーム叙事詩』を聴いていたら、ふとそんなことを思った。人生ってやつは、気付くと自分の想像以上に深くなっていることがある。そこで初めて自分のたどった足跡を振り返る。「あぁ、あそこで曲がったから、ここにいるのか」と改めて自分の軌跡を知る。そこに至るまでの出来事は、どれが欠けてもその場にはいない。そんな風に、立ち止まって自分の軌跡を振り返りたくなる「奇跡」からアルバムはスタート。

Aメロで繰り返すピアノの旋律がしんしんと降る雪のようで、ピリリとした12月の空気を運んで来る「クリスマス」。言葉から浮かぶのは、寂れた風景。喪失感、空虚感が漂う中、芯には赤々とした生命力を秘めた「ポルノ映画の看板の下で」。「ポエジー」は、心の中の混沌をポエトリーリーディングで吐き出し、徐々にメロディに乗せていく小曲。作品の中では前半と後半を繋ぐ大事な役割だ。「奇跡」に続いて「生きるって何?」と、さらに問いかけるような「ワンルーム叙事詩」。新しい自分を探す過程を寓話的に描いた詩の世界が秀逸だ。「コンビニ傘」は「ポエジー」とはまた違う雰囲気で、ポエトリーリーディングと歌をミックス。この曲を聴いた人は、何者でもないコンビニ傘を何の象徴として捉えるのだろうか。道ばたの小さな風景を哲学的に音楽に閉じ込めた曲だ。「真っ白な世界」は、曲がり角を間違えても、真っ白に塗り替えて、一歩を踏み出せば大丈夫だと言われているようなラストチューン。

「生」がみなぎっているのに、どこか物悲しさ、切なさが貫かれた7曲。「生」の裏側には必ず「死」が存在するから、こういう切ない気持ちになるのだろうか……。聴いたあと、余韻に浸りながら、そんなことを考えたくなる。自らの死生観を揺さぶるような作品だ。

文●大橋美貴子

『ワンルーム叙事詩』
2010.11.24発売
AICL-2195 \1,800(tax in)
1.奇跡
2.クリスマス
3.ポルノ映画の看板の下で
4.ポエジー
5.ワンルーム叙事詩
6.コンビニ傘
7.真っ白な世界

◆amazarashi オフィシャルサイト
◆amazarashiオフィシャルmyspace
この記事をツイート

この記事の関連情報