トッド・ラングレンに魅せられて

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筆者はトッド・ラングレンの大ファンだ。彼のファンは自分だけでないだろう。ロマンチックで哲学的、ユーモアのセンス溢れるソロ・アーティストとして、もしくはニューヨーク・ドールズ、グランド・ファンク、バッドフィンガー、ホール&オーツ、パティ・スミス、チューブス、XTC、チープ・トリック、ミートローフを手がけた超売れっ子プロデューサーとしてのトッド・ラングレンのファンも多いだろう。好き嫌いを別にして、1977年当時は全くの無名だったミート・ローフのデビューアルバム『バット・アウト・オブ・ヘル(邦題:地獄のロック・ライダー)』が4300万枚のセールスを記録したのはすごい事である。

しかし、今回はあえてソングライターとしてのトッド・ラングレンを賞賛したいと思う。ランディー・ニューマン、ポール・サイモン、トム・ウェイツ、ジョン・フォガティ、ウォーレン・ジヴォンに知名度では劣るかもしれないが、トッド・ラングレンは彼らに並ぶ実績を持つ素晴らしいソングライターだからだ。

若い人は、約25年間もヒット曲を生み出していない彼のことを全く知らないかもしれない。しかし、2010年の来日ツアーに続き、2011年の<フジロック>への出演が決まったということは、彼の音楽を愛するファンがまだまだ日本に数多く存在することを証明しているのではないだろうか。以下、ラングレンの名曲ベスト10を紹介する。

●「バング・ザ・ドラム・オール・デイ(Bang The Drum All Day)」
1983年にリリースされたが、発売直後にはヒットせず、次第に「お祝い」色の強い曲に発展した。アメリカンフットボール最大のプロリーグ、NFLのグリーン・ベイ・パッカーズとメジャーリーグベースボール(MLB)のLAドジャーズをはじめとする多くのスポーツチームのテーマソングに起用された他、スポーツ番組でも放送されることが多い。さらにアメリカのラジオ局では、金曜日午後の遅い時間帯に、“花金”で週末の訪れを祝う曲として頻繁にかかっている。スカバンドとバッド・マナーズがなかなか良いカバー・バージョンを発表している。

●「キャン・ウィー・スティル・ビー・フレンズ(Can We Still Be Friends)」
恋人たちの別れを歌ったこの曲は、日本人アーティストを含め、多くのアーティストにカバーされている。ロバート・パーマーとロッド・スチュワートによるバージョンが最も有名だ。アメリカのTVドラマ番組『アリー・マイ・ラブ』の挿入歌バージョンも素晴らしい。

●「クドゥント・アイ・ジャスト・テル・ユー(Couldn't I Just Tell You)」
特別な人に自分の気持ちを伝えたくてたまらない思いを歌った曲。この曲も多くのアーティストにカバーされているが、ロマンスと衝動感のバランスが絶妙に表現されているトッド・ラングレン本人のバージョンが最も優れている。マシュー・スウィート&スザンナ・ホフス、そしてジョー・ゴールドマークによるインストゥルメンタル・バージョンも素晴らしく、聴く価値のある完成度だ。

●「ハロー・イッツ・ミー(Hello It's Me)」
アメリカでは最も有名なトッド・ラングレンの代表曲。彼が初めて作曲した楽曲で、1968年、当時所属して活動していたバンド、ナッズ(NAZZ)のヒット曲となった。バンド解散後、1972年に3枚目のソロ・アルバム『サムシング/エニシング』で再レコーディングし、1973年にはビルボード・チャートで5位を獲得した。2007年、メアリー・J.ブライジも素敵なカバー・バージョンをリリースしている。

●「アイ・ソウ・ザ・ライト(I Saw The Light)」
1972年にビルボード・チャート16位に入り、現在でもトッド・ラングレンの代表曲の1つだが、日本では常に最も人気のある曲に思える。もしかするとドラマやCMで使われたのかもしれないが、なぜそんなに人気があるのか、理由がいま一つわからない。高橋幸宏は1985年にリリースした7作目のソロアルバム「Once A Fool, …―遥かなる想い―」でカバー、1981年にはトッドがアルバムをプロデュースした高野寛は日本語バージョンを歌い、石田ショーキチやレゲエ・ディスコ・ロッカーズなど、複数の日本人アーティストがカバーしている。

●「イット・ウドゥント・ハブ・メイド・エニー・ディファレンス(“It Wouldn't Have Made Any Difference)」
失った愛を振り返って、ああすればよかった、こうするべきだった、という焦燥感から抜け出せない気持ちを歌った失恋の歌。アリソン・クラウスによるカバーが素晴らしい。

●「ラブ・イズ・ジ・アンサー/邦題:愛こそ証し(Love Is The Answer)」
自分に疑問を投げかけすぎている状況を歌った曲で、元々はユートピアとレコーディングされたが、大したヒットにならず、1979年にイギリスのダン&ジョン・フォード・コーリーによるバージョンがトップ10ヒットを記録した。この曲も多くのアーティストにカバーされている。

●「ラブ・オブ・ザ・コモン・マン/邦題:一般人の恋愛(Love of the Common Man)」)
世界中に理解してもらうことを懇願する曲。ハートの前身であるラブモンガーズが1992年にカバーするなど、多数のカバー・バージョンが存在する。

●「オープン・マイ・アイズ(Open My Eyes)」
元々はナッズ時代にレコーディングされたこの曲も、多くの日本人アーティストがカバーしているので、日本でかなりの人気がある。ベッキー・ディグレゴリオのロックなバージョンがおススメだ。

●「ウィー・ゴット・トゥ・ゲット・ユー・ア・ウーマン(We Got To Get You A Woman)」
ガールフレンドとの問題や友達同士の助け合いを歌った、いい感じにコミカルな曲。フォー・トップスによるバージョンが素晴らしい。

これ以外にも、まだまだ名曲は多数あるのだが、強いて選ぶのであれば「ア・ドリーム・リブス・オン・フォーエバー(A Dream Lives On Forever)」「ヘビー・メタル・キッズ(Heavy Metal Kids)」、「ハングリー・フォー・ラブ(Hungry For Love)」「ラブ・イン・アクション(Love In Action)」「サムタイムス・アイ・ドント・ノウ・ワット・トゥ・フィール(Sometimes I Don't Know What To Feel)」なども是非聴いてみて欲しい。

キース・カフーン(Hotwire)

◆【連載】キース・カフーンの「Cahoon's Comment」チャンネル
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