SUGIZO、希望とメッセージを内包した「FLOWER OF LIFE」「TREE OF LIFE」大特集

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SUGIZO

待望のオリジナルアルバム 2枚同時リリース 「FLOWER OF LIFE」「TREE OF LIFE」

INTERVIEW

4月のことだった。ガレキ処理や炊き出しを一生懸命に行なう姿が宮城県石巻で見られたのは。仲間からの信頼を受けチーム・リーダーとしてボランティア活動に精を出すその人物こそ、SUGIZOだった。

「居ても立ってもいられなかった。あの大惨事、有事に対して、音楽は無力なんだと痛感したんです。音楽では何もできない。音楽では人の命は救えない。音楽ではガレキは撤去できないし、ヘドロはすくえないんですよね…。すぐにチャリティ・コンサートだとか、音楽で勇気を与えようとか、思えなかった。今できることは何だ、それは現地へ行って復興を助けることだと」

彼はピースボートのボランティア活動に自ら登録、SUGIZOというアーティストとしてではなく、4月1日、1人のボランティアとして現地へ入った。

「作業や業務に必死で、1日が終わっても毎夜チームでミーティングですよ。作業のどこが甘かったか、明日はどこをもっと詰めるべきか。そして、あのヘドロはどう処理すべきか。寝るギリギリまでミーティング。それ以外のことは考えられない」

LUNA SEA、X JAPAN、ソロと多忙な日々の中ではあったが、時間を捻出してのボランティア活動。

「現地のボランティアの1人としてしか自分の存在はなかったけど、苦しくはなかったですよ。相当、体力もあるし、様々な過去の経験をボランティアのあらゆる業務に活かせるんです。例えば、炊き出しもやったし、倉庫の整理もやった。物の配布もしたし。実はインディーズ時代、車に機材を詰めるのは俺の役目だったりとか(笑)。いろんな能力が発揮できた。たまたまリーダーをやってましたけど、ボランティアは誰でもできることですよ」

合計で約3週間、現地で寝泊まりしながら動き続けたSUGIZO。ふとした瞬間に、自身がアーティストに戻ることもあったのか。そしてまた様々な経験は音楽へなんらかの影響も与えることになったのか。以前から精神性も大切に音楽を作り続けているアーティストだけに、気になるポイントでもある。

「東京に戻ればミュージシャンとしての生活が始まるってことは遠い話に感じていましたね。あまりにも大きな出来事だから、今も自分の中で消化できていない気がするんです。今回のアルバムの中には、震災以降にレコーディングした曲もたくさんあるけど、3.11に対しての自分の意志や精神性が入っているのかも分からない。でも、まちがいなく大きく影響はしているはず。今、こうやって生きていて、自分の最も好きなことをやれて、生活できていることが、どれだけ感謝なのか。全ての命に対して、無駄にしてほしくないっていう気持ちもすごく強い。もちろん生きることが苦しいときもあるでしょう、人によっては自ら命を断ちたいと思うときもあるでしょう、もしくは精神的な疾患にさいなまれている人もいるでしょう。それでも生きているってことがどれほどありがたいことか、あの大きな出来事の後には痛感しています。あれ以降の変化をしいて挙げるなら、1つ1つの行動、その瞬間ごとが、自分にとって輝いて見えるようになったこと」

そう語るSUGIZOが作り上げたアルバムが『FLOWER OF LIFE』と『TREE OF LIFE』。オリジナル・スタジオ・アルバムとしては約8年ぶりの作品だ。すでに聴いている方も多いだろう。自分の中ではまだ消化できていないというものの、2枚の作品から感じるのは外側へ向かうエネルギー。

「そこは特に意識してなかった。ただ、そのときどきの精神性や生き方が、丸々、自分の音楽に内包されるから、つまり今の俺はこういう人なんです。97年のときはああいう人で…、精神的におかしかったと思う。他人を拒絶していたし、家族はいたけど孤独だった。絶望もしていたり、人生に光を見出せなかったりした。自問自答の時期ではあったと思う。今回の曲にはほとんどリリックはないけど、いわゆる希望や自分のメッセージが分かりやすく内包されていると思います。例えば「CONSCIENTIA」は良心という意味で、十字軍がテーマになっている曲でもあるんです。いわゆるキリスト教圏とイスラム教圏は、イデオロギーや理念の違いでいつまでも争いが耐えない。もちろん争いを止めるべき・・・、結局、人間の持っている良心でしかクリアできないんですよね。ここで自分がどういう良心や正義で生きるのか、どういう正義が自分の理念になっているのか。それによって憎しみ合うお互いが和解することも可能なんですよね。そういう懇願がこもっていて、音にしたらこうなったんです。「ENOLA GAY」は、広島へ核を落としたB29の名前でもあるんですね。悲痛な叫びの曲です。俺のギターのメロディは、痛みや叫び。でもORIGAのヴォーカル・パートは祈りなんです。そのコントラストの曲なんですけど、最後のパートでは、ORIGAの祈りのヴォーカル・セクションに、俺のリードが重なっていき、怒りのギターが祈りのギターに変わるんです。怒りと祈りと希望が、実は同軸にある。B29の名前だから“ENOLA GAY”にはとてもおぞましいイメージがあるんですけど、もともとはそのB29のキャプテンのお母様の名前なんです。実はとても美しい名前だったんです。一聴するとエレクトロニックで無機質なような音楽だけど、各楽曲に自分の精神性やメッセージ、イデオロギーが実はギュウギュウに入っていますよ」

そう聞くと、どこか構えてしまう方もいるかもしれない。しかしその必要はない。なぜなら、SUGIZOのギターがまず聴き手の感覚にストレートに響くからだ。エッジと深みのあるトーン、そして感情的なビブラート、一聴してSUGIZOと分かる個性があり、それに浸っていると、こちらのイマジネーションも次々に刺激してくる。

「ドンズバのギター・アルバムだと思うんですよね。ギターで歌いたかったのと、トラックメイカーとしての自分にプレイヤーとしての自分をどう昇華させていくかがテーマでした。音楽の形はエレクトロニック・ミュージックで、そこに内包されている俺の声というのがギターなんですよ。今まで俺は音楽やギターに対する実験家みたいなところもあったじゃないですか。ワーミーの遠吠えとか、ディレイの使い方、モジュレーションの使い方、自分のタッチなど、何もかもが一般的にはノーマルじゃないと思うんです。でも自分にとってはそれらがスタンダード。今回、ギターに関して死に物狂いの挑戦ってほとんどしてないんですよね(笑)。気持ちいいことをやっていったら、こうなった感じです。ただ、魂と意志は音色に宿ると思うんです。トーンとビブラートにも自分の意志が全て入るんですよ。そこは近年、すごく大事にしていますね」

2枚のアルバムでは、様々なギター・アプローチやヴァイオリン・フレーズが展開される。それは曲によって、とてつもない悲しみであったり、堪え難き苦しみの先にある怒りだったりする。だが、アルバムを聴き進めるにつれ、包み込むような優しさを味わい、音楽が導いてくれる幸福感もある。

「そう、音楽は人を救えるんですよ。さっき言ってたことと真逆ですけどね。震災直後、音楽で物理的なことはできなかったけど、音楽で人の心を潤すことはできるし、気持ち良くさせてあげることもできる。音楽の根源的な存在価値や根本的な存在理由に立ち返っている気がします。自分の音楽に対する意味合いも、昔と今では大きく違います。俺にとって今は人とつながり合うためのツールが音楽なんです」

そんな2枚のアルバムに付けられたタイトルは、SUGIZOの精神性や哲学にも大きな影響を与えた言葉だという。彼の左腕にはFLOWER OF LIFEを象徴するタトゥーが、そして右腕にはTREE OF LIFEのそれが彫られている。だがしかし、こうも付け加えた。

「震災後のガレキの中から育つ木、咲く花。そういう受け止め方でもいいと思います。美しい。生きるってことに対してものすごくフォーカスしているので、生命力に対する感謝、喜び、苦悩など、様々なものが内包された作品になっています」

この2枚のアルバムを手に、SUGIZOは2011年12月、アーティストとして海外公演も含むツアー<2011 STAIRWAY to THE FLOWER OF LIFE>を行なった…。

※ライヴの模様は、<ライヴレポート>のページに掲載しています。

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