ウェイウェイ・ウー、ボーダレスな二胡奏者の魅力徹底解剖「デビュー10周年までの軌跡」

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中国・上海に生まれ、ヴァイオリンから音楽に親しみ、現在では現代ニ胡のパイオニア的存在として知られるウェイウェイ・ウー。大人気テレビドラマ『JIN―仁』のメインテーマや、NHK『ダーウィンが来た!生きもの新伝説』のエンディングテーマ等、誰もが一度は彼女のニ胡を耳にしたことがあるだろう。昨年は彼女が来日して20周年。4月4日にメジャーデビュー10周年を記念したベストアルバム『華胡蝶 THE BEST OF WeiWei Wuu』もリリースし、メモリアルイヤーが続く彼女に、改めてヒストリーを振り返ってもらった。

●ヴァイオリンに没頭した10代
●姿三四郎に憧れて日本留学へ

――ウェイウェイさんは5歳からバイオリンを始めたんですね。

ウェイウェイ・ウー(以下、ウェイウェイ):はい。私が生まれた頃の中国は文化大革命の真っ最中で西洋楽器は禁止されていたんですが、父がヴァイオリンを隠して持っていたんです。もちろん弾くことも禁止。でも人って面白いですよね。「やっちゃダメ」と言われると「やってみたい」って思う。私は特にそういうところがあったみたいで(笑)。もちろん売ってないので、父が私用のヴァイオリンを作ってくれたんです。塗装をしていない、真っ白いままのヴァイオリンを見たとき、すごくはしゃいだのを今でも憶えています。それが最初の自分の楽器だったんです。その1年後に文化大革命が終わって、デパートの楽器売り場でヴァイオリンを売りはじめたというのを聞いたんです。徹夜で並ばないと買えないというので、父が雪の日に徹夜で買いに行ってくれて、本当のヴァイオリンを手に入れました。あの感動は忘れられません。

――素敵な話ですね。子供のときは全寮制の音楽学校でヴァイオリンを勉強されていたんですね。

ウェイウェイ:小学校3年生のときに上海音楽学院付属小学校で生徒を募集すると聞いて受験したんです。学校は徹底的な英才教育なんですよ。音楽学校なので、授業内容はすべて音楽。もちろん国語とか算数もあるんですけど、そういう勉強は二の次で、朝ご飯の前から練習の時間があるんです。それが終わってやっと朝ご飯を食べられる。その後、算数や国語の授業があって、お昼の前にまた個人レッスン。午後からも合唱とか音楽のレッスンがあって、夜も実習。授業ではないですけど、先生たちが見に来るので実習でもしっかりやらなきゃならないんですよ。

――親元から離れて、厳しい練習もあって、辞めたくなりませんでしたか?

ウェイウェイ:辞めてはいけない環境だったんですよね。だから必死に勉強をしていました。大人になって気付いたんですけど、子供時代、親元は離れていても、社会には出ていないですよね。先生も同級生も毎日同じ人たちと過ごしてますし、新しく出会っても、みんな音楽関係の人。だから周りが変人ばかりなんです。きっと自分も変人(笑)。自分は気付かなかったし、立派な大人だと思っていたんですけど、社会性はあまりなかった。だから、日本への留学話がきたときも、親に「言葉もしゃべれないのに!」と反対されて、「1年で戻って来るから」と説得しました。20年前は、中国から日本に来るのは仕事か留学のみで、旅行はまだ出来ない時代だったので、外国に行ってみたかったという思いと、姿三四郎が好きだったので、ぜひ会ってみたいと思って(笑)。

――姿三四郎ですか(笑)。

ウェイウェイ:日本に来たら、ご飯は自分で作らなきゃいけないし、日本語ができないからコミュニケーションをとるのも難しい。でも、人との普通のコミュニケーションや社会性を身につけたのは、日本に来てからなんです。ある意味、私は日本で成長したような気がしています。学校の寮から出て一人で生活を始めたのが日本だし、生活のことや社会との接し方は日本で覚えたから。親と過ごす時間が少なかったこともあると思うんですけど、「こうあるべき」という固定観念があまりなく、日本の文化や考え方を取り入れやすかったんですね。寮の生活では、楽譜を見ることと先生とのコミュニケーションくらいしかなくて、クラスメイトとどこか遊びに行くこともなかったんです。だから日本に来てすごく自由になった。刺激をもらって、言葉も覚えたぶん、どんどん楽しくなって、親との約束だった1年が近づいても、今、中国に帰ったらもったいないなと、残ることにしたんですよね。

――それでもう20年(笑)。

ウェイウェイ:そうなんです(笑)。日本に残ることで次の可能性を感じたし、CDショップに行けば、いろんな音楽が試聴できますよね。ジャズコーナーで、いろんなジャズのCDが聴ける。私がそれまで知っていたジャズは上海バンスキング時代の老年ジャズクラブのような……それがジャズだと思ってたんだけど全然違う。マイルス・デイビスとかジョン・コルトレーンを聴いて、すごくショックを受けて、「こういう風にヴァイオリンを弾きたい」と思いました。でも、もともとクラシックをやっていたから色んな枠があって、「こんなこと言ったら先生に怒られるんじゃないか」っていうような固定観念があったんですね。それで、途中から勉強を始めていたニ胡をジャズとか他のジャンルに取り入れたらすごい面白くて。今まで聴いたことのないサウンド、それを自分が出していいんだということが楽しさになって、曲を作り始めたんですよ。

●二胡に本格的に開眼したのは来日後
●エレクトリック二胡でフュージョンバンドに加入

――ニ胡を本格的にやり始めたのは、日本に来てからなんですね!

ウェイウェイ:はい。ヴァイオリンと一緒にニ胡も日本に持って行ったら、ニ胡で交流することもできるだろうし、ヴァイオリンに疲れたときにニ胡を弾こうとか、そういう感じで持って来たんです。ニ胡は中国では日常的な楽器ですし、誰でも弾けるし簡単だって思ってたんですね。でも、実際、手にするとすごく魅力的な楽器。ヴァイオリンには指板があるけど、ニ胡は指板がないんです。微妙に力を調節することで音が変わってくれるというのが面白くて。そのままだとヴァイオリンのような弾き方になってしまうから、もっとしっかり勉強したいなと、ニ胡らしい音を勉強するために学校に通って。ヴァイオリニストになるという夢はニ胡を始めた当時も変わってなかったので、その時は、ただニ胡で好きな音楽を弾きたいっていう感じでしたね。だから、ニ胡奏者になることは考えたこともなかったんですよ。

――まるで何かに導かれているようですね。

ウェイウェイ:最初に組んだバンドが三人組の女性のバンドで、ヴォーカル、ピアノ、私はニ胡とヴァイオリン。最初はヴァイオリンがメインだったのに、そのうちヴァイオリンを持って行かなくなり、最終的にニ胡が中心になったんです。それが私が日本でニ胡奏者として活動を展開していくスタートですね。最初にニ胡をジャズのサウンドに取り入れたときは、白い紙に絵を描くような気持ちでとても面白かったですね。

――エレクトリックニ胡を開発しようと思ったのもその頃ですか?

ウェイウェイ:その後、5人組のバンド(五星旗)でキングレコードからデビューしたんです。いわゆるフュージョンバンドなんですけど、ドラムの音がすごく大きいんですね。私は当時は座って、マイクを立てて演奏していたんですけど、そういう激しいドラムの音にニ胡の音は負けてしまうんです。じゃあ、ドラムに負けないようにエレクトリックにしようと。単純な発想でギターの人に、「ギターのこういうのはどこで作ってるの?」と聞いたら、「フェルナンデスだよ」と教えてくれたので、フェルナンデスに行ったんですよ。

――すごい行動力!

ウェイウェイ:ギターの担当者と話して、向こうの意見も聞いて。2~3週間でエレクトリックニ胡が完成したんですよ。次は立って演奏をしたいと。これは自分で考えるしかなかったんですよ。ニ胡は斜めに持って弾くことはできないからストラップでは駄目なんです。自分の体の正面で固定するにはホルダーがあるといいなぁ、そのホルダーをつけるのにベルトが必要だなと。誰かに説明するよりも、まずは自分でなんとか作ってみようと東急ハンズに行って材料を集めて手作りしました。失敗してもいいから、とにかくやってみるっていう。その後は色んな方に知恵も借りて。

――すごいですね。まずやってみるというのが。

ウェイウェイ:そこから新しいことがどんどんできるようになりました。でもエレクトリックのニ胡のサウンドもまだ完璧ではなかったんですよね。バンドの中で音量を確保することはできたけど、本来のニ胡の良さ……人間の声によく似ている美しい音色は足りなかったので、それが悩みでした。エレクトリックのニ胡を弾いた後に、元のニ胡(生二胡といいます・笑)を弾くたびに自分がすごく落ち着くんですね。だからそのバンドは卒業して。

●伝統と革新の狭間で悩みながら
●新しいことにチャレンジし続ける

――その後にいよいよソロ活動ですか?

ウェイウェイ:はい。すごく良い出会いがあって、それがメジャーデビューに繋がるんです。ジャズとニ胡の融合はソロでも引き続きやっていて、一枚目のアルバムでもチック・コリアの「Spain」という曲を弾いています。ニ胡の新しい可能性を伝えたくて。

――ニ胡は伝統楽器ですが、そういう伝統楽器で新しいことをやろうとすると、風当たりも強かったのでは?

ウェイウェイ:その通りです。日本でもそうだと思うし、中国でもそうですけど、たいてい皆さんは伝統楽器のニ胡の音を聴きに来るから、見る人によって意見が別れるんです。「ニ胡でこんなに新しいことができるんだ!これからも応援します」っていう人。「これはニ胡じゃないから二度と観に来ない」っていう人。アンケートに書いてあることを読んで、伝統のニ胡として音楽をすべきなのか、今やっていることを続けるのか悩みましたね。でも、その時やっていることはまだ途中経過にすぎないですから、まだ一番良い状態ではない。悩むところはここなんですね。

――はい。

ウェイウェイ:自信があれば、たぶん悩まなかったんだけど。エレクトリックのニ胡もできたばかりの頃は、アンプを通すと音程がとりずらかったんです。あと、立って演奏すると腰にニ胡を留めるようになりますが、通常座って弾くときと位置が違うんですね。その差もピッチがとりずらい原因になるので、最初の何回かのライヴはやりにくかった。その頃のライヴは、すごい恥をかいたなぁと思うんですよ。いつもなら音程がとれるのに、新しいことをすることによって音程がとりずらくなって。聴いている人は、「なんでこんなにピッチが悪いんだろう」って思ったでしょうね。ピッチに関しては失敗を重ねるうちに直って行ったんですが。

――よく挫折しませんでしたね。

ウェイウェイ:よく言われます(笑)。でも、まだあきらめるには早いし、私はもっとうまく弾ける。ここで辞めてしまったら物足りないし、あきらめられないと思いました。頑張り続ければ、次の喜びが味わえるから。

●可愛らしく情熱的で攻撃的で躍動感がある
●二胡は人間のすべてを表現できる楽器

――ウェイウェイさんのように新しいことにチャレンジしないと発展しないですよね。

ウェイウェイ:音楽は色と同じで、赤+青=紫、赤+黄=橙のように、すべてはコラボです。自分一人では発見も限られるけど、人との出会いから、その人が持っている音楽を自分が感じたときに、融合したときに新しいものが誕生する。これは10年やってきて自分の一番の財産かな。楽器とかいろんな人とコラボをすると、次はこんな風な表現ができるかなぁっていうのがわかってくるんですよね。

――いろんな音楽に挑戦されているぶん、ライヴもベストアルバム『華胡蝶THE BEST OF WeiWei Wuu』も、音楽的に幅が広くて。

ウェイウェイ:ベスト盤の選曲は大変でした。これまでに8枚のアルバムが出ているので、その中から選び切れないんです。自分の中では全部思い入れの深い曲ばかりですから。その中から絞り出した18曲です。この作品は次につながるものだと思っています。10年間の集大成でもあるけど、またゼロに戻って新たなスタートという意味でも。こういう作品があることで、自分がここからどこへ向かうべきか考えさせてくれると思うんですよ。このベストアルバムを持って、これからどこへ向かうのかという。

――先日のビルボードライブ東京でのライヴを見ていたら、ニ胡の音がスキャットのように聴こえました。言葉が聴こえてきそうな。本当により感情が出る楽器なんだなぁと。

ウェイウェイ:でしょ?(笑)そういう楽器なんです。ヴァイオリンもそうですけど、ニ胡も色んな可能性もある楽器だと思います。人間の声に似ているから、ヴァイオリン以上の可能性があるかもしれない。どんな表情でも奏でられる楽器だし、可愛らしく情熱的で攻撃的で、躍動感があって。表現したいものがあればこの楽器が表現してくれる。そんなニ胡をもっと身近な存在にしたいですよね。

取材・文●大橋美貴子

『華胡蝶 THE BEST OF WeiWei Wuu』
2012年4月4日ON SALE ¥2,940(tax in)
SICP-3442 ¥2,940(taxin)
1.JIN-仁- Main Title トリオ・ヴァージョン
2.ボイジャーズ~イースト・ミーツ・ウエスト
3.衡山ネオン
4.Sakura/17
5.雪蓮
6.上海セレナーデ
7.バビロンの妖精
8.リベルタンゴ
9.蘇州夜曲
10.新天地(LIVE)初CD化※
11.賽馬(LIVE)初CD化※
12.再会の記憶
13.Tears
14.スカボロー・フェア
15.空~Kuu
16.我が心のふるさと[世上只有媽媽好~回家]
17.Back to the・・・
18.For You~この愛を~

WeiWei Wuuデビュー10周年記念ライブツアー<WeiWei Wuuが来た!~二胡新伝説~>
6月2日(土) 神奈川県鎌倉市<歐林洞>
6月4日(月) 石川県金沢市(二胡セミナー)<金沢市民芸術村>
6月5日(火) 石川県金沢市<金沢21世紀美術館シアター21>
6月6日(水) 富山県富山市<富山県民小劇場・オルビス>
6月7日(木) 富山県富山市(二胡セミナー)<富山市民芸術創造センター>
6月8日(金) 新潟県新潟市<ジョイアミーア>
6月15日(金) 愛知県名古屋市<港小劇場>
6月16日(土) 愛知県名古屋市(二胡セミナー)<港小劇場>
6月17日(日) 岐阜県大野郡白川郷<合掌コテージ 好々庵>
6月22(金) 宮崎県宮崎市<メディキット県民文化センター>
6月23(土) 宮崎県宮崎市(二胡セミナー)
6月24(日) 鹿児島県鹿児島市<LiveHeaven>
6月25(月) 熊本県熊本市<ぺいあのPLUS>
6月26(火) 長崎県長崎市<旧香港上海銀行長崎支店記念館>
6月28(木) 佐賀県佐賀市<佐賀市歴史民族館 旧古賀銀行内 浪漫座>
6月29(金) 福岡県福岡市<Gate’s7>
6月30(土) 福岡県福岡市(二胡セミナー)
7月1日(日) 大分県大分市<ブリックブロック>

◆ウェイウェイ・ウー オフィシャルサイト
◆ウェイウェイ・ウー チャンネル
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