ビーチ・ボーイズ、全46曲圧巻のライヴ@ハリウッド・ボウル

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ザ・ビーチ・ボーイズに数多くのヒット曲があること、そのほとんどがスタンダード・ナンバーであることは誰もが知っている。とはいえ、それを次々に、さらりと、完璧に目の前で披露されてしまうと、ひたすら驚き、感動するしかない。現在展開中のレコード・デビュー50周年ツアーには、このバンドの偉大さはどんな批評性をも吹き飛ばしてしまうほどの威力があって、そもそも、ハリウッド・ボウルで観たコンサートにマイナス要因などどこにもなかった。

発売と同時にキャパ約1万8千席分のチケットがソールドアウトとなったザ・ビーチ・ボーイズの地元であるロサンゼルスのハリウッド・ボウル公演。オープニングはそれまで展開してきたツアー同様に「恋のリバイバル」で、この原題は「Do It Again」。全日程にフル参戦するという意味において、バンドのブレインであるブライアン・ウィルソンがザ・ビーチ・ボーイズのツアーに登場するのは1965年以来のことで、だから、“またやるんだよ”なのである。今回のツアーの1曲目としては完璧な選曲であり、そして、ここで早くも気づくのである、あまりの音の良さとすばらしさに。まるで高級オーディオでCDを聴いているような抜群の安定感があって、しかも会場が野外であったことを思えば、PAシステムの技術の高さにはほんとうに驚かされた。そしてこれは結局、最後まで変わることがなかった。

そのPAから流れてくる歌と演奏はというと、これまたCDを聴いているようで、ピッチが外れることもなければミスをすることもなかった。たとえば、リードヴォーカルのマイク・ラヴは現在71歳。見た目、それとステージ上を歩く姿はおじいちゃんそのものだったけれど、71歳の人がどうしてあんなにも伸びと艶のある声で歌えるのか。信じられないほどに若いものだった。加えて、このバンドのトレードマークでもあるハーモニーの美しさは相も変わらず溜息が出るほどで、しかしいうまでもなく、オーディンエスが耳にしていたのはCD音源などではない。ザ・ビーチ・ボーイズが目の前で歌い、演奏している「ライヴ」であって、こちらも結局、最後まで乱れることはなかった。

要するに完璧だったのだ、最初から最後まで。ラジオで、レコードで、CDで、何度も何度も聴いてきた、そしてだからこそ生で聴きたいとみんなが願う、それはたとえば「サーフィン・サファリ」であり、たとえば「アイ・ゲット・アラウンド」であり、たとえば「素敵じゃないか」であり、たとえば「グッド・ヴァイブレーション」といった超名曲の数々を元の音源とほぼ変わらぬ、つまりは誰にとっても聴きやすいアレンジで、しかもさらりと披露したのだからクールである。ポップミュージックとは誰のものなのかということをザ・ビーチ・ボーイズよくわかっているのだ。しかも、DJパフォーマンス的ともいえる流れであの曲からこの曲へとスムースに次々と展開させていったのだから見事。休憩を挟んだ2部構成、そしてアンコールで計46曲という物量大作戦であり、それが3時間近くという長時間に及ぶものでありながらも観る者をまったく飽きさせなかったのは、バンドの妙があったからである。

演出の妙も多々あった。「駄目な僕」ではこのコンサートにおいて唯一、ブライアン・ウィルソンひとりだけにスポットが当てられていた。天才の彼がバンドの成功とは裏腹に、自分はどうしようもなく孤独であることの苦悩を吐露したこの曲の原題は「I Just Wasn't Made For Three Times」、つまり、“僕はこの時代にあってないんだよ”。さらには、ブライアンの実弟であり、今は亡きメンバーのデニス・ウィルソンとカール・ウィルソンに捧げた「フォーエヴァー」と「神のみぞ知る」においては、両者の映像をスクリーンに映し出すことでバンドの今をしっかりと浮かび上がらせた。バンドの今とはなにかというと、オリジナルメンバーだったデニスとカールはもういないけれど、ザ・ビーチ・ボーイズは今も続いているという「強さ」である。

そのようなメランコリックでセンチメントな、しかしバンドのポジティヴな面もしっかりと中盤で見せたからこそ、終盤の構成はより生きることになった。完全にオーディエンスを解放させ、踊らせた第2部のラスト、「カリフォルニア・ガールズ」から「サーフィン・U.S.A」に至る5曲は圧巻だった。切なさや悲しみを表現することもポップミュージックではあるけれど、それを聴く人たちを最終的に笑顔にさせ、幸福感をもたらすことがポップミュージックの役割であり、ザ・ビーチ・ボーイズがその機能性を50年も最重視しながら活動しているからこそのフィナーレだった。そして、そのときのオーディエンスは踊るだけでなく、笑うだけでなく、みんな一緒に歌っていた。完璧な演奏と極上のハーモニーに、各オーディエンスの上手な歌と下手な歌が重なり、ときにそれはザ・ビーチ・ボーイズの歌をかき消してしまうほどラウドなものだった。なんとすばらしいオーディエンスなのだろう。なんとすばらしいオーディエンスを生み出すバンドなのだろう。なんとすばらしい空間を形成するコンサートなのだろう。第2部のラスト5曲は、ポップ・ミュージックとは「あなた」のために機能するものであることを象徴した感動的な場面となった。

文●島田 諭
photo●Robert Matheu

<2012年6月2日 ハリウッド・ボウル公演セットリスト>
●第1部
1. Do It Again
2. Little Honda
3. Catch A Wave
4. Hawaii
5. Don't Back Down
6. Surfin' Safari
7. Surfer Girl
8. Please Let Me Wonder
9. Marcella
10. This Whole World
11. Then I Kissed Her
12. Disney Girls
13. In My Room
14. Kiss Me, Baby
15. Isn't It Time ※
16. Why Do Fools Fall In Love
17. When I Grow Up (to Be a Man)
18. Cotton Fields
19. Be True To Your School
20. Ballad Of Ole' Betsy
21. Don't Worry Baby
22. Little Deuce Coupe
23. 409
24. Shut Down
25. I Get Around
●第2部
26. Add Some Music To Your Day
27. Friends
28. All This Is That
29. California Saga
30. Sloop John B
31. Wouldn't It Be Nice
32. I Just Wasn't Made for These Times
33. Sail On, Sailor
34. Heroes And Villains
35. That's Why God Made The Radio ※
36. Forever
37. God Only Knows
38. Good Vibrations
39. California Girls
40. Help Me, Rhonda
41. Rock And Roll Music
42. Do You Wanna Dance?
43. Surfin' USA
●アンコール
44. Kokomo
45. Barbara Ann
46. Fun, Fun, Fun

『ゴッド・メイド・ザ・ラジオ ~神の創りしラジオ』
2012/06/4発売 TOCP-71311 ¥2,500(tax in)
日本語解説、歌詞・対訳つき
★ブライアン・ウィルソンが参加するビーチ・ボーイズとしては23年振りの最新アルバム
★ビーチ・ボーイズが、2012年、バンド結成50周年を祝って再結成。メンバーは、ブライアン・ウィルソン、マイク・ラヴ、アル・ジャーディン、ブルース・ジョンストン、デヴィッド・マークス。
★アルバムのプロデュースはブライアン・ウィルソン、エグゼクティヴ・プロデューサーとしてマイク・ラヴが名を連ねている。
1.Think About The Days / あの頃に…
2.That's Why God Made The Radio / ゴッド・メイド・ザ・ラジオ ~神の創りしラジオ
3.Isn't It Time / 今がその時
4.Spring Vacation / スプリング・ヴァケーション
5.The Private Life Of Bill And Sue / ビルとスーの私生活
6.Shelter / シェルター
7.Daybreak Over The Ocean / 海に輝く夜明け
8.Beaches In Mind / 心のビーチ
9.Strange World / ストレンジ・ワールド
10.From There To Back Again / バック・アゲイン
11.Pacific Coast Highway / パシフィック・コースト・ハイウェイ
12.Summer's Gone / 過ぎゆく夏
Do It Again (2012 Version) / 恋のリバイバル(2012ヴァージョン)※日本盤ボーナス・トラック

<来日公演>
8月16日(木)QVCマリンフィールド
[問]クリエイティブマン TEL:03-3462-6969
http://www.creativeman.co.jp/artist/2012/08beach/
8月17日(金)大阪市中央体育館
[問]キョドーインフォメーション TEL:06-7732-8888
http://www.kyodo-osaka.co.jp/
8月19日(日)日本ガイシホール
[問]サンデーフォーク TEL:052-320-9100
http://www.sundayfolk.com/


◆日本語オフィシャルサイト
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