ヴァン・ヘイレン、消耗状態など微塵も感じさせない6/1 LAステイプルズ・センター公演

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▲写真はこの公演のものではありません。
たしかに「事件」は解決済みといっていい。けれども、ヴァン・ヘイレンはほんとうに大丈夫なのだろうか、という不安は完全に払拭できなかったりするのも事実。「事件」とはさる5月17日、オフィシャル・サイトに掲載されていた7月以降のツアー・スケジュールを突如削除してしまった件で、しかもヴァン・ヘイレンはなんのインフォメーションもなしにそうしたのである。そしてその直後、アメリカの『Rolling Stone』誌がメンバー間の確執説をネット上で報じたものだからさあ大変。ツアーは延期されるようだ、いや、中止になるかもしれない、いや、バンドの存続自体が危ういのかもしれない、といったファンの憶測やデマがあっという間に世界中に広まる大炎上状態に発展してしまったからである。

結局、5月20日に動画共有サイト「Vimeo」に“Public Relations”と題した映像がアップされたことで「事件」は一応、終結。その映像とは、なぜだか犬を連れたデイヴィッド・リー・ロスが、ツアー・スケジュールがあまりに過酷なので自分たちには休養が必要だと釈明したものだった。しかし、そのビデオがいまだオフィシャル・サイトにアップされないのはなぜなのか、バンドに疲労が蓄積しているのであれば、残る5月と6月のツアーをしっかりと消化することはできるのか、といった疑問や不安が生じるのは当然のことであって、ならば、バンドの現在の状態を自分の目でしっかりと確かめるしかない、ということで、ヴァン・ヘイレンの地元であるロサンゼルスのステイプルズ・センター公演を観たわけなのだが、これがまったく大変なことになっていたのである。

ステイプルズ・センターは、ローリング・ストーンズ、ポール・マッカートニー、U2、マドンナといった大物アーティストがツアーでブッキングすることの多いキャパ約2万席の大会場。ここにヴァン・ヘイレンが登場したのは6月1日で、2月18日にキックオフした北米ツアー初のカリフォルニア州での公演でもあった。場内はベテラン・バンドらしく、おおよそ年齢層の高いファンが目立ったけれども、たとえば「ジャンプ」が大ヒットした時代を知らない30代、20代後半と思しき人たちも少なくなかった。そして、彼ら、彼女らは1曲目の「アンチェインド」からかなりの熱狂ぶりで、それは地元公演だからなのか、各地どこもこのような調子なのかはわからないけれど、自分のように不安を抱きながらライヴを観ているムードを場内から感じることはなかった。

とはいうものの、ヴァン・ヘイレンに対する個人的不安が消えるまで、それほど時間はかからなかった。このバンドの「本気度」がどんなものかをすぐに、そして強く感じることができたからである。もともとヴァン・ヘイレンの演奏技術は非常に高く、レコードやCDにおけるそれをもちろんステージでも十分に再現できる技量もあるのだけれど、このバンドがライヴでベースとしているのはパーティ・モードであるからして、そのノリを優先することで歌も演奏もややラフになりがちなところがあった。ところが、まずデイヴィッド。この人がライヴでこんなにも真面目に歌う、まさに熱唱というフレーズが似合うヴォーカリストとなっていたことに驚いてしまった。自分の声量を誇示するような場面も何度かあって、しかし眉間に皺を寄せて歌っているわけでなく、笑顔を絶やさず、それどころか、約2時間のライヴのあいだずっと動きまわるフィジカルなパフォーマンスをしっかりと見せたのだからこれまた驚き。この人、もう57歳なのである。

そして演奏のほうはというと、デイヴィッドに比べてエドワード・ヴァン・ヘイレンのアクションは極端に少ないものだった。足元にズラリと並べたエフェクター類の前の定位置にほとんどいたからで、ただこれは頻繁にエフェクターを駆使し、音色に変化を与えることで楽曲そのものに深みを与えることに徹したプレイをするためだったからである。要するにエディのギターと、彼の兄であるアレックス・ヴァン・ヘイレンのドラムと、エディの息子であるヴォルフガング・ヴァン・ヘイレンのベースは、パーティのためのプレイでなく、楽曲そのもののため、そして、しっかりと歌うデイヴィッドを支えるためのものとして機能していたということである。

今回のツアーが最新アルバム『ア・ディファレント・カインド・オブ・トゥルース』を軸にしたものでなく、デイヴィッド在籍時のベスト・ヒットでメニューを組み立てたのはつまり、「そういうこと」だった。今のヴァン・ヘイレンは過去の楽曲を余裕のモードで披露し、昔の良さと楽しさをたっぷりの明るさでアピールするだけのパフォーマンスなどしていなかった。昔以上にテクニカルで、ソリッドで、重量感あるサウンドでオーディエンスを圧倒させることを自分たちに課していたのは明らかで、しかもそれは、誰も聴いたことのない、観たことのないヴァン・ヘイレンとして再生していたのである。メンバー全員によほどの強い意志がなければ、4人の結束力がなければ、新しいヴァン・ヘイレンをアピールすることなどできるはずもなく、それと、ツアー三昧に疲弊しているとのことだったけれど、バンドが消耗状態であることなど微塵も感じさせなかったこともうれしい事実だった。

ちなみに、スケジュール削除釈明ビデオでデイヴィッドは「このままオーストラリア、日本とツアーを続けていったら、オレたちはロボットになっちゃうよ」と、誰も訊いていない北米ツアー後の予定もうっかり喋ってしまっていた。7月から予定されていた北米ツアーがどのようになるのかは現時点ではわからないけれど、そう遠くはないタイミングに新しいスケジュール発表がされるのではないだろうか。そこで、いうまでもなくオーストラリア、そして日本のツアー決定の報が飛び込んでくることにも期待したい。デイヴィッドがヴォーカルを務めるヴァン・ヘイレンでいうなら、最後に来日したのは1979年。バンドの現在が大変に好調であることを思えば、どうしたって期待してしまうわけである。

文●島田 諭

<6月1日 ロサンゼルス/ステイプルズ・センター公演 セットリスト>
1. Unchained
2. Runnin’ With The Devil
3. She's A Woman
4. Romeo Delight
5. Tattoo
6. Everybody Wants Some!!
7. Somebody Get Me A Doctor
8. China Town
9. Hear About It Later
10. Oh, Pretty woman
11. Drum Solo
12. You Really Got Me
13. The Trouble With Never
14. Dance The Night Away
15. I'll Wait
16. And The Cradle Will Rock…
17. Hot For Teacher
18. Women In Love
19. Beautiful Girls
20. Ice Cream Man
21. Panama
22. Guitar Solo
23. Ain't Talkin' 'Bout Love
<アンコール>
24. Jump
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