L’Arc~en~Ciel、総動員数45万人のワールド・ツアー最終公演。虹のかかるハワイの空の下、シンプルなステージでバンド自体がエンタテインメントであることを証明

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その朝、虹はかかった。

5月31日の朝、ワイキキの空に大きな虹がかかった。それまで、日中は晴天が続き、夕方から夜にかけて通り雨が降り出すことが多かったワイキキの天気だが、この日の朝は珍しく、傘がほしくなるほどの少し強めの本格的な雨が降っていた。

しかし。雨を降らした大きな雲の切れ間から溢れ出した太陽の光が青空を広げると、そこにはっきりと大きな虹が生まれていた。真っ青な空に浮かび上がったその光のスペクトルは、肉眼ではっきりと数えられるほど、くっきりとした虹色を描き出していた。

海から始まり、海へと戻っていった大きな虹の橋は、ワイキキの浜辺、つまりこの日、L’Arc~en~Cielがライヴをすることになっていたワイキキシェルと向き合うように、大きなアーチを描き出していたのである。

ハワイは虹の国。ワイキキの中心街から少し離れた場所では、こういった絵に描いたような虹によく出逢えるのだが、街中でここまではっきりした虹に出逢えるのは本当に珍しい。

現地の人も、珍しく思うほどの見事な虹。その虹は、通常よりも長い時間その姿を私たちの目に焼き付け、ゆっくりと青空に帰っていったのだが、消えかかる瞬間、眩いばかりの光を放ったのだ。これもめったにない光景。これまでも台風直撃の中でのライヴや(2011年5月28日<L’Arc~en~Ciel 20th L’Anniversary LIVE>味の素スタジアム)、ライヴ前日にめったに降ることのない雹が降ったこともあったが(2012年5月12日 <L’Arc~en~Ciel 20th L’Anniversary WORLD TOUR 2012 THE FINAL>日産スタジアム)、虹の見える場所でのライヴの朝、雲に邪魔されることなく大きなアーチを描き出した立派な虹に出逢えるとは。本当に嬉しくなった。

きっとこの日のライヴは、最高のライヴになるに違いない。そう確信したと同時に、あまりの嬉しさに、“さすがだな、L’Arc~en~Ciel。普通じゃないな。やっぱ持ってる!”と心の中でつぶやいた。

ライヴの少し前からハワイに滞在していた筆者は、日本人だと分かって話しかけてくる現地の人たちから、何度も「今月、L’Arc~en~Cielが来るんだよ! すごく楽しみにしているんだ! 彼らは日本だけじゃない、世界に愛されるビッグバンドだね。本当にいい曲を届けてくれるバンドだ」と話しかけられたり、現地に住む日本人に、どれだけL’Arc~en~Cielが好きで、自分の青春と共に生きてきたバンドなのかということを熱く語られたりもした。その度に、彼らの存在と自分が日本人であることに誇りが持てた気がした。きっと、集まってきたファンたちも同じ。この場所に来て、L’Arc~en~Cielのファンであることと、ここまで一緒に歩めてきたことを誇りに思ったに違いない。

2012年5月31日。

この日、香港、バンコク、上海、台北、ニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポール、ジャカルタ、ソウル、横浜、大阪、東京、そしてホノルル。世界14都市で行なわれた<L’Arc~en~Ciel WORLD TOUR 2012>がファイナルを迎えた。

◆L’Arc~en~Ciel 画像

ワイキキの中心街の端にある、カピオラニ公園の中にあるワイキキシェル。それは、ワイキキの海を正面に、左手にダイアモンドヘッドを望む最高の景色の中にあるライヴ会場だ。

この日、シート席はソールドアウトとなっていたが、その後ろに設けられた芝生席の順番を待つ人たちで、会場前には長蛇の列ができていた。日本から来たファンと現地のファン合わせて5000人以上がそこに集まった。10万人を軽く越す動員を持つL’Arc~en~Cielには小さ過ぎる会場だ。しかし。シェル(貝)をイメージして作られたそのステージは、ここでしか見られないL’Arc~en~Cielのライヴに、最高の景色をプレゼントしてくれたのだった。

18時39分。yukihiro、ken、tetsuya、そしてhydeがステージに現われると、オーディエンスは大きな歓声で4人を迎え入れた。

始まりは「READY STEADY GO」。少し風に流される音がとても愛しい。曲は間髪入れずに「Caress of Venus」「REVELATION」「HONEY」「flower」「叙情詩」へと繋がれた。

野外のライヴのスタートとして、そこにド頭から最高のノリを生み出した「READY STEADY GO」は最高の選曲。「いばらの涙」から幕を開けた日産スタジアムのオープニングとはまったく違った印象に、無限のエンタテインメント性を感じ取った。「Caress of Venus」では、オーディエンスが4人の音と声に自分たちの声を重ね盛り上り、「REVELATION」では強く握りしめた拳を高く掲げて叫んだ。

「HAWAII!」(hyde)

hydeの声に煽られ、オーディエンスはサビにある“REVELATION”という言葉を大声で叫ぶ。少し空が青を落とし、水面をオレンジに染めながら太陽が海へと帰りかける。そんな景色にこのハードめなナンバー「REVELATION」はお似合いだ。少し長めのアウトロが「HONEY」へと流れると、そこの景色は一変した。オーディエンスは、上げていた拳をクラップに変え、4人から届けられる「HONEY」に手拍子を加え曲を彩った。L’Arc~en~Cielの代表曲と言っても過言では無いこの曲に、現地ファンたちは手作りのプレートを掲げて盛り上がった。ギターをかき鳴らしながら届けるhydeの姿も含め、この曲は間違いなくL’Arc~en~Cielというバンドを語る上で絶対的な存在であると言えるだろう。

印象的だったのは「叙情詩」。

ドラム台の上手側に腰掛けたkenが左手で“アロハ”を形取り、ひらひらと振って見せると、オーディエンスは同じように“アロハ”を形取った左手をひらひらと振って返した。一旦ステージ脇にはけたtetsuyaがドラム台の下手側に腰掛けスタンバイすると、hydeのアカペラから「叙情詩」が始まったのだ。いままでの盛り上りが嘘だったように、そこはとても静かな空間となった。独特なビブラートを響かせるhydeの声に拍手が起こった。中央に位置するyukihiro前のドラム台正面にhydeもゆっくりと腰を下ろすと、ken、tetsuya、yukihiroの音が重なっていった。アコースティックな印象で届けられたその曲に、オーディエンスは引き込まれるように聴き入っていた。

「みなさんこんにちは。あ、違う。アロハ~。すごい気持ちいいんですけど、これ。本当に気持ちいいです。今日は水着の人がいて嬉しいです。kenちゃんそっちばか見てるでしょ。サングラスしてるから解らないと思って(笑)」(hyde)

そんないつもどおりの和やかなMCが始まった。

「これって、20周年記念ライヴなの?」(hyde)

リーダーであるtetsuyaに尋ねるhyde 。その言葉に、tetsuyaが答えた。

「今日はなんでしょうね? 初めてのハワイでのライヴですね。20周年ちゃう。もう21歳になったんやで。21歳最初のライヴやで」(tetsuya)

そのほんわかした2人のやりとりにオーディエンスたちは大いに和んだ。

「21歳の頃、何してました? あ、ラルクやってたんや(笑)」(hyde)

少しばかり天然要素を持ったhydeのその発言に、オーディエンスから笑いが起こる。

「kenちゃん、まだ大学行ってましたね。yukihiroさん、その頃先輩でしたよね」(hyde)

何気なく振り返られるL’Arc~en~Cielの結成話。そんなやり取りの後に届けられたのは「Pieces」(1999年にリリースされた16枚目のシングル曲)。kenのアルペジオが綺麗に景色に滲んだ。yukihiroのキックの柔らかな音も、曲の中で滑らかなフレーズを奏でるtetsuyaのベース音も、音の上にそっと馴染ませるように乗せられたhydeの声も、21年という年輪を重ねた音に変化し、今、ここに、聴く者それぞれの思い出と記憶と共に生きた曲として放たれていたことを、本当に心から愛しく思った。そう感じたのも、きっと彼らの言葉で語られるL’Arc~en~Cielの歴史の後に届けられたからこそだろう。今から14年前に産み落とされた「Pieces」は、いつも以上に深く、この景色と共にオーディエンスの心に刻まれることとなったことだろう。

19時30分。イントロの同期音が悩ましく鳴り響くと、オーディエンスはその音に歓声を上げた。

「X X X」である。空はすっかり闇に染まり、深い青となった空に、風に乗ったグレーの雲がゆっくりと流されていく。少し怪しげな光景に「X X X」が絡み合っていくのがとても美しかった。そこから続けられたのは「DRINK IT DOWN」。ステージの赤が4人を真っ赤に染めた。激しくダークなL’Arc~en~Cielにオーディエンスは熱い歓声を送った。

この日は、特にエンタテインメントな仕掛けのないライヴであったが、それ故に、彼ら自身、L’Arc~en~Cielというバンド自体がエンタテインメントであること、SHOW要素を持ったバンドであることを、はっきりと証明できていたように思う。

kenらしいフレーズのギターソロから繋げられた「MY HEART DRAWS A DREAM」の後は、このワールドツアーで恒例となっていたkenの【メンバーに各地のお土産を渡す】というコーナーだった。この日、ABCストアで買い込まれたお土産をkenから貰う役はリーダーであるtetsuya。虹の見える場所であることも考えて選ばれた、虹色にちなんだお土産だ。虹色の海水パンツに虹色のシュノーケル。虹色のビーチボールに、tetsuyaカラーであるピンクのハイビスカスの髪飾りと盛りだくさん。kenの説明を受けながら、貰ったお土産を高く掲げてオーディエンスに見せながら、顔よりも遥かに大きいビーチボールを必死で自力で膨らましてみせるtetsuya。ファン想いな一面が前面に出た一幕だった。

後半は、「SEVENTH HEAVEN」で躍らせ、この先に続く道を鮮やかに照らしてくれているような「GOOD LUCK MY WAY」で盛り上げられ、yukihiroによるドラムソロで締めくくられた「Driver’s high」で一旦インターバルを挟んだのだった。

20時20分。大きなウェイヴが、フロアに何度も何度も起こっていた。そして「あなた」のメロディが会場に流れ始める。そのメロに声を重ねたオーディエンスの歌声は、本当に涙が出るほど綺麗だった。その唄を引き継ぐかのように4人はステージに戻り、改めて「あなた」を贈った。優しくどこまでも綺麗に透き通ったメロディにオーディエンスは身を委ねた。

そして。これもL’Arc~en~Cielの代表曲「Link」を届け再び盛り上げると、ここで突如司会者が登場し、ライヴは一旦中断された。なんと、スペシャルゲストを呼んでいると言う。楽器を置いてステージ上手に集合する4人。そこへ登場したのは、ホノルル市の市長、ピーター カーライル氏だったのだ。日本語で挨拶した後、彼は1枚の宣言書を4人に贈った。そこには、【5月31日をL’Arc~en~Cielの日とする】と書かれてあったのだ。

「今日からハワイでは、5月31日がL’Arc~en~Cielの日となりました。せっかくラルクの日になったので、またここでコンサートができたらいいなと思います。21周年にこぼれるくらいやってしまいましたが(笑)、20周年というこの1年は、すごく有意義な、いい節目の1年になったと思います。また帰ってくるんで、そのときは一緒に遊んで下さい。最後にこの曲、聴いて下さい――」(hyde)

ラスト。届けられたのは「虹」。

21時10分。14都市17公演のワールドツアーは、無事ファイナルのステージを終えた。

――と、次の瞬間、hydeからこんな言葉が発せられた。

「1曲だけ、仲間のために1曲だけ演奏したいと思います。」(hyde)

捧げられた曲は「Bye Bye」。

L’Arc~en~Cielを見にここまで来てくれたファンたちの笑顔のために、誰よりも素敵な笑顔で笑い、いつもと同じ、いや、いつも以上に、ラストに相応しいライヴを届けてくれたのだ。そんな4人の気持ちに胸が締め付けられる思いだった。

“小さく手を振って 背中にそっとバイバイ”

hydeは込み上げる涙をこらえるように歌い、kenとyukihiroは悲しみをぐっと噛み締めるように寡黙に演奏し、tetsuyaは溢れ出す涙が零れ落ちないように空を見上げベースを弾いた。

この日、L’Arc~en~Cielを愛するオーディエンスと、虹の見えるこの場所で虹を見れた時間を過ごせたことを、私はきっと一生忘れない。もちろん、彼らも。そしてこの日、ここにいたオーディエンスも。そして、このワールドツアーを見たすべてのオーディエンスも。

L’Arc~en~Cielは、一人一人の思い出に素敵な魔法をかけながら一緒に人生を歩んでいるのだろう。

“君の魔法はきっとみんなが好きになる”――。

L’Arc~en~Cielという魔法で、この先も多くの人たちを笑顔にしてほしい。

DVD
『LIVE TWENITY』
2012年6月13日発売
KSBL 6020 ¥3,920(tax in)
01. 虹 【1997 REINCARNATION, Dec.23,1997 東京ドーム】
02. 花葬 【Tour '98 ハートに火をつけろ!, Oct.21,1998 国立代々木競技場 第一体育館】
03. Caress of Venus 【1999 GRAND CROSS TOUR, Aug.22,1999 東京ビッグサイト 駐車場特設ステージ】
04. NEO UNIVERSE 【RESET>>LIVE*000, Dec.31,1999-Jan.1,2000 東京ビッグサイト 東展示棟】
05. HONEY 【CLUB CIRCUIT 2000 REALIVE, Oct.27,2000 Zepp Osaka】
06. HEAVEN'S DRIVE 【TOUR 2000 REAL, Dec.6,2000 東京ドーム】
07. Driver's High 【Shibuya Seven days 2003, Jul.6,2003 国立代々木競技場 第一体育館】
08. REVELATION 【SMILE TOUR 2004, Jun.12,2004 大阪城ホール】
09. READY STEADY GO 【LIVE IN U.S.A., Jul.31,2004 1st Mariner Arena】
10. TRUST 【AWAKE TOUR 2005, Aug.31,2005 国立代々木競技場 第一体育館】
11. 叙情詩 【ASIALIVE 2005, Sep.25,2005 東京ドーム】
12. the Fourth Avenue Café 【15th L'Anniversary LIVE, Nov.26,2006 東京ドーム】
13. 夏の憂鬱[time to say good-bye] 【Are you ready? 2007 またハートに火をつけろ!, Aug.26,2007 富士急ハイランド コニファーフォレスト】
14. Killing Me 【Are you ready? 2007 またハートに火をつけろ!, Aug.30,2007 沖縄コンベンションセンター 劇場】
15. MY HEART DRAWS A DREAM 【TOUR 2007~2008 THEATER OF KISS, Feb.10,2008 国立代々木競技場 第一体育館】
16. あなた 【TOUR 2008 L'7 ~Trans ASIA via PARIS~, May.9,2008 LE ZENITH】
17. forbidden lover 【TOUR 2008 L'7 ~Trans ASIA via PARIS~, Jun.1,2008 東京ドーム】
18. Blurry Eyes 【20th L'Anniversary LIVE, May.28,2011 味の素スタジアム】
19. GOOD LUCK MY WAY 【20th L'Anniversary LIVE, May.29,2011 味の素スタジアム】
20. X X X 【20th L'Anniversary TOUR, Dec.4,2011 京セラドーム 大阪】

Tribute Album
『L’Arc~en~Ciel TRIBUTE』
2012年6月13日発売
KSCL 2070 ¥3,200(tax in)
01. Blurry Eyes / Vince Neil
02. NEO UNIVERSE / Orianthi
03. RAINBOW / TLC   ※オリジナルタイトル「虹」
04. HONEY / Eric Martin, John 5 (Gt)
05. READY STEADY GO / ZEBRAHEAD
06. snow drop / Boyz � Men
07. Vivid Colors / Maxi Priest
08. HEAVEN'S DRIVE / Michael Monroe
09. STAY AWAY / Daniel Powter
10. flower / Clementine
-Bonus Tracks-
11. SEVENTH HEAVEN / POLYSICS
12. Shout at the Devil / SID
13. Caress of Venus / Hemenway
14. Driver's High / TOTALFAT
Produced by Marti Frederiksen (track 1-10)

◆L'Arc~en~Cielオフィシャル・サイト
◆BARKS内<L’Arc~en~Ciel WORLD TOUR 2012>Photo Album公開中
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