MUSIC LIFE+ Vol.10 THE WHO特集「コラム『トミー(オーケストラ)』」

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イギリス的コスモポリタン ロンドン交響楽団+ロック・スターによるハイブリッド『トミー』。『トミー』は、初のロック・オペラ・アルバムであると同時に、マルチメディア展開された初のロック作品でもある。

ザ・フーによるオリジナル・アルバムとライブ版、そして、アダプテーションされたオーケストラ版、映画、演劇、ミュージカルまで、その展開は幅広い。ここでは1972年に発表のロック界のオールスターとロンドン交響楽団の取り合わせのオーケストラ版『トミー』を紹介しよう。

ロックとクラシックの融合という意味では、1969年にディープ・パープルがロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラと共演、1971年にはELPがクラシックをロック化した『展覧会の絵』もあり、時代的に伝統とモダンの混淆がトレンドだった感がある。

ロック・オペラと交響曲団との共演は一見親和性がありそうである。しかし本作では、多彩なロック・ボーカルが入ることにより、違和感を感じる曲があるのは否めない。ロッド・スチュアートが歌う「ピンボールの魔術師」も、原曲のドライブ感が損なわれていて、いまいち存在感がない。映画のサウンドトラックのエルトン・ジョン版は、原曲のロジャーと双璧の出来なだけに残念だ。もうひとつの目玉アンクル・アーニー役のリンゴ・スターが歌う「フィドル・アバウト」も、キーが苦しそうでよい出来ではない。

逆にそのほかの曲はトミーの新解釈と魅力がある。特にピートが歌う「アメイジング・ジャーニー」「サリー・シンプソン」は秀逸。本作で一番の聴きどころは、映画ではエリック・クラプトンが歌う、シカゴブルースのソニー・ボーイ・ウィリアムソン原曲の「アイサイト・トゥ・ザ・ブラインド」。ここではウッドストックにも出演した黒人フォークボーカリスト、リッチー・へブンスのソウルフルなボーカルとオーケストラとの共演だ。

アルバム全体はいま聴くと、大仰しさを感じるが、ロック史におけるある時代の一例としては興味深い。

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