【インタビュー】高橋優、「ひとりの男が歌を歌う人生というものを、面白がってほしい」

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原点回帰にして、ここから始まる未来へのスタートの合図。高橋優『僕らの平成ロックンロール(2)』は、“リアルタイム・シンガーソングライター”と称される彼のスタイルの究極とも言うべきアルバムだ。ただ「今思うこと」を何の飾りもなく投げ出した7曲は、メッセージでもなければ標語でもない。ただひとりの男の生き様をさらけ出した裸の言葉とメロディが心を揺さぶる、「これこそが歌だ」と思える力強い歌がズラリと並んでいる。

◆高橋優画像

──この間終了したツアー、僕は初日の神奈川で見せてもらったんですけど、新曲をガンガンやってましたよね。まだリリースまで1ヵ月以上前にもかかわらず。

高橋優(以下、高橋):ツアーでは5曲やってますね。

──MCでは「実は7曲入りアルバムにする予定じゃなかった」とも言ってましたが。

高橋:シングルという話だったんですけど、わがままを言わせてもらって。曲をどんどん聴いてもらったんですよ、とにかく。「困ったことに、こんなにできてます」と。

──困ったことに(笑)。うれしい悲鳴ってやつですか。

高橋:曲を早く届けたいということは、常々言ってたんですよ。出し惜しみするのが好きじゃなくて、「今これを作ったから今聴いてください」ということがやりたいので。曲の内容も、今の自分をかなり忠実に表現できてる気がしたので、できるだけ早くたくさん出したくて7曲入りにしました。

──今は自分の中で、曲を作りたいという大きな衝動の波が来ている?

高橋:変化してきているんですよね、2012年の中盤ぐらいから。それはけっこう大きな変化で、メジャーデビューして2年ちょっと経つんですけど、デビューしたことが悪いことでは全然ないし、映画やドラマの主題歌をやらせてもらったことは自分の中ではすごく良かったんですけど、そもそも路上ライヴをやっていたり、ひとりで曲を書いていた頃はそんなこと意識していなかったわけで。

──ですよね。

高橋:ただ思ったことを、ただ歌ってただけだったんですよね。それが楽しかったんですよ。で、それを面白がってもらってたような気がするんですよ。「高橋、おまえ何歌ってくれてんだ?」みたいな感じは、忘れちゃいけない感覚だと思ったんですよ。台本をもらうでもなく、誰かにレールを敷いてもらうでもなく、自分からメッセージや思いを発信していったほうが絶対にいいという気持ちに、この2年間かけて改めて思ってきたんですよね。

──ああ、なるほど。

高橋:正直この2年間であやうく、メジャーは大人の世界だし、言われた通りのことをやっていさえすればプラマイゼロみたいな、そんな中和というか…色の薄いものになっていきかねなかったと思うんですよ。それって僕にとってはすごい恐怖で、協力してくれるスタッフやバンド・メンバーの人たちがなぜ今自分の周りにいてくれるのか?ということを、あらためて2012年に入ってからすごく何度も考えて。みんなが好き勝手に、高橋優をあやつり人形のようにしようとしているということじゃないですよ? でも、危なくそういうことになりかけてた気がするんですね、自分の中で。「リクエストされたからそういう曲を書こう」とか、そっちのほうに転がっていきそうな気がして、すごく嫌だったんですよ。で、2012年のホール・ツアーが終わった7~8月あたりは、なんだかすごく悩んでた時期だったんですよ。すぐ腹が痛くなってり、頭が痛くなったり、眠れない夜が続いたり、ボロボロ泣いたり、すごく変な期間だった。あれは何だったのか?と考えると、たぶん必死で自分が変化しようとしていたんだと思うんですよ。で、その変化がちょっとずつ落ち着いてきた時期から、ポロポロと曲が出てきて、「今の自分を表現しなきゃ」ということになっていったのと、それをまずは身近なスタッフの人たちに面白がってもらいたいと思ったんですよ。「なんか、高橋優が急にヘンなこと歌いだしたぞ」みたいな感じになってもらって、自分が中心になって、あらためてみんなと協力しながらやっていこうという感じになっていったんですね。

──考え方の流れがはっきりしてますね。すごくよくわかります。

高橋:だから今回は、きれいに収まるような形にならなくてもいいし、乱雑だとかいびつだとか言われてしまうかもしれないけど、自分が路上をやっていた時の、ただ曲を作ってただ歌っていた原点に戻って歌いたかったんですよ。それがこのアルバムです。


──そうすると、作っている自分も楽しい?

高橋:はい、すっごい楽しいです。もちろん不安もあるんですよ。正直「誰にも聴いてもらえないかも」という気持ちがあるので、書いてる時は。聴き手を意識しない、本当に自分の部屋の中だけの曲なのかもしれないから。「昨日の涙と、今日のハミング」という曲は、事務所やレコード会社の人に聴かせようかどうか、最後まで迷ったんですよ。自分の中だけでのテーマソングにしようかなとか、「別に歌うほどのことでもないよな」とか、自分で意味を考えちゃったりして。でも「歌うほどのことでもない」ことって、今すごく大事だと思ったんですよ。幸せでもないし、不幸せでもない。でも「どっちかでなきゃいけないんですか?」みたいなことを、「一等賞じゃなきゃダメなんですか?」というグチっぽい言葉で表現して、だけど今が最悪だと嘆いているわけでもない、この現状の中間地点みたいな気持ちをただただ歌ったこの曲を、聴いた人はどう思うだろう?と。そしたら意外と反応が良かったんですよ。「これが一番好き」というスタッフもいたりして、「ああ、そういうことにもなるんだな」と思ったし、そういう聴いてもらえる喜びもあらためて思い出したし、誰の期待にも応えてないけど、新しく誰かに期待してもらうものを作っていくみたいな感じでしたね。

──そのノリは7曲全部に共通してますね。1曲目の「ボーリング」、僕は特に好きな曲ですけど、投げっぱなしじゃないですかこれ。何の結論もメッセージもないというか。

高橋:そう。ふざけんなって感じですよ(笑)。何を言ってんだ?と。

──いきなり「面倒臭ぇ」と言い放ったあと、「僕にだけ都合のいいように世界が回ってくれりゃいいのに」とか。めちゃくちゃだけど、そう言いたくなる時も確かにあるよなって思うし。

高橋:この曲を作るきっかけは、けっこう前に箭内道彦さんのラジオに出させてもらった時に、無茶ブリで「今の気分を歌ってみて」って言われて、ポロッと歌ったのが「面倒臭ぇ!」だったんですよ。それはそれだけの2~3フレーズで終わってたんですけど、ちゃんと曲にしようと思って、すごく長い期間自分の中で眠ってたんですけど、ようやく完成にこぎつけました。まぁでも確かにそうで、僕はこれを「メッセージソングです」とは言いたくもないというか、これをどう受けとるか?は聴いた人の聴き方によるというか。あらためて高橋優を好きか嫌いか、はっきりわかってもらえるアルバムじゃないかなと思ってます。嫌いな人は大っ嫌いだと思いますよ、こんな歌(笑)。

──優しくあたたかく励まされたい人は、聴かないほうがいいと思う(笑)。

高橋:でもね、これを聴いて励まされるっていう人もいるんですよ。

──わかります。「夜明けを待っている」とか「昨日の涙と、今日のハミング」みたいに、「テレビ見てたらこんなこと言ってたんだけどさ」みたいな、そういう始まり方の曲もそうですよね。ある意味ひとりごとに近いというか。

高橋:半径1メートル半の世界ですね。

──それを歌にすることが、高橋優の原点だと。

高橋:自分が好きに音楽をやってる理由は、楽しいからなんですよ。「世界平和のために歌ってます」とか僕は言えないし、今の僕は「世界のことは僕はよくわからないけど、身近な人に笑っていてほしい」と思うし、自分自身が心から笑っていたいし、というスケールなんですね。僕にとっての「世界」は。

──あらためての原点回帰ということで、タイトルも『僕らの平成ロックンロール(2)』にしようと?

高橋:最初の『僕らの平成ロックンロール』を出したのはインディーズの頃で、初めての全国流通盤だったんですけど、あの時も似たようなことを考えていた気がするんですよ。自分が世間に出るというのはどういうことだろう? 自分の本音を全国流通盤で出すのはどういうことだろう?と。今回“(2)”にしたのは、比較対象にしてほしかったからなんですね。3年前はもっと気張っていて、力が入ってたと思うんですよ。「大人はバカだから」とか、わざとそういうドキッとする言葉ばっかり選んでたりとか、「暴力ママがどうのこうの」とか、「社会という名の大海原に身を投げた自分は」とか歌うことで、振り向いてほしいみたいな、自分で聴いててもそういう姿勢があるなと思ったんですね。「こいつ、頑張っちゃってるな」みたいな。そういう力は抜けてると思うんですよ。いろんなことに幻滅もしたし、自分に対してもそうだし、逆にその時は見えなかった希望や喜びもたくさんわかるようになってきたので。僕はたぶん死ぬまでそうやって歌っていきますし、人生通して僕自身が何かをみつけたり、誰かが何かをみつけるきっかけになればいいと思ってるんですけど、ドキュメンタリーみたいになればいいと思ってるんですよ、最終的に。「高橋、また悩んでるよ」とか「高橋、見失ってるな」みたいなこともあれば、「最近の高橋は丸くなったな」って文句言われたり、そういうところでみなさんに面白がってもらえれば。バンドもでなく、ダンス・グループでもなく、韓流でもない、ソロ・シンガーとして、それ以前にひとりの男が歌を歌う人生というものを、面白がってほしいと思ってます。

取材・文●宮本英夫


『僕らの平成ロックンロール(2)』
2012年12月26日発売
【通常盤】WPCL-11273 ¥2,100(税込)
【初回限定盤(CD+DVD)】WPZL-30492/3 \2,415(税込)
初回プレス特典(通常・初回共通):同時発売DVDとのW購入応募特典
初回限定盤特典:DVD~【MUSIC VIDEO】「ボーリング」「夜明けを待っている」「発明品」
【ボーナス映像】MVメイキング+マル秘映像
1.ボーリング
2.夜明けを待っている
3.今、君に会いにいく
4.昨日の涙と、今日のハミング
5.微笑みのリズム
6.発明品
7.I LOVE YOU

『高橋優LIVE TOUR~この声って誰?高橋優じゃなぁい?2012 at 渋谷公会堂2012.7.1』
2012年12月26日発売
【初回プレス盤】WPBL-90200/1 ¥5,775(税込)2CD
初回プレス特典
三方背ケース+ツイントレイパック仕様/同時発売CDとのW購入応募特典
DISC1
序曲

終焉のディープキス
誰がために鐘は鳴る
雑踏の片隅で
HITO-TO-HITO
気ままラブソング
福笑い
あなたとだから歩める道
8月6日
ほんとのきもち
一人暮らし
サンドイッチ
誰もいない台所
絶頂は今

頭ん中そればっかり
現実という名の怪物と戦う者たち
こどものうた
想いよ、届け
卒業
DISC2
<ENCORE1>
陽はまた昇る
花のように
セピア
<ENCORE2>
素晴らしき日常(弾き語り)
<BONUS映像>
ドキュメンタリー LIVE TOUR“この声って誰?高橋優じゃなぁい?2012”

◆高橋優オフィシャルサイト
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