【CD詳細レビュー】ハロウィン、ポジティブな疾走感が復活した彼ららしさ爆発の14作目『ストレイト・アウト・オブ・ヘル』

ツイート
1980年代から勢いを衰えさせることなく、今もなお精力的に活動しているハロウィン。ジャーマン・メタルの代名詞的存在であるハロウィンのサウンドは、パワフルでスピーディ、攻撃的なリズムに乗ってヨーロッパらしい哀愁漂うメロディが疾走するという、メロディとスピードが共存するいわゆる“メロスピ”、それもハッピーでポジティブ、爽快な疾走感があるのが大きな特徴だ。このメロスピが基盤なのはデビュー当時から変わっていないのだが、アルバムによっては紆余曲折と思えるほど方向性が異なっていることもあった。それは度重なるメンバーチェンジと無関係ではない。

デビュー当時はギタリストのカイ・ハンセンがリードヴォーカルを兼ねる4人編成のスタイル。しかしこれは長く続かず、すぐに専任ヴォーカリストのマイケル・キスクが参加している。この編成で作られたのが、『守護神伝 -第一章-』と『守護神伝 -第二章-』だ。ここでは、マイケル・キスクのハイトーンがハロウィンならではのキャッチーなメロディにぴったりとマッチしていたし、ギター専任となったカイ・ハンセンとマイケル・ヴァイカートのツインリードもより流麗さを増していて、バンドの世界的評価を決定的なものにした。また、ジャーマン・メタル、メロスピというジャンルの礎を作り上げたのもこの2枚と言われているほど、影響力も大きい作品だった。

しかしその後、バンドの中心的存在の一人だったカイ・ハンセンが脱退すると、バンドの方向性は大きく変わる。1993年の『カメレオン』は、アメリカンハードロックにも近い、メロスピからは少し離れた作風で、古くからのファンには受け入れられなかった。翌年には音楽性の相違からマイケル・キスクも脱退するが、今度は元PINK CREAM 69のアンディ・デリスを加入させ、メロスピ路線に戻った『マスター・オブ・ザ・リングス』を発表。これはもちろんファンにも受け入れられ、世界中で大ヒットとなった。ワイルドな声質と美しいハイトーンを併せ持ったアンディ・デリスは、単にヴォーカリストとして強力だっただけでなく、作曲面でも力を発揮したことはハロウィンにとって大きかった。同じ路線で作られた『タイム・オブ・ジ・オウス』、『ベター・ザン・ロウ』も当然ヒット作となった。

多くのハロウィンファンは、元祖メロスピバンドとしてこの路線を続けてくれることを望んでいたはずだが、2000年発表の『ダーク・ライド』でまたしても方向が変わる。今度はタイトルのとおりダークでシリアス、重苦しい雰囲気のパワーメタルへと舵を切った。もちろん楽曲のクォリティは素晴らしいし、アルバムとしての出来もよいのだが、以前のような爽快なスピードメタルをハロウィンに期待するファンには受け入れにくいところもあっただろう。この路線は2010年の『7シナーズ』にも引き継がれていて、次のハロウィンはいったいどこへ向かうのか、心配になっていたファンも多いだろう。

しかし、そんな心配はもういらない。約2年ぶり、14作目にあたる『ストレイト・アウト・オブ・ヘル』は、明るくポジティブなパワーに満ちた疾走感にあふれていて、まさにファンが期待するハロウィンらしさ全開の作品となっているのだ。

アルバムタイトルは、2012年に世界的に話題になったマヤ暦の終末論をヒントにしたもの。ここからはネガティブな想像をしてしまうが、実はその反対で、世界は終わらないからこのアルバムが2013年初頭に発売されるのだ、というポジティブな意味が込められているのだという。プロデューサーのチャーリー・バウアファイントの意向もあり、意図的にネガティブなものを排除し、ハッピーでポジティブなサウンドを目指したというこのアルバム、聴いてみると本当にポジティブでハッピーな雰囲気が詰め込まれている。

爽快な疾走感はアルバム冒頭の「ナバテア」から全開だ。ヨーロッパの雰囲気漂うシンセのフレーズがツーバスの高速パターンに乗って疾走を開始すると、そのスピード感に思わず乗せられ、聴いていて熱くなってしまう。ヴォーカルもリフも力強く、まさに“ポジティブ”をそのまま表現したような雰囲気だ。続く2曲目の「ワールド・オブ・ウォー」は、へヴィだがスピードはさらに上がる。唸るようなアンディ・デリスのヴォーカルも迫力があるし、サビへの美しい展開も感動的だ。超高速リフのイントロと縦ノリのパターン、超高速で駆け抜ける明るいサビが交互に登場する「ファー・フロム・ザ・スターズ」は、展開のしかたが絶妙で、パターンが切り替わるときにはゾクゾクしてしまう。そして先行シングルとなった「バーニング・サン」は、パワフルな高速パターンに乗ってアンディ・デリスのハイトーンシャウトが明快で荘厳なメロディを歌い上げ、ソロは流麗でメロディアスなツインリードで決める、といった具合。挙げていったらきりがないが、本当にポジティブなハロウィン節が満載なのだ。

当然ながら曲調に幅はあるけれど、ほとんどどの曲でもパワフルでスピード感あるパターン、明快ながら哀愁漂うメロディ、流麗なツインギターを聴くことができる。これぞハロウィンという魅力にあふれた作風で、聴きごたえもたっぷり。これで文句のあるハロウィン・ファンはいないだろうと思えるほどの快作に仕上がっている。

2012年は<LOUD PARK 12>で来日したハロウィンだが、2013年3月からは、カイ・ハンセン率いるガンマ・レイとのカップリング・ツアー<Hellosh Rock Tour>の第二弾が始まる。そして夏には来日する予定もありとのことなので、こちらも見逃せない。

最新アルバム『ストレイト・アウト・オブ・ヘル』
2013年1月16日 日本先行発売
1万枚限定デラックス・エディション:VIZP-113 / \3,360(税込)
通常盤:VICP-65100 / \2,520(税込)
01.ナバテア
02.ワールド・オブ・ウォー
03.リヴ・ナウ!
04.ファー・フロム・ザ・スターズ
05.バーニング・サン
06.ウェイティング・フォー・ザ・サンダー
07.ホールド・ミー・イン・ユア・アームズ
08.ワナ・ビー・ゴッド
09.ストレイト・アウト・オブ・ヘル
10.アスホール
11.イヤーズ
12.メイク・ファイア・キャッチ・ザ・フライ
13.チャーチ・ブレイクス・ダウン
14.ノー・エターニティ
15.バーニング・サン〔ハモンド・ヴァージョン〕
※Tr.14: 日本盤DXエディション限定ボーナス・トラック
※Tr.15: 世界共通DXエディション用ボーナス・トラック

◆ハロウィン オフィシャルサイト
◆レーベル・オフィシャルサイト
◆VICTOR ROCKSオフィシャルサイト
この記事をツイート

この記事の関連情報