1月12日(土)ドイツ・ハンブルク、Hamburger Klangkircheにてドイツを代表するカリスマ女性ロッカー、インガ・ルンフ(Inga Rumpf)のライブを見た。インガは、1960年代からもう40年以上、ハンブルクを中心に活動している、しゃがれ声の女性ヴォーカリスト(兼ギタリスト、ピアニスト)。ジャンル的にはロック、ブルース、ソウル、ファンク、ゴスペル、プログレッシブ・ロック等などと多岐にわたる音楽を彼女は演奏してきた。シティ・プリーチャーズ(den City Preachers)、フランピー(Frumpy)やアトランティス(Atlantis)といったバンドで活動、ライオネル・リッチーとツアーをしたこともあるし、キース・リチャーズやロン・ウッドとの共演経験もあり、ティナ・ターナーに曲を提供したこともある筋金入りの実力派アーティストである。

◆インガ・ルンフ画像

バンドは彼女のヴォーカルとギターの他、ピアノ(ジョー・ディンケルバッハ Joe Dinkelbach)とウッドベース(トーマス・ビラー Thomas Biller)からなるトリオ編成。冒頭では、1978年の彼女のソロアルバム・タイトルでもあり、彼女の生き様を象徴するような曲「My Life is a Boogie」(←ものすごくカッコイイ曲名)からスタート!彼女の激しく苦味の効いたシャウトが観客を圧倒する。だが、40年以上の音楽活動のなかで、苦味に苦味を重ねまくった結果、インガ・ルンフでしか出せないような甘い味わいがあって、心が揺さぶられた。そのほかは2005年発表のアルバム『easy in my soul』からのオリジナル曲がメインで、ミシシッピ・デルタ・ブルース風のブルースナンバー「More than I can Tell」や「Walk Away」ではドブロ・ギターで弾き語り。だが、ブルース一辺倒ではなく、彼女の多彩な音楽経歴を反映するかのように、ファンキーでメローなナンバー、「Easy」「Over the Hill」「Perfect Love」などに泣かされる。

ウッドベースのトーマス・ビラーが素晴らしい。低音域のピチカートは腹の底から響くような暖かい音色を持ち、高音域のピチカートも歯切れよくプチンプチンとした音。弓弾きも繊細な高音域が出ていて、優しい色彩を楽曲に与える。インガのドブロ・スライド・ギターもパリパリとした錆びた古金属の肌触り(耳触り?)を持っていて、なんとも言えない味わいを音楽に与える。彼女はギタリストとしても素晴らしいギタリストだ。

彼女の1978年のアルバム『My Life is a Boogie』の録音のために集まったイギリスの優秀なセッション・ミュージシャンには、元グリース・バンドやココモにいたニール・ハバード(Neil Hubbard)と故アラン・スペナー(Alan Spenner)、後にブリティッシュ・ロックやパブ・ロックを代表する人物となるポール・キャラック(Paul Carrack)がいた。彼らはそのまま、活動を再開したロキシー・ミュージックのサポート・メンバーになって、『Manifest』『Flesh+Blood』『Avalon』などのロックの歴史を変える名盤が生まれた。僕一人の推測かもしれないが、インガの1978年のセッションが無ければ、ロックの歴史自体、変わっていたのではないかと思っている。この日ハンブルクで見たハンブルクのミュージシャンも素晴らしいし、いいミュージシャンを見つける目と耳を持った彼女は確実にポップ音楽の歴史を変えてきたのだと実感した。

客層は彼女の経歴を一緒に歩んできたかのような、高年齢のかたが結構多かった。話をしてみると1970年代からずっと彼女を応援してきていると応える人が多い。曲が盛り上がってくると、ワインを飲みながら教会の机を叩く、立ち上がって踊る、合唱するなど、とてもとても気持ちのいい中高年の淑女、紳士たち。こんな風景、日本では見たことがない。実際教会でのライブであるのだが、1950年ごろの黒人教会で熱い熱いゴスペルを聴いているような雰囲気が味わえて、寒いハンブルクの夜、心も身体も暖かくなった。

ルーツ・ミュージックやフォークからポップ音楽まで、自らの耳に入ってくる音楽に真摯に耳を傾け、それらの音楽から大切なエキスを抜き出して、その環境で生きてきた自分にしか作れないロックを作る。例えば、アメリカのザ・バンドかライ・クーダー、イギリスのグリース・バンドあるいはフェアポート・コンヴェンション、そして東ドイツがコントリーヴァだとしたら、西ドイツ・ロックはインガ・ルンフによって作られたのだと、僕は今日、確信した。

文:Masataka Koduka
Photo: Thomas

◆インガ・ルンフ・オフィシャルサイト