【ライブレポート】ベン・フォールズ・ファイヴの新しい時代の到来を告げる、記念すべきライヴ

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開演前、場内は確かに同窓会ムードだった。チケットは早々に売り切れ。15年前、ベン・フォールズ・ファイヴを聴いて過ごした僕は、私は、結婚して子供も誕生し、音楽からちょっと遠のいてしまったが、久々に懐かしくなってコンサートにやってきた……そんな雰囲気を纏った人々が、ちょっと居心地が悪そうに人見記念講堂のシートに座っているように見えた。実際、「もう15年くら経ったんだね」という会話が私の後ろの席からも聞こえてくるし、ニュー・アルバムがリリースされていることを知らなかったのか、ロビーでCDを買って開演前に開封している人もチラホラ。そんな光景を眺めているとほのぼのと暖かい気持ちになる。

◆ベン・フォールズ・ファイヴ画像

ベン・フォールズ・ファイヴ、再結成後初となる来日公演初日は東京・人見記念講堂。昭和女子大が運営する、普段、クラシックのコンサートが多く行なわれているホールで音響設備も良くとても見やすいところだ。もちろん、ステージ左には大きなグランド・ピアノ。中央の少し高い位置に簡素なドラム・セットが置かれ、そのドラムとピアノとトライアングルを形成するかのように右側にベースとマイクが置かれている。筆者は1995年に行なわれた渋谷クアトロでの初来日公演からベンのソロ公演までずっと欠かさず観てきているが、最初のクアトロ公演などはキャパが小さかったこともあり、ステージからグランド・ピアノが落っこちそうにも見えたものだった。だが、さすがにクラシック系のホールだと厳かな雰囲気に包まれる。

しかし! 定刻から5分遅れてステージに現れたベン、ロバート、ダレンの3人は、そんな同窓会ムードも、厳かで落ち着きのある雰囲気も一気に打ち破ってくれた。ニュー・アルバム『サウンド・オブ・ザ・ライフ・オブ・マインド』収録の「マイケル・プレイターの5年後」のイントロが鳴り、「トーキョー、サイコー!」というベンのかけ声とともに待望の公演がキックオフ! いきなり3人のコーラスが満員の会場中に広がる。これだ、このハーモニーだ。初来日公演の時と何も変わらない、ハートウォーミングで確かな響きを讃えた3層のコーラス。変わっていないどころか、彼らが距離を置いている間にそれぞれが積み上げてきたスキルが間違いなく活かされているじゃないか。しかも、息もピッタリ。そう、ソロとして大成功を収めたベンはもちろん、ダレンはホテル・ライツというバンドで自らヴォーカルをとって活動、ロバートも地元ノース・キャロライナでバンドを結成したりベースを教えたりするなど、3人は道を分かっている間もミュージシャンとして確実に成長していた。そして、まるで運命の赤い糸で再び引き寄せられた3人は、最強のコンビネーションであることを自ら裏付けるかのように見事なコーラスとアンサンブルをこうして聴かせてくれたのだ。

「13年ぶりの来日公演、僕らも本当に嬉しいよ!」

曲間にベンがそう話をすると、「おかえり!」とばかりに会場中から大きな拍手が沸き起こる。嬉しそうな表情を見せる3人。そして、あの代表曲「ジャクソン・カナリー」の、叩き付けるピアノのイントロが流れると場内は一気にヒートアップ。最初から立ち上がっていたオーディエンスたちも堪らないとばかりに踊り始める。途中、ベンが交流あるというベテランのカントリー・シンガー・ソングライターのウィリー・ネルソンの80歳の誕生日のために…と、オーディエンスに「Happy Birthday」の唱和をベンが求める場面も。その様子をiPhoneの動画で撮影するベン。あれ? でも、ウィリーの誕生日って4月30日のはず。2ヶ月以上も先の誕生日のために…ベンは何か企んでいるのだろうか。

さて、ライヴ自体はニュー・アルバムからの曲が中心。クシャクシャの髪とメガネがここ最近のトレードマークになっているベンは、かつてほど闇雲に鍵盤を叩くことはなくなったが、その分、効果的に音を響かせたりロバートとダレンとのコンビネーションを考慮したリフを弾いてみたりと、バランスを考えてプレイしている様子が伝わってくる。3人とも昔より遥かに曲の良さがクッキリと浮き彫りになる演奏をモットーとするようになったのか、ちょびっと(いや、かなり?)恰幅が良くなったロバートは途中でウッドベースを弾いたりシンセを触ったり、「バトル」では飛び跳ねたりとベン以上にアクティヴだったが、ちゃんとダレンと歩調を合わせてリズムをキープ。ダレンもロバートの動きをしっかり視野に入れながら、時にダイナミックにタムやスネアをロールさせていく。

改めて驚かされたのは、そのダレンが曲の中でもスティックを持つ左手を器用に持ち替えたりするドラミングのスマートさだ。筆者がこの前日に行なったインタビュー(【インタビュー】ベン・フォールズ・ファイヴ、「3人だけのケミストリーってやっぱりあるな」:https://www.barks.jp/news/?id=1000087491)で、ベンはこの3人のアンサンブルと曲構成がジャズ・コンボのようだと話してくれたばかりだったが、なるほど、ダレンのドラムを見ているとジャズ・ドラマーのような洒脱なグルーヴ感を根っこに持っていることに気づかされる。淋しげなメロディが心を打つ代表曲「ブリック」のようなバラードでも、そんなダレンとロバートによる洒脱なリズム・セクションは際立っていたのだから、簡単に見えていかに彼らが努力しているのかがわかるというものだ。

「ニホンガスキデス」というベンの一声で始まった「フィロソフィー」以降のエネルギッシュな終盤はこのバンドの真骨頂。もちろん、「フィロソフィー」後半ではガーシュウィンのあのリフも飛び出して、ベンも座って弾いてなんていられないとばかりに前のめりに鍵盤に向かう。ダレン→ロバート→ベンとリード・ヴォーカルのバトンが渡されて始まった「アンダーグラウンド」で場内の興奮は頂点に。アンコールでは<カネヲカエセ オレニカエセ>でお馴染み「ソング・フォー・ダンプト」で大団円。最後まで日本のオーディエンスのために…という3人の心配りが隅々にまで行き届いた、それでいてダイナミズムや攻撃性も忘れない素晴らしい2時間だった。

終演後、ロビーの物販コーナーは黒山の人だかり。TシャツやCDを買い求める人々の姿を後ろから眺めながら、この日本のオーディエンスたちがベン・フォールズ・ファイヴを見つけ、そして育てたんだなとしみじみ実感した。どこの馬の骨ともわからないノース・キャロライナ出身のトリオが発表したファースト・アルバムを、まだ日本盤も出ていないうちから世界のどこよりも早く評価したのはこの日本のリスナー。ニュー・アルバム『サウンド・オブ・ザ・ライフ・オブ・マインド』は全米チャートで過去最高のチャート・アクションを記録した。もちろん、日本でもヒット中だ。日本が火をつけたベン・フォールズ・ファイヴの新しい時代の到来を告げる、記念すべきライヴであったことをここに記しておきたい。

撮影:森リョータ
レビュー:岡村詩野

<BEN FOLDS FIVE 再結成ジャパン・ツアー2013>
東京公演
2013年2月16日(土) 昭和女子大学 人見記念講堂 【SOLD OUT!】 16:30 open/17:00 start
2013年2月18日(月) 渋谷公会堂 18:30 open/19:00 start
広島公演
2013年2月20日(水) 広島クラブクアトロ 18:00 open/19:00 start
名古屋公演
2013年2月21日(木) 名古屋クラブクアトロ18:00 open/19:00 start
大阪公演
2013年2月22日(金) メルパルクホール大阪18:30 open/19:00 start
http://www.udo.co.jp/Artists/BenFoldsFive/index.html

『サウンド・オブ・ザ・ライフ・オブ・マインド』
SICP3654 ¥2,520(税込)
※歌詞・対訳付/解説:岡村詩野

◆ベン・フォールズ・ファイヴ・オフィシャルサイト
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