2004年、デヴィッド・ボウイは心臓疾患で倒れ、そのとき行なわれていたヨーロッパ・ツアーをキャンセルし、およそ1年間休養していた。心臓の手術を受け、その後15ヵ月ぶりのステージに復帰したときは、「一晩中、プレイできたよ。すごくいい気分だ。」とその喜びを語っていた。

◆デヴィッド・ボウイ画像

とはいえ、それからは紙ジャケが再発されたり、黒人学生のために訴訟費用を寄付したり、コンピレーション・アルバム『iSELECT: BOWIE』をリリースするなどの話題はあったものの、新作のリリースの話題も一切なく、アルバム『Reality』を最後に一線を退きもはや引退したというのが世間の認識であった。

しかし、『Reality』リリースから10年経った2013年1月8日、デヴィッド・ボウイの66回目の誕生日であるこの日、一切の前触れや事前発表もなくニュー・アルバムのリリースが発表され、シングル「ホエア・アー・ウィー・ナウ?」の音源配信がスタート、ミュージックビデオもいきなり公開となった。


「デヴィッド・ボウイ、ソーシャル時代に裏をかくダンディな施策」とのニュース・タイトルでお伝えした通り、SNSやWEBメディアの包囲網がはりめぐらされた現代において、一切の事前発表をしないという手法は、公開と共に鮮烈な爆発的バズを世界規模で発生させ、世の中はデヴィッド・ボウイのニュースで一色に染められた。意表をついたボウイの新作発表は「音楽界で最大の出来事」としてNME 2013 Awardsでノミネートされている。

堰を切ったように世界中のメディアがデヴィッド・ボウイに取材をリクエストしているが、彼は一切の取材を拒否している。何一つ語らず、答えず、姿も現さない。新作発表後に彼が唯一発言したのは、盟友大島渚監督への追悼コメントだけだ。新作について何も語らないことで、飢餓感を煽るのも、現代のソーシャル力を逆手に取った策略であるのは疑う余地もない。

調べれば簡単にわかる…そんなネット時代において、「調べても出てこない、知りたくても分からない」という情報の価値観を、デヴィッド・ボウイはいとも簡単に提示して見せた。ロック・アーティストたるもの、どういう存在なのか…、何も言わないデヴィッド・ボウイからは、強い主張が聞こえてくる。

『ザ・ネクスト・デイ』のジャケット写真も鮮烈だった。自らの代表作『ヒーローズ』のジャケット写真をWHITE SQUARE=白い四角い枠で隠すという意匠は、自分自身の成功体験を否定することなく乗り越え再創造を図る象徴的なアイコンでもある。この「WHITE SQUARE」は世界中の名所、雑誌、WEB、新聞へ広がっており、アプリ「誰でもザ・ネクスト・デイ」の登場でFacebookのプロフィール写真にもWHITE SQUAREは浸食している。自らのアイデンティティをマスクすることは、新たな自らを創造していく意思表示でもある。世界中でそのプロダクトに賛同の意を表するシーンはまだまだ増えることだろう。

ソーシャルを完全に掌握した逆手の戦略は、『ザ・ネクスト・デイ』を世界中の人々に注目させることに結びつけた。もちろんこの戦略の中心にいるのは、デヴィッド・ボウイ本人だ。自身が全てをコントロールしたことで、世界は彼の手中に落ちた。

『ザ・ネクスト・デイ』のサウンドは、3月13日にすべて明らかとなる。今もなおビビッドなクリエイティビティに裏打ちされたデヴィッド・ボウイの音世界、『ザ・ネクスト・デイ』はチェックしておかないと、次代への一歩を踏み出せないことになる。

text by BARKS編集長 烏丸


『ザ・ネクスト・デイ』
2013年3月13日発売
日本盤は解説・歌詞・対訳付
●「デラックス・エディション」SICP 30127 ¥2,800
Blu-spec CD2仕様(日本のみ)デジパック仕様/ボーナストラック3曲/+日本盤ボーナストラック1曲/全18曲収録(1CD)
●「スタンダード・エディション」SICP3788 ¥2,520
デジパック仕様/日本盤ボーナストラック1曲/全15曲収録

◆デヴィッド・ボウイ・オフィシャルサイト