【ライヴレポート】バロック vs vistlip、<reversion fruits(=隔世遺伝結果)>で直接対決

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「真剣に火花を散らしながらだけど、あくまで楽しくやろうね」。「うん。そして、自由にね!」。そんな約束が圭(バロック/G)と海(vistlip/G)の間で交わされたのは、初の2マン・ツアー開催を記念して行われたBARKSでの対談の席だった。あれから2週間。桜がまだ花を残す4月2日。<reversion fruits(=隔世遺伝結果)>と銘打たれた今回の試みが、双方にとって、そして双方のファンにとってどれだけ影響を与え合うものになるのか? その最初の化学変化の瞬間を目撃すべく、直接対決の舞台である大阪BIGCATへと向かった。

◆バロック vs vistlip~拡大画像~

初日の先手はバロック。中村泰造(B)とササブチヒロシ(Dr)のサポート組が横並びで位置につき、圭(G)と怜(Vo)がその手前で同じく横並びの形で構えると、ステージには真新しい四角形のフォーメーションが生まれていた。彼らにとってこの日は2マン・ツアーの初日であると同時に、新体制1stツアーの重要な初日でもあったのだ。つまり、晃(G)不在で行われた3月の赤坂ブリッツ単独公演を見ることが叶わなかったファンにとっては初めての“2人バロック”のステージになるわけで、そこには戸惑いに似た想いも少なからずあったことと思う…が、ステージに立つ2人の表情には、不思議と不安の色はなかった。

「ザザ降り雨」でスタートを切ったライヴは、いきなり怜が最前に詰め寄ってアタマを振り乱したかと思いきや、圭もはじけ飛ぶようにステージを駆け回るという奔放なもので、そのあまりに振り切ったパフォーマンスは“様子見”とはほど遠いものだった。そしてそれは、“新体制なんだからはじめはさすがに様子見でしょ~”なんて高をくくっていた自分の予想を鮮やかに裏切られた瞬間でもあった。そんなはじまりのゴングと共に放ってきたジャブでフラついていると、機先を制したバロックはすかさず「ガリロン」、「モノドラマ」とリズミカルにワンツーを繰り出してくる。時おりニヤリと挑発するように笑いかける怜の余裕の表情からも、すでにペースはバロックに握られていることは明白だった。そうしてアタマから3曲を激しく駆け抜けると、呼吸を整えた怜がゆっくりと話しはじめた。

「大阪、元気ですか? 今日は初日ということで激しくいきたいと思います! いいですか?(イエーイ!)よしっ、じゃあ次の曲に…ってあっ、そうだ! ひとつ質問したいんだけどさ、大阪のvistlipファンのことを“たこ焼きガールズ&ボーイズ”って呼ぶのは本当なの? エイプリルフールだったからって、Tohyaが俺に嘘をついたわけじゃないよね?」

そう言って大阪のvistlipファンを和ませると、「じゃあたこ焼きガールズのみなさん、たこ焼きボーイズのみなさん、バロッカーのみなさん! 暴れましょうか!!」と煽り、ライヴにもってこいの縦ノリが気持ちいい新曲「魔女と林檎」から再びグル―ヴィーにライヴを転がしていく。開演前に圭から「今回のツアーに合わせて前までのシステムは全部一新したから、音はだいぶスッキリして聴こえると思いますよ」と耳打ちされてはいたものの、実は正直、初日にしてここまでの仕上がりだとは思っていなかった。本来であればギター2本でカバーしていた楽曲を1本用に再構築し直すだけでも困難を極めたはずなのに、リアレンジはそこからさらにサポート陣との呼吸まで必要とされるわけで、細部まで計算されたこの現編成の音は、シンプルな四角形のバロックの魅力をシンプルだからこそ最大限に引き出していた。この形で音が固まっていく様を長期的に見てみたいと、ソリッドになった音を全身で受けとめながら本気で思った。


バトンタッチで現れたvistlipのオープニングは、好対照なポップ・ナンバーで攻めてくるかと思いきや、意外にもバロック同様、激しい幕開けだった。「Pinocchio」、「瞳孔」と最新ミニアルバム『GLOSTER』からのハードなナンバーを連打し、vistlipファンはもちろん、バロッカーまでをも立て続けに揺さぶってくる。時おり射抜くような視線で「大阪!」と叫ぶ智の立ち振る舞いは楽屋とはまるで別人で、なにやらピリッとした緊張感をまとっていた。“まさか今日はこのままシリアスに進むのだろうか?”と、そんな予感を胸に抱きはじめた次の瞬間、智の最初のMCでそれは無意味な心配だったことに気づかされた…。


「楽しんでるか大阪? 今日は俺らのことを全然知らない人のために、自己紹介をしたいと思います!」

そう宣言すると、耳を疑うフレーズが放たれた。

「えくぼは恋の落とし穴! ヴォーカル智です!」

……コンマ数秒間、思わずvistlipファンすらフリーズしてしまうほど意表をついたこの智の行動には、当然のことながらバロッカーの多くも驚いたに違いない。しかし実は真に驚くべきは、智以外の4人のメンバーが我々と同様“えっ!?”という表情をしていたことのほうだった。苦笑いを噛み殺しながらたまりかねた海(G)が「ねぇごめん。その元ネタ……なに?」と尋ねると、したり顔の智がすかさず「ももいろクローバーZ!」と返し、「よしっ、みんなもやってごらん!」と被害を拡大させる。完全にペースを乱された海は要領を掴めないながらも「2番! メガネは僕のシンボルです! ギターの海です!」とかわすと、Yuh(G)は「3番! 細くてもできる! Yuhです!」と力技っぽくキメる。気づけば自己紹介であるはずが、いつの間にか大喜利のようにじりじりとハードルが上がっていくそんな中、続く注目の瑠伊は「はいはーい! 4番! アタマ悪くても別に損はしない! ベースの瑠伊です!」と、もはや反則まがいのカミングアウトで豪快に切り抜ける。するとラストのTohyaは、「5番! キュートで小デブな暴れん坊! ドラムのTohyaです!」と叫び、最大の爆笑をさらってみせた。そしてこの直後、「こんな僕たちですが、音楽に対しては真剣で…」と急にシリアスに智が語りはじめたのだったが、誰もが笑いをこらえるのに必死だったことは言うまでもない。MCの“和ませすぎ”にも注意が必要のようだ。

とは言え、結果的に初日から色の違いが明確すぎるくらいに分かれるステージだっただけに、むしろ“今後この2バンドがツアーを通じてどう混じり合っていくんだろう?”のほうに興味が湧きはじめたのはきっと筆者だけではないだろう。中には“せっかくの2マン・ツアーなんだから、セッションとかカバーとか見たかった!”と思う人もいたに違いないし、実際、vistlipがステージを去ってからもアンコールを求める声が続いていたことからも、そうした両者の混じり合いに強い関心が持たれていることはバンド自身も意識すべき点だと思う。ここから両者がどう刺激し合い、互いのDNAを取り込みながらそれぞれのバンドに還元していけるか。隔世遺伝の結果はきっと、ファイナルの渋谷AXで明らかになるだろう。

取材・文・撮影●柳本 剛

vistlip SETLIST
M1. Pinocchio
M2. 瞳孔
M3. XEPPET
M4. inc.
M5. CHIMERA
M6. RETRO
M7. NEXT
M8. GLOSTER IMAGE
M9. HEART ch.
M10. Reincarnation

バロック SETLIST
M1. ザザ降り雨
M2. ガリロン
M3. モノドラマ
M4. 魔女と林檎
M5. メロウホロウ
M6. 湿度
M7. ナカユビタテル
M8. tight
M9. 独楽
M10. 我伐道
M11. 凛然アイデンティティ
M12. teeny-tiny star
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