【インタビュー】ジェイミー・カラム「考えるって、敵だと思うんだよね。意味わかる?」

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“ジャズ・ポップ界の貴公子”ジェイミー・カラムが間もなく、ニュー・アルバム『MOMENTUM』をリリースする。前作『The Pursuit』からおよそ3年半、その間に結婚し、2児の父親となったジェイミー。生活スタイルやものの見方、考え方が大きく変わり、「大人になった」という彼が、青年から大人に変わる、人生で一度しか訪れない過渡期に生み出された新作について語ってくれた。

◆ジェイミー・カラム画像

――今回は、これまでとは異なる方法でアルバムを制作したと聞いています。具体的には自家製のDIYデモを使ったとか。なぜこの方法を?

ジェイミー・カラム:そうしようって決めてたわけじゃない(笑)。前作から僕の人生は大きく変わって、自然にそうなったんだ。いまは子供が2人いて奥さんがいて、家にスタジオがある。だから、パジャマのままスタジオに忍び込んで、あれこれしながら過ごすことが多くなった(笑)。それに、スタジオでの経験を積んで、家でドラムをレコーディングするなんてこともできるようになった。だから、これまでとは違う方法で曲が作れるようになったんだ。ドラムをプレイできるようになって、家で曲を組み立てることが可能になった。これは、いいよ。家にいろんな機材があるからね。それに、時間の融通も利かなくなったし。もう、スタジオで12時間過ごすなんてことはできないんだよ。時間が限られてる。新鮮に感じたよ。なにもかも新鮮だった。若いとき、初めてスタジオに入ったときのような気分だったよ。何もかも、ちょっと個人的な感じだったね。セッション・バンドやプロデューサーと一緒に曲を作り上げていくのと違って、自分1人で好きなようにやれたからね。

――実際のレコーディングはどこで行なわれたのでしょうか?

ジェイミー:いろんなとこでやったよ。ひとつはノッティング・ヒルにあるトレバー・ホーンのスタジオ。そこで長い時間過ごしたな。それにアラン・モウルダーのスタジオにも長いこといた。それと(ジョージ・マーティンの)エア・スタジオとフィッシュ・ファクトリーっていうスタジオ。どこであれ、家で作ったものよりいいものができるか試したり、家でやったものにちょっと手を加えたりした。プロデューサーが、出来る限り最高の枠組みを作るのを手伝ってくれた。

――いつごろから曲作りをスタートしたのでしょう?アルバムの中で1番古い曲は?

ジェイミー:多分…「Take Me Out (Of Myself)」だと思う。<The Pursuit ツアー>が終って、作り始めたんだ。独身でパーティー三昧の友人がいてね。結婚して最初の子が生まれる少し前だった。一緒に出かけたとき、彼から「人生のある部分の最後のときだな」って言われたんだ。「だから、楽しい夜を過ごそうぜ。もう同じことは出来ないかもしれないから」って(笑)。その数日後にこの曲を作ったんだ。そう、これが最初の曲だね。ちょっとエルトン・ジョンの「I'm Still Standing」みたいにしたかった。

――結婚し子供が生まれて、ひとつ目の曲を作ったときと最後の曲を作ったときには全く違う生活、人生になっていたと思います。それは曲作りに影響していますか?

ジェイミー:そのとおりだね。このアルバムには、2種類の曲がある。片足は、いま話したような“遊びに行って、何の責任もなくて、パーティーやってトラブルになって…”なんて世界に踏み込んでて、もう1本の足は、突然ものの本質が見えるようになった世界に突っ込んでいる。子供がいて奥さんがいて責任を負うようになって、世界がもっと美しく見えるようになった。一方で、悲しいことも見えてきたね。年取って世の中をもっと理解できるようになると、悲しいことがもっと見えてくる。このアルバムで最後に作ったのは「Sad Sad World」だった。悲しい曲にしたかったわけじゃないんだけど、まあ悲しい曲だね。このアルバムで1番気に入ってる曲だよ。小さな子供がいて、美しい奥さんがいて、これまで以上にハッピーだからこそ、いま自分がいる世界についてもっとよく理解しなきゃいけなくなった。そして、子供を育てていくこの世界をよく見てみると、いまの世界は子供を育てるには怖いところなんだって気づいた。この曲はそういうことを歌ってるんだ。

――今回のアルバムは、制作を始める段階でどんなテーマがあったのでしょう。

ジェイミー:間違いなく、現代風のサウンドにしたいとは考えていた。オールド・ファッションなものは作りたくなかったんだ。まあ、それはいまに始まったことじゃないけどね。ビッグ・バンドとスタンダードをプレイすることもあるから、その一角にいるときもあるんだけど、いままで一度だってオールド・ファッションのアルバムを作りたいなんて思ったことない。僕のことをシナトラやマイケル・ブーブレみたいなタイプだと思っている人もいるけど、僕はいつだってコンテンポラリーなアルバムを作りたいって思ってきた。そして今回は、自分が作った曲をベースにしたかった。ということは、自動的にジャズの要素が少ないってわけ。自分で作るのはポップやロック系のものが多いからね。そのほうが、自分の感情をストレートに表現できる。ジャズの曲を作るときって、コードの変更とか即興プレイなんかにとらわれたり、巧妙なもの作ろうって考えちゃうんだ。今回は、そういう曲を作る気分じゃなかった。

――今回のアルバムは、「青年から大人に変わる過渡期について歌ったアルバムだ」とおっしゃっていますが。

ジェイミー:実際に責任を背負い込むまで、大人になるってなんなのかわからないと思うんだ。それが必ずしも結婚ってわけじゃないけど…。ツアーに明け暮れる20代のミュージシャンで独身だったら、大人になる必要なんてない。いつも誰かが面倒みてくれて、ほら、ツアー・マネージャーがいてどこに行けばいいか教えてくれるし、誰かがご飯作ってくれるし、僕はただステージに上がって歌って、酔っ払っちゃえばいいわけだ。それだけやってればいいんだよ(笑)。だから、ある時期まで…、僕の場合は人生を誰かと分かち合おうって決めたとき、大人になったんだ。そのとき、本当に大人になったって思った。いつも、大人になるなんてつまらないって思っていた。でも、間違ってたよ。実際のところ、反対だった。花火が上がったって感じかな。急に色が付いたって感じ。眼鏡をかけたみたいな。朝、眼鏡かコンタクト・レンズをつけるんだけど、それでなにもかもがクリアに見えるようになる。

――結婚と子供が生まれたこと、どちらがターニング・ポイントになりましたか?

ジェイミー:結婚だと思うね。もちろん、子供によって変わったところもあるけど。突然、自分の人生を他人に与え、他人の人生が自分に与えられるんだ。2つの人生からひとつのものを作り上げようとする。妥協ってものが付きものだよね。妥協って大変なことだって思っていた。でも、大変だけどその価値はある。ビューティフルなことだよ。

――コール・ポーターの「Love For $ale」のカヴァーでルーツ・マヌーヴァとコラボしていますね。なぜ彼を選んだんでしょう?

ジェイミー:ベースラインのサンプルが彼の曲からのものだった。「Witness The Fitness」のね。僕はジャズの要素を持つヒップホップが大好きなんだ。A Tribe Called Quest、Beatnuts、Madlibなんか大好きだ。それで、ルーツ・マヌーヴァしかいないって思ったんだ。彼の曲だし、彼こそベスト・チョイスだって。でも、彼が15年も前に作ったものをまたラップしたいかどうかわからなかった。で、ダメって言われるだろうなと思いながらも、お願いしてみたんだ。そしたら、すぐにいいよって言ってもらえた。光栄でもあり驚きでもあったよ。

――以前、ヒップホップからジャズを知ったと言っていましたよね。だから、ヒップホップの曲ができても驚きではないのですが…。

ジェイミー:そうだね。曲の出来には満足している。ファンの中には混乱する人も少なくないだろうけど、自分的には自然だ。

――ソングライティングの才能に長けたあなたのような人がカバーする面白みはどこにあるのでしょう。

ジェイミー:僕はジャズ・ミュージシャンだから、独自の解釈で演奏したいって気持ちがあるんだと思う。カバーって素晴らしいアート・フォームだと思うよ。曲作りとあまり変わらないと思う。純粋なイマジネーションが必要だ。僕はまったく違うものにしてしまうからね。メロディーを変えるし、言葉やコードも変える。音楽的にはすごい挑戦だ。そう言うのがベストかな。カバーした後は自分の曲みたいに感じるんだ。カバーだってことを忘れて、自分の曲なんだって思いたい。

――複数のプロデューサーと組んでいますが、その中のひとりジム・アビスと組むことになった経緯、実際に彼がこのアルバムに貢献してくれたところを教えてください。

ジェイミー:彼がMo'Waxやアークティック・モンキーズ、アデル、Sneaker Pimpsと作った作品が大好きなんだ。彼は、アーティストと一緒に何かを作り上げていくタイプのプロデューサーだ。一度、骨組みを決めると、そのサウンドを変えることはしない。アーティストに沿った形で、必要なとき手を貸してくれるんだ。それに、彼はバンドに慣れている。今回、自分のバンドを使いたかったんだ。いままでレコーディングで自分のバンドを使う機会がなかった。彼はバンドやミュージシャンへの対応を熟知している。もし僕の持ち込んだデモを変える必要があると考えたとしても、すべてを変えるんじゃなくてデモを基本にちょっと変えてみようってところから始める。最終的に全部変えることになったとしても、僕自身が納得できる。彼にはエゴがなく、ただよりいい音を作ろうとしているだけなんだ。

――最後に、あなたはいま、どんなチャプターにいるのでしょう?

ジェイミー:難しい質問だな。新しいチャプターだって感じているよ。この前の3枚のアルバムで一区切りついた。みんながこの新しいジャーニーを気に入ってくれればいいなって思っている。これからもっと、ソングライターとして僕を見せることができると思う。1月にアコースティックのジャズ・アルバムもレコーディングした。どこかの時点でリリースしたいと思っている。いま、すごくクリエイティブになってるんだ。時間をあけずに、次々と音楽を出していけると思うよ。

――それはいい知らせですね。子供ができて曲を作る時間が減ったのではないかと思ったのですが。

ジェイミー:そうなんだ。でも考える時間が減っただけだね。考えるって、敵だと思うんだよね。意味わかる? 行動を妨げちゃうからね。考える時間が少ない分、よりクリエイティブになっている。これまで以上に。

子供が生まれて世の中の悲しい部分も見えてきたというジェイミーだが、インタビュー後、嬉しそうに家族の写真を見せてくれた姿は幸せそのもの。そして、これまで以上に優しさと包容力に溢れていた。

『MOMENTUM』はジム・アビス(アークティック・モンキーズ、アデル)、Dan The Automator(カサビアン、マイルズ・ケイン)らがプロデュース。日本盤は5月29日(デラックス盤 6月19日)にリリースされる。


取材・文:Ako Suzuki, London
取材協力:服部のり子
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