「今回のツアーで一番嬉しかったのは、vistlipのファンもバロックのファンもお互いのバンドに対してすげぇ温かくて、どの会場でもどっちが先であろうと帰ったりするお客さんがいなかったこと。みんな観ようと思ってくれたり理解しようとしてくれたことがすごく伝わったから、本当にやってよかったと思う」

◆バロック vs vistlip~拡大画像~

――20時51分。バロックが演奏を終え、vistlipを再びステージに呼び込んでのメンバー挨拶で、最後にマイクを渡された圭(G/バロック)は、全7本のツアーをそんなふうに振り返った。そしてこう続ける。

「俺たちはバンド自体の年月は違うけど、世代自体は近いし、同じような時期に同じ音楽を聴いてバンドを志してステージに上がった連中だから、そういうヤツらとツアーを廻れたことも俺としてはよかった。ほんとうにみんなどうもありがとうございました!」

“reversion fruits(=隔世遺伝結果)”というタイトルで開催された異色の2マン・ツアーは、この最後の圭のMCをもって幕を閉じた。終演後に訪れた楽屋で、各メンバーが口々に「また早く次がやりたい!」、「単発でもいいから必ずやろう!」と興奮混じりに語り合っていた様子は、このツアーがいかに双方にとって刺激的なものだったかを充分すぎるほど物語っていた。怜(Vo/バロック)の言葉を借りるならば「最幸の夜だった!」この日を、頭まで巻き戻して再生していこう。

――18時5分。バキバキのデジタル・ノイズを場内にまき散らし、激しく点滅するストロボを全身に浴びながら登場したのはvistlipだった。すると途端にうなりを上げはじめるフロア。SEに負けじと声を張り上げて必死にメンバーの名を叫ぶ。どうやら一瞬で臨戦態勢は整ったようだ。ステージに目をやると、メンバーは不気味なほどに静かだった。が、嵐の前のなんとやらとはよく言ったもので、この直後、嵐は現実となった。

最終日は、彼らの代表曲のひとつ「SINDRA」で幕を開けた。イントロと同時にワッ!と歓声が上がる。するとそれまで定位置にいたはずのフロント4人が、一気にステージ最前線に詰め寄る。智(Vo/vistlip)もすかさず「東京! 来いよ!」と激しく煽る。ここで2階席から下を覗いてみると、まるでワンマンのようなフロアの一体感に驚かされる。と同時に、この光景は双方のファンが垣根を取っ払ったからこそ生まれたものであることに気付かされ、その事実にド頭からさらに驚かされる。

「SINDRA」以降も手をユルめることはなかった。「瞳孔」、「closed auction」、「想い出CG」と立て続けにアグレッシヴな楽曲を叩き込み、オープニングから20分をすぎようかという頃には、フロアは早くも煮えたぎりつつあった。智の今夜最初のMCは、そんな4曲を終えた直後に届けられた。

「ついにこのバロックとのツアーもファイナルということで寂しい気持ちでいっぱいなんですけど、最終的にバロッカーのみんながウチらの音を聴いてくれたり、ウチのファンがバロックを聴いてくれたり、お互いが歩み寄れたんじゃないかと思うんだけど、皆さんはどうですか?」

フロアからすかさず拍手が贈られる。

「最初は緊張もあったから、ツアーの序盤はぎこちなかったところもあったんだけど、今ではアドバイスをもらえるようになったりするくらいの関係になれて嬉しいです。こうやって歩み寄れたと思えるからこそ、またこんなツアーができたらいいなと俺は思ってます。そしてバロッカーの皆さんもありがとうございました! すごい好きです、バロック!」と、最後は照れ笑いを見せながら語った。

そして「赤裸々な気持ちや剥き出しの想いを込めた曲を聴いてください」と続けると、アコースティックの切ない音色が胸をしめつける最新曲「inc.」を披露。ゆったりとしたテンポながら、低音域からファルセットまでメロディの上下が激しいこの楽曲を切々と歌い上げる智の声は、激しいシャウトをキメていた序盤とはまるで別人のような透明感で場内に響き渡った。先ほどまで拳を突き上げていたファンも、ここではじっくりと歌に耳を傾ける。この音楽的な静と動のコントラストは、メンバーが意図していたかどうかは謎だが、『GLOSTER』(2013年1月発売のミニアルバム)をリリースしたことでより鮮明になったように思う。結果的に、「inc.」からの中盤の4曲は、アッパーな序盤とは対照的にvistlipのポップサイドが丁寧に切り抜かれた。

8曲を終えての2度目のMCでは、恒例のアニバーサリー・ライヴ(※7月7日はvistlipの結成日)がソールドアウトした旨をファンに報告すると共に、その直後から3rdアルバムを携えての全国ツアーを行うことが発表された。前作の『ORDER MADE』が長期にわたるツアーだっただけに、正直アルバムを消化しきるにはタイトすぎる日程のような気もするが、きっとなにか考えがあってのことなのだろう。…今はとにかく、アルバムの完成を待とう。

「GLOSTER IMAGE」からのラスト・スパートは、序盤と中盤の楽曲カラーが入り乱れたミクスチャー・パートだった。同様に、フロアのチャンネルもくるくると切り替わり、「偽善MASTER」では曲に合わせて右に左に大移動! ラストの「LION HEART」までたっぷりとかき乱し、やりきった表情で「最後まで楽しんでいってください!」と智は笑った。

――19時32分。ササブチヒロシ(Dr)と中村泰造(B)のサポート・リズム隊がまずステージに現れると、大歓声に招かれるように続いて怜と圭が姿を現した(※このとき、怜のハット姿に“おっ!”と思ったのはきっと筆者だけではないはず)。

怜が中央よりやや下手側のスタンドマイクの前に立ち、ギターを受け取った圭がその反対側に立つと、2人は一瞬目を合わせて大きく息を吸った。そしてドラムのカウントから刻まれたオープニング・ナンバーは、もはや定番ポジションを獲得しつつある「魔女と林檎」。ツアーをとおしてすっかり身体で覚えたファンが大多数を占めていたのか、あちこちで圭のリフに反応しはじめると、次第にその動きは範囲を広げていった。フロアを隅から隅まで見渡しながら、ゆったりと落ち着いた歌声を響かせる怜。歌詞をリップシンクしながらときどきフッと表情をユルめては笑いかける圭。初球から全力投球で投げ込んできたvistlipのオープニングとは180度異なるこのバロックの導入部に、気負うことのない今の2人のバロックの自然体を見たような気がした。そしてその楽しげに音を奏でる姿は、見ているほうまで楽しい気持ちにさせてくれる。

怜と圭が作りだすステージに魅入ってしまえばしまうほど、2人のバロックは記憶に強くフィットしてくる。それは喜ばしい半面、どこかで少し寂しいような、そんな複雑な気持ちにもなるのだった。…と、そんな矢先に怜の最初のMCはやってきた。

「すでに会場は先行のvistlipで最高に温まってますよね!(歓声) 温まってるよね?(歓声) よしっ、じゃあ最幸の日にしようか! 暴れようぜ!」

勢いよく短めに煽ると、「ザザ降り雨」、「メロウホロウ」と、復活以降のシングルの中でも特にライヴを意識したハードな楽曲を連打! 音数そのものは減りながらも、そのぶんシャープに研ぎ澄まされたリフとビートが楽曲の激しさをより際立たせる。こうした、タイトになったことで滲み出る楽曲の新たな魅力は、続けて届けられた「湿度」にもっとも顕著に表れているように思えた。いかにソリッドにアプローチするかという楽器隊のせめぎ合いと、その間を軟体動物のようにすり抜ける怜のヴォーカルが絶妙な関係性で成り立つこの楽曲は、現状のバロックのバランスだからこそのものだし、さらに突っ込んだ言い方をするならば、この現状の4人でしか成立させにくい不安定な美しさだとも思う。繊細な音の雰囲気を必要とする楽曲は、もしかしたら今が追求すべき時期なのかもしれない。

「vistlipは七夕にZeppでライヴがあるようだから、バロックのファンも含めてみんなでvistlipを感じてくれたらなぁと思ってます。もう(vistlipとバロックは)立派な仲間だからね!」と怜が語ったのは「湿度」の直後だった。そして、ファンの多くが気にしていたであろう今後の予定がついに語られた。

「で、バロックのほうなんだけど、発表できることがここまでなかなか無かったんだけど、8月に東名阪でワンマンが決まりました! よかったらみんなで遊びに来てください!(歓声) でも、その前に今日を最幸の日にしようぜ! もっと遊ぼうか!」と煽ると、景気づけと言わんばかりに怜が“おたまと鍋”を取り出し、互いをカンカンと打ちつけながら「あなくろフィルム」を披露! さらに「独楽」、「我伐道」と立て続けに解散前の楽曲をこのポジションで集約させると、ラストスパートは解散前から現在に、再び時計の針を戻す。

「何千何万何億の君への想い」は、圧巻だった。季節はたしかに春だけれど、まるでその瞬間だけステージが真冬の野外のような冷気に包まれ、怜の凛とした歌が静かにフロアに溶け出していく…。かつて何度かこの楽曲を聴いた中でも、この日の「何千何万~」には特別なパワーがあったように思えてならない。終演後、怜が「(あの曲は)もっともっと曲に(自分が)入っていけばもっとすごいものになる。そんな手応えがあった」と語っていたことで、その想いはより強固なものとなった。

――20時51分。ラストの「teeny-tiny star」を終え、「みんなありがとう!」と怜が笑うと、時計の針は本原稿冒頭の“圭の挨拶”に戻る。以下は、圭以外のメンバーから発信された今回の2マン・ツアーの総括だ。

海(G/vistlip)「ウチとバロックの距離は、このツアーですごく近づいたのね。それと同じくらい、ファン同士も近づけたんじゃないかなと思って。1本目はまだファン同士もバロックのファン、vistlipのファンっていう感じがすごくしたんだけど、やっていくうちに“今日のイベントを楽しみに来ました”みたいな人がすごく増えてきて、それがすごく嬉しくて、最終日の今日をいい形で迎えられて本当に嬉しく思っています。ありがとうございます」

Tohya(Dr/vistlip)「おつかれヤンマー!(おつかれヤンマー!) 結局、怜さんにも圭さんにも“おつかれヤンマー”は言ってもらえなかったんですけど(笑)、今朝ツイッターで圭さんが“おはヤンマー”をしてくれました(会場笑)。そして各地方では怜さんに“ご当地ファンネーム”を言っていただいたりもして、本当に今回は“俺得ツアー”でしたね!(笑顔) あ、ちなみに僕、前髪を怜さんっぽく切ってみたんですけど、どうですか?(怜を見る)」

怜「(Tohyaを見ながら)100点!」

Tohya「ありがとうございます! ただ、顔のつくりが全然違ったもんで、似ても似つかない感じなんですけどね!(会場笑)」

智「ツアーのMCでずっと言ってきたことなんですけど、ウチのファンもバロックさんのノリにバッチリになっていって、それを楽屋のモニターで見ていたときにスゲー嬉しいなぁと思って。バロッカーのみなさんも本当にありがとうございました!(と言いながら、怜の肩に手を回す)」

Tohya「おい! お前それズルイだろ!」

怜「……いま完全に抱かれたね!(一同笑)」

Yuh(G/vistlip)「みんなファイナルおつかれさまでした! バロックさんのファンの人たちもウチのファンの人たちも壁もなく無事にやってこれたと思うので、もし次があれば今度は食って食って食い合う潰し合いのような感じで闘い合いたいと思うんで、また機会があったらみんなも入り乱れちゃってください!」

怜「おお~、なんか怖いなぁ(笑)」

瑠伊(B/vistlip)「バロックさんは学生の頃から好きだったので、そんな方々とツアーを廻れて、最終的には仲良くなれてすごく嬉しく思ってます。またこういったツアーが廻れたらいいなと思ってます!」

――ツアー初日の大阪公演を見た直後に感じた“このツアーの着地点はどこなんだろう?”という不安は、この彼らからの最後のメッセージでキレイに拭い去られた。実際にライヴという形で次があるかどうかはまだわからないにせよ、深い部分で双方が繋がれたことは紛れもない事実なので、その影響のほどはきっと今後の彼らの音楽に反映されていくことだろう。今僕らにできることは、遺伝結果を気長に待つことだけだ。

取材・文●柳本 剛
撮影●辻 洋

バロック vs vistlip 「reversion fruits」
2013.4.27(Sat)@SHIBUYA-AX
vistlip セットリスト
1.SINDRA
2.瞳孔
3.closed auction
4.想い出CG
5.inc.
6.CHIMERA
7.Light up
8.Dead Cherry
9.GLOSTER IMAGE
10.HEART ch.
11.偽善MASTER
12.LION HEART

バロック セットリスト
1.魔女と林檎
2.ガリロン
3.モノドラマ
4.ザザ降り雨
5.メロウホロウ
6.湿度
7.あなくろフィルム
8.独楽
9.我伐道
10.何千何万何億の君への想い
11.凛然アイデンティティ
12.teeny-tiny star