【Kawaii girl Japan/ライブレポート】梶浦由記、「どんなに自分達が素敵な顔してるか知らないでしょ(笑)」

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20分の休憩を挟んだ2部は、「point zero」から始まった。この曲はなんといっても、左にWakana・Kaida、右にKeiko・Kaoriを従え、中央に立つ笠原由里の存在感。会場の隅々、ありとあらゆる場所までその威光を届かせるような声は圧倒的で、演奏後、「ラスボス!」「絶対倒せない感じ(笑)」と称した梶浦には会場全体が笑いながらもうなずいていた。そんな曲から間髪入れず、今度は戸丸が登場。Kaidaとの競演が見事だった「let the stars fall down」、Keiko・Kaori・Kaidaのコーラスを受けながら高く上空へと声を舞い上がらせる「lotus」を披露した。

ここで梶浦は、ベストアルバム『WORKS』を編集する際に「いつかライブで」と思い描いていた「Rainbow」を持ってくる。しかもボーカルは、Sound Horizonやさまざまなサウンドトラック曲で活躍するRemiに依頼。Remiは、KAORIと組んでの「Luminous Sword」でもピュアに響き渡る声を聴かせてくれる。そして、FJの歌姫4人での「Historia」「credens justitiam」が展開された。「credens justitiam」はvol.#7からの皆勤曲だが、赤木りえのフルートと絡み合うように、FJの歌姫、伊東えりの声が加わっていくラスサビは何度聴いても美しい。

まだまだ続く2部のサントラ祭り。ここからは『ツバサ・クロニクル』セクション(つまりは伊東えりセクション)であった。伊東・赤木が荘厳な雰囲気を作り出す「voices silently sing」「once upon a time there was you and me」、そしてvol.#1・2から演奏され、初期のYKライブを支えた「a song of storm and fire」へ。しかし一息だけついて、拍手を受け入れるとすぐに「crush」に突入。この魅惑的なインストゥルメンタル曲に続くのは、伊東えりとKeikoが魅せる「alone」、歌姫が登りつめていく歌声を聴かせる「bloody rabbit」、そして、直前の歌姫から急速にギターの指弾きでロックで終息させる「contractor」。もはやただただ見守るしかない怒涛の『Pandora Hearts』メドレーが繰り広げられた。

「時々、レコーディングのスタジオで自分の曲なのに、背筋に寒気が走ることがあるんですよ。そういうものは一人では作れないんですよね。そんな奇蹟を巻き起こしてくれるメンバーです」そんなMCを挟み、フロントバンドメンバーに佐藤芳明を加えて始められたのは「We're Gonna Groove」。跳ねるアコーディオンに魅せられ、爪弾かれるギターの弦の小気味良さに夢中になる曲だ。やはり真下監督セクションとなると、ギターとアコーディオンの活躍が目立つ。vol.#1からの常連「canta per me」も今回は、アコーディオンの佐藤とKaidaの二人だけでの演奏。Kaidaも素晴らしかったが、胸を締め付けられるような始まりのアコーディオンソロは、ライブ後もふと思い出してしまうような強い印象を残した。

そして、先ほどの衝撃が思い出される笠原を迎えての「salva nos」の後に続けられたのは、会場中が熱望した『.hack//SIGN』の「the world」。リリースされたのは10年以上も前だが、その時から「いつか生で聴きたい」と多くの者が恋焦がれたEmily Bindigerの登場だ。曲中にも関わらず、抑え切れない拍手と歓声が彼女を迎える。曲終わりにも起こった拍手が鳴り止むのを待って、「key of twilight」のイントロが流れると、またもや歓声が起きる。イントロでは手拍子まで。皆がEmilyに飢えていたのが分かるというものだ。Emilyも会場全体からの愛情を感じ取っているのか、『.hack』の世界で歌われた原曲と違い、この日は客席に対する愛情をむき出しにして歌った。曲が終わると、「今日、彼女をここに迎えることができて、一緒に歌ってくれることが本当に嬉しいです」と梶浦がEmilyを紹介する。なにせ、「私があまり考えずに好きなメロディを書くとEmily(の曲)になるんですよ」と梶浦が話したEmilyである。その相性は抜群。それを証明したのが、梶浦のピアノだけを連れて、Emilyが一人でボーカルをとった「fake wings」だ。そしてこれも人気曲の「forest」。しかも、これまでのYKライブで「forest」を担ってきたKeikoが、Emilyの後ろでコーラスを重ねる。本人も「Emilyの後姿を見ながら歌うのはすごく素敵な気持ちになれて」と終演後に話していたが、見ている我々も思いが募る光景だった。

次の「目覚め」は、FJ歌姫の4人と戸丸という構成。間奏では手を振り、ノリを表していた戸丸が可愛らしい。そんな戸丸と入れ替わりで登場した笠原は、「MATERIALISE」でこの日三度目のノックアウトを観客に与える。続いて、ギターが刻み、ドラムが刻み、梶浦が「1、2、3、4」のカウントを数えて始めたのはYKライブのアンセム、客席からも合唱が沸きあがる「zodiacal sign」だ。梶浦自身、コーラスでかなり熱唱したらしく、演奏後にMCを始めようとしたら、自分でも驚くほど声が枯れてしまっていた。慌てて水を飲み、息を整えてから最後のMCを話し始める。500人から始まったライブが5000人に来てもらえるまでに成長したことは、「奇蹟が起こったよう」だが、「皆が一緒に積み重ねてこられた」結果でもある。「まだまだ続けていきたい」「惜しむらくは、今日のKaji Fesが1回で終わっちゃうこと」とここまで話すと、来年に開催予定のYKライブvol.#11を発表。しかも、東京近郊、大阪、仙台、名古屋、福岡を回る、久しぶりのツアーということで鬼に笑われても来年に思考が跳んでしまう。

本編最後は「Sweet Song」。甘いけれど別れの切なさも込められた曲はやはり公演のラストに実に相応しい。直前のMCでも話したような、客席との別れが惜しむ気持ちが受け取れる曲だ。

5時間以上を堪能してもまだまだ味わい足りない梶浦サウンドだけに、客席からはすぐさまアンコールが巻き起こった。それに応えて用意されたアンコール1曲目は、なんと「the image teheme of Xenosaga Ⅱ」。本編ラストの余韻を打ち消すどころか引き継ぐ、『Xenosaga』曲だ。曲の終了後にEmilyが現れ、何を歌うかという期待の中で始まったのは「everytime you kissed me」。Emilyの歌声にKeikoが、WAKANAが、Kaidaが加わり、赤木がフルートを添える。

以前、vol.#1を振り返ってもらった時に、「作るとは違う音楽の喜びを思い出して、味を占めてしまったんです」「勿論私は、時間をかけて構築する録音系が好きなんですけど、(作ってから聴く人に届くまでの)タイムラグは寂しい。だから、フェイストゥフェイスで音楽を届けられ、目の前で喜んでもらえるライブは、音楽を作ったり奏でたりする者にとって最高の喜び、ご褒美なんですよ」と話した。それはこの10年間変わらない梶浦の気持ちで、YKライブのたびに話す「ライブは楽しくてしょうがない」「素敵なご褒美」という言葉をこの日もここで述べた。

そして、21人版「open your heart」。タイプは違うものの、聴く者の心を開かせる歌声次々と響いていく。戸丸から始まり、伊東、Emily、間奏で今野のバイオリン、Hikaru、笠原、Emily+FJ四人、佐藤のアコーディオン、Remi(歌い終わるとKaidaに「ハイ」とマイクを渡す仕草が可愛らしい)、是永のギター、そこに重なるASUKA、櫻田のシンセ、赤木りえのフルート、EmilyとKaida・Keiko、そこに別メロディを重ねるYUUKA、そしてKaori・戸丸・Wakana・伊東が加わる。こうして書き並べてもあまりの豪華さに、あらためてあの場にいられた幸せを感じる。梶浦は終演後「もう幸せすぎて」と話したが、きっとそれは会場にいた全ての人が同じ気持ちだったと思う。

最後に。<Kaji Fes>は梶浦音楽を存分に楽しむ場であり、梶浦20周年を祝う場であったが、梶浦自身も音楽を存分に楽しんだ場であった。アンコール終了時、客席に向かって「どんなに自分達が素敵な顔してるか知らないでしょ(笑)。すっごい幸せでした!」と梶浦は言ったが、彼女の顔もこれ以上ないほど「素敵な顔」だった。そんな梶浦の笑顔を生み出したのはファンの力であり、Kaji Fesが開催できたのもファンの力である。今日集まった方も、今まで来場された方も、来ようとして来られなかった方も、いつも梶浦音楽を愛してくださる方がこの極上のフェスを作り上げたのだと誇りに思ってほしい。ステージ上・下を問わず、共に今日のライブを作り上げた仲間達とまた集まれる日を待ち望んでいる。

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◆梶浦由記 オフィシャルサイト
◆Kawaii girl Japan
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