【インタビュー】藤倉大、世界を股にかけて活躍する新進気鋭の現代音楽作曲家の思い

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■僕としては自分が書きたい音楽を書いてるんですが
■周りが現代音楽に持っていっちゃうんです

――そうですね。話は変わりますが、藤倉さんはもともと、現代音楽の作曲家を目指していたんですか?

藤倉:いや、違うんです。今でも僕は目指していないんですけどね。でも、周りが現代音楽に持っていっちゃうんです。僕としては自分が書きたい音楽を書いてるんですが、僕の音楽っていうのは、自分自身聴きにくいとは思いませんし、ポップスみたいに扱われていいと思うんですけど。

――確かに。それはデヴィッド・シルヴィアンとコラボした作品「Died in the Wool: Manafon Variations」を聴くとよくわかります。

藤倉:実は、この作品のもとになっている、デヴィッド・シルヴィアンの「Manafon」のほうが難しいですよね。

――そうかもしれない(笑)。

藤倉:僕の「MIRRORS」のほうが聴きやすいと思うんですよ。僕はメロディを書く作曲家だと思うんですが、現代音楽家の中にはあまりいないタイプなんですよね。タブーみたいになっているので。そういう意味でも僕は歌う作曲家だと思う。世代的なことかもしれませんが、革命的なことをやってやろうとか、サプライズしてやろうとか、そういう思いはないんです。書きたいように書いてる。そうするとあいにく現代音楽と言われちゃう。聴きやすいものを作っているつもりなんで、不思議なんですけど。

――そうですね。

藤倉:わざと聴きやすく書く作曲家というのもいると思いますが、そういうことには興味はないんです。実験精神というのは重要だと思うので、そういうものは失わず、かといって、音楽は実験だけではない。化学実験だと結果が出て、それが医学に活用されて、多くの人が助かったりして、素晴らしいことだと思いますが、音楽で実験となるとそういうのとは別な話ですよね。哲学的にアートな道が見つかるのはいいと思いますが、聴くという作業だけを忘れて実験だけするというのは変な気もしますから。僕としては、奏者と一緒に新しいものを見つけようという感じでSkypeで何時間もセッションしたりしますよ。そういう意味での実験はありますが、もっとカジュアルなんです。7~8歳の小さい頃から、作曲はしていましたが、その頃から、僕は遊んでいる感じなんです。ピアノの練習がしたくないから遊んでいた。父も遊びでピアノを弾いていたから一緒に即興したりとか。

――実験というより、遊び心なんですね。しかも、練習するのが嫌で曲を作ってたとは。

藤倉:そっちのほうが楽しいですからね。ただ、作曲というのは面倒くさい作業がつきまとうんですけど(笑)。

――シンフォニックなものなら楽器の数も多いですし、なおさらですね。

藤倉:うん。パート譜を作ったり、チェックしたり。譜めくりチェックもしなければならない。譜めくりって、演奏中の休みのときにしか出来ないじゃないですか。でも、音が全部止まっているときにパラっとめくるわけにいかない。だから静かな部分で譜をめくるなって僕は譜面に書くんですが、じゃあ、どこで譜をめくるんだって話なので、そういう部分も考えなければいけない。マリンバからビブラフォンの演奏に切り替わるにはバチも持ち替え、数メートル移動して演奏するには二拍で行けるかなとか、そういうところまで考えなければいけないから。

――脚本家であり演出家のようなことも考えなければいけないわけですね。

藤倉:そうそうそう。でも無茶なことを創造してしまうから、弾きにくいらしいです。不自然に書こうとしているわけではなく、そうなっちゃうんですよね。不自然だからそこが魅力的で10年、僕の曲を弾いてくれている人もいるみたいですけど。僕の奥さんはチェリストなんですが、「MIRRORS」を作っているときも、「これはどうかな?」って聞くんですよ。「難しいけど出来るかもね」なんて言ってくれない。「こんなの弾きにくいし、もう違う曲書けば」って言われました(笑)。「MIRRORS」は6台版は特に難しいんです。だから、「ミラーズー作曲家の個展」に収録したのは12台版にしたんです。音は足さずに分配したので、単純に考えたら、一人が弾く音は半減したはずなんだけど、12台でもぜんぜん簡単になっていないらしいんです。それはちょっとショックだったなぁ。

――音楽は単純ではないってことですね。

藤倉:そういうことですね。『ミラーズ - 作曲家の個展』は、120時間くらいかけて編集してるんですよ。作曲の仕事そっちのけで。マスタリングも坂本龍一さんに紹介していただいたエンジニアの方にお願いしたんですが、本当に僕にしかわからないようなこだわりを聞き入れてもらって、すごく良いミッドポイントで仕上げてもらったんです。結果、時間はかかりましたが僕の理想的な形になって。そういう意味でリリースされて本当にホッとしてます(笑)。生では体験出来ない音がCDになっていますので。

――コンサートとはまた違うものなんですね。

藤倉:はい。オーケストラがクレッシェンドしたら、音が迫ってくるようにミックスしていますしね。クラシック専門の音響関係の人が聴いたら、面白いと思ってくれる人もいるだろうけど、なんてタブーなことをやってるんだって思う人もいるだろうと思います。生は生で聴くしかないですし、録音は録音でまた違う芸術ですから。こういうことを学んだのは、坂本龍一さんとかデヴィッド・シルヴィアンと一緒に作業したことが反映されていると思います。

――藤倉さんは最終的にはどんな音楽を作っていきたいと思っているんですか?

藤倉:大型なプロジェクトをやりたいですよね。1分とか2分のミニチュアな曲を書くのもリフレッシュになってすごく好きなんですが、例えばオペラとか大型なものがやりたい。実はオペラはもう書き始めています。演出と台本は勅使川原三郎さんで、音楽はもちろん僕。2015年にパリで世界初演予定なんですけどね。書き始めて、時間がかかれば、スケジュールを調整しなければならないと思ったんですが、自分で言うのもなんですけど、すごく向いているような気がして(笑)。どんどん書けちゃうんですよ。まず勅使川原さんの台本が素晴らしい。4月1日から書き始めて、もう7分あるんですね。それって早いほうなんです。僕としてはホッとしてる。

――ご自身のレーベルも立ち上げたとか?

藤倉:はい。「ミナベル」と言います。僕は36歳でCDが二枚しかないんですね。でも、素晴らしい演奏家が僕の曲を演奏してくれて、記録として残っているものはたくさんある。それをリリースするのはすごく難しいことなのかな? といろいろ調べていたんです。で、僕の友人が小さなインディーズレーベルをニューヨークでやってるんですね。ちゃんとワールドディストリビューションもあって。そのサブレーベルみたいな感じで出そうと。誰も出るのを期待していないアルバムであることは知っているし、みんなボランティアで手伝ってくれているんです。ポリシーは、ストレスをかけない。出せるものが溜まって、準備が出来たら出す。

――自給自足ですね。

藤倉:そう出来たらいいですね。第一弾として、6月4日に出ることになったんです。物理的なCDは無しでダウンロードのみですけどね。豪華なキャストですよ。今回の『ミラーズ - 作曲家の個展』はコンサートがあってからリリースまでの時間がすごく短かったですが、本来なら、現代音楽っていうジャンルでいえば、演奏から二年後とかにリリースされるものがザラなんですね。それが現代音楽が浸透しない理由だと思うんですけど。コンサートが終わって、それが良ければ、お客さんは音源を聴きたいですよね。それを演奏家の権利がどうのって言って、なかなかCDが出ない。演奏家や作り手の権利をプロテクトしすぎて広がらない。それは悲しいですよね。いろんな難しい問題があるのはわかっていますが、お客さんが育っていかないって、お客さんを責めるのは間違っていると思うんです。そういう意味でも、今後、自分のレーベルで、時間をおかずにすぐに出せるといいなぁと思っています。

取材・文●大橋美貴子

『ミラーズ - 作曲家の個展』
RZCM-59265 ¥3,150(tax in)
4月24日発売
1.TOCAR Y LUCHAR FOR ORCHESTRA / 「トカール・イ・ルチャール」オーケストラのための (2010)
2. BASSOON CONCERTO / バスーン協奏曲 (2012)
3. MIRRORS - 12 celli version / ミラーズ - 12人のチェロ奏者版 (2009/2012)
4. ATOM FOR ORCHESTRA / 「アトム」オーケストラのための (2009)

◆藤倉大 オフィシャルサイト
◆レーベルサイト
◆minabel
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