【インタビュー】コシミハル「好きなことをずっと続けてきたので、このまま、また時間をかけて音楽を作っていくだけです」

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前作「覗き窓」から5年振りのアルバム『Madame Crooner』がついに完成。タイトルにある「Crooner(クルーナー)」とは、クルーニングと言われる、小声で小さく唄う歌唱法で唄う男性歌手のことだ。昔は声が通ることが歌手にとっては第一条件だったが、マイクロフォンの登場で、その流れが大きく変わった。ビング・クロスビー、フランク・シナトラなど多くの歌手が、甘く囁くように唄うこの歌唱法でたくさんの名曲を残したが、今作では、歴代のクルーナーに敬意を込め、コシミハルがクルーナー婦人として、かつての名曲に挑んでいる。まるでミュージカルを見るように、古き良き映画の世界にトリップさせてくれる。

■古いフランス映画なんかがいつまでも心に残っていて
■それがどんどん繋がっていったっていう感じですね

――『Madome Crooner』は、とても素敵な作品ですね。別世界に連れていってくれるような。

コシミハル(以下、コシ):長年聴いていた、大好きな曲ばかりを収録しました。

――コシさんというと、テクノのイメージもあったりしたんですけど、最近はこういった音楽もそうですが、シャンソンをやられていたり、コンサートもシアトリカルになっていたり、独特の世界観を作っていらっしゃいますね。

コシ:ダンスがとても好きなんです。バレエもコンテンポラリーも好きですし。例えば古い映画の中で舞台のシーンなど、西部劇などの酒場のシーンとか、映画の中で小さい舞台が映ったりするんです。その感じがすごく好き。それがとても音楽には影響していますね。

――『Madome Crooner』の構想はどういうところから。

コシ:2001年に『Frou-frou』というアルバムで、クルーナーの時代の音楽を取り上げているんです。その時は、ビッグバンドサウンドをシンセサイザーでシミュレーションするっていう形のものだったんです。いつも聴いていた音楽を選んだので、特に構想を練っていたという感じでもないんです。ただ、クルーニングという、小声で小さく唄うという唄い方とか、声の響きとか、レコードの中にあるサウンドがとても好きなので、今度は、生演奏でやってみたいなぁと思って。ここ1~2年は、ピアニストのフェビアン・レザ・パネさんと二人だけでのライヴをしていくうちに、そういうところにたどり着いたというか。作りながら集中していくっていうイメージ。普段は作曲をしないし、音楽が思い浮かんだりもしないし。やろうって決めて、コンピューターに向かって作り始めるので、集中してくると形が出来てくるという感じ。

――ちなみに、音楽に向かわないときって何をしてるんですか?

コシ:映画を観てるか、音楽を聴くか、本を読むか。映画をぼーっと観ているの時間はとても好き。

――コシさんがそもそもこの時代(30年代~40年代)の音楽にハマったきっかけってなんだったんですか?

コシ:小さい頃からシャンソンが好きだったんです。幼い頃の記憶……例えばテレビで見た古いフランス映画なんかがいつまで心に残っていて。それがどんどん繋がっていったっていう感じですね。

――フランス映画って、空気を読みながら観るようなところがあると思うんですが、子供には少し難しいような気もするんですが、どんな部分に惹かれたんですか。

コシ:映像の美しさですね。子供の頃って、ヨーロッパの映画を昼間や深夜にやってたんですよ。その時に観たものが記憶に残っていて。それからそのサントラを聴くようになっていき、作曲家や演奏家を辿っていくうちに、また新しい映画や音楽に出会っていって、好きなものがどんどん繋がっていく感じでした。

――ハマると突き詰めてしまうタイプなんですね。

コシ:そうなんでしょうか? 先ほどテクノのイメージっておっしゃいましたけど、その当時も、テクノをやっているということに最初は気づかなくて(笑)。でもシンセサイザーを買ったら面白かったので夢中になって作り続けていたっていう感じだったんです(笑)。

――今作も意図してって感じじゃないですものね。

コシ:そうなんです。コンピューターを使って作ることは昔から変わってないので、私の中では今作も、昔の作品も変わりはないんです。

――今作の選曲は、お好きなだけあって映画音楽が多いですよね。

コシ:はい。ほとんどの曲が映画の中で使われています。古いものばかりだから、最初は大変です。例えば「嘆きの天使」の挿入歌は、以前から取り上げてみたいと思っていた曲なんですが、昔のサントラは音が聴き取りづらくて。採譜に時間がかかりました。

――あぁ、そうですよね。音源があっても譜面がない。

コシ:そうなんです。だから、まず最初に、全部の音を聴き取ってから、それから今回のレコードはとても少ない人数でやっていますので、各パートに置き換えていくんです。古い音源を採譜してみるっていうのは、出来上がったときにとても楽しいですね。やっていくうちに、曲の輪郭だけじゃなく、だんだん立体感が出てくるんですね。

――今作では、生楽器に置き換えたことで、より映画の世界観に近いものになっていると思うんですが。

コシ:はい。一度、生で録ったものを、その時代の空気感が感じられる響きが良いなと思って、最後のミックスはHi-Fiではなくて、輪郭が丸くて中域が豊かな、ヴォーカルが接近しない感じの程よい距離感を目指しました。全体的には歌のアルバムを作りたいと思ったんですが、歌があまり先頭に立たないというか、全体の音楽が見えるようなものを作りたいと思ってやり続けました。

――レコードの音みたいですよね。最近のダンスミュージックは低音が効いてて耳に痛いこともありますが、それとは逆で。

コシ:古いビッグバンドの録音は、ベースの音とかほとんど聞こえないんですよね。ドラムスもすごく小さいし。でも昔のダンスミュージックだから、スウィング感に溢れている。そういうリズムとハーモニーが程よいバランスを保った響きが、小編成の録音でも出せたらいいなと思いました。

――音数も少ないですものね。一曲目「Polka dots and moonbeams」はピアノ、ベース、ドラムにトランペットの編成だったり。

コシ:これはトミー・ドーシー・オーケストラとフランク・シナトラのヒット曲なんですけど。トロンボーンのカップの音がとても素敵で大好きな曲だったので、それをトランペットに置き換えてやってみました。

――この音作りもレトロですよね。「You do something to me」にはチェレスタも出てきますし。最近は聞かないですよね。

コシ:当時はよく使われていた楽器なんですよ。

――鍵盤楽器ですよね。

コシ:そうです。19世紀末に作られた楽器で、クラシック音楽に使われていたのですけれど、ビッグバンドの演奏にも沢山使われていました。高く透き通ったとても綺麗な音。今回はビクタースタジオにあるものを使ったんですけど、古い楽器で鍵盤が重たくて思ったように打鍵できなくて、難しかったです。

◆インタビュー続きへ
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