【月刊BARKS つんく♂ロングインタビュー vol.3】「『ハッピーサマーウェディング』も、最初は『まっさかサマーホリデー』って曲だったんですよ(笑)」

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── 曲を書くときと歌詞を書くとき、どちらが時間がかかりますか?

つんく♂:歌詞はね、シングル曲なんかのテーマとなるイヤーキャッチーを編み出すには、1日2日では足りないときもありますよ。一応、曲にはしますけど「なんかこのサビに一発あったらハジけんのにな」って。そこを考えだしたら1週間経っても2週間経ってもひらめかないときは一生ひらめかない。でも、それがなければ曲も歌詞もそんなに変わりはないですね。

── シングルの歌詞を書くとき、イヤーキャッチ的なフレーズ以外に、なにか意識してることはありますか?

つんく♂:あとは韻を踏むこととか。フォーク調とかロック調の曲は、楽なんですよ。そんなこと意識せず、どんな言葉でものせられるので。でもノリのある曲。いまのモーニング娘。たちのシングルもそうだけど、リズムが立ってて英語の歌詞でもいけそうな曲は、「ここは韻を踏もう」って韻を踏んでいったり、「ここは英語かな、英語に聴こえるような日本語かな」とか、言葉を探していく作業が必要で、それが難しいんです。そこを考え始めると30分ぐらいはあっという間に経つんですよね。「あー、もう30分経ってもうたー。ここのフレーズだけやのに、この8文字がハマらへん。なんでできへんのやろう」って。そういうときはいったん作業を中断して、全然違うジャンルのニュースをテレビで見てみたりして思考をまったく別のところに持っていくんですね。

── 延々とそれを考え続けるのではなくて。

つんく♂:はい。NHKのドキュメントを見てみたりドラマを見たりして、いったん頭をフニャフニャにしないとそこの8文字は出てこないんですよね。でも、最初から決まるときは早いんですよ。プッチモニの「ちょこっとLOVE」の<恋という字を辞書で引いたぞ / あなたの名前そこに足しておいたぞ♪>とかは、ぶわっと出てきたんですよね。で、意外に悩んだのが、太陽とシスコムーンの「ガタメキラ」。思いついたときは楽しくて「面白いな、これいいわ。絶対おもろいわ」って思ってたけど、思いのほか世間的には響かなかったんですよね。(※ 編集部注:とはいえ、「ガタメキラ」は、オリコンウィークリーで最高位6位を獲得している)

── では、いままで作ってきた楽曲のなかで、発売前から「これは絶対ヒットする」とつんく♂さんが一番自信を持って出した楽曲は何だったんですか?

つんく♂:うーん……結果をともなったのは「LOVEマシーン」ですかね。あの曲は時代の流れのなかにスポーンと入りましたから。「これがいけへんかったら嘘やろ」というのはありましたね。

── では、逆にあんなに自信を持って出したのに結果がともなわなかったものというと?

つんく♂:これはよくいってますけど、モーニング娘。の「Memory青春の光」。ニューヨークまで行ってレコーディングしたけど、宇多田 ヒカルみたいには売れなかった(※ 編集部注:とはいえ、「Memory青春の光」は、オリコン調べによると約41万枚を売り上げている)。あの勢いの中なら、もうちょっといってもいいと思ってましたけどね。だから、「そういうことじゃないねんな、音楽って」というのをその時に学びました。

── それはどういう意味ですか?

つんく♂:それまでは日本のミュージシャンを使ってたけど、次はニューヨークの一流ミュージシャン、一流のエンジニア使ってサウンドのクオリティー上げたらもっと売れるだろう、って思ってたんです。確かに上手かったんですよ。でも、セールスを見て、そういうところじゃないんだなと思ったんです。

── この曲はモーニング娘。としてはコーラスの構築、サウンドも含め、初めて本格的なR&Bにチャレンジした曲でしたけど、セールスの結果が伴わなかった。

つんく♂:それで、僕が開き直って書いたのが「LOVEマシーン」。結果、それはよかったなと思いますけどね。

── では曲ができたあとの作業に関してです。アレンジはどこまで作り込むんですか?

つんく♂:僕はギターとメロディだけです。もちろんフレーズがあるときは「イントロのフレーズはこれね」って入れますけど、あとはディレクターとアレンジャーとディスカッションして「俺のイメージはこっちやねんけど」ってやっていきます。それで上がってきたものに俺が“ラララ”でメロディをのせて、歌詞ができたら次は仮歌詞をのせて歌って。そこからもう1回アレンジを見直して、アレンジャーに「ここはこうしてくれる」とか「ここをラップっぽくしたいからコード進行から変えるわ」とかやりとりをしながら、そこでも何回か作業をして1曲が仕上がっていく感じです。

── こちらは簡略化していくのではなく、ある意味、オーソドックスでアナログな手法でいまでもやってらっしゃるんですね。

つんく♂:アレンジャーでも最近の若手のヤツらは曲書いて、アレンジ仕上げて、自分のスタジオで最後まで仕上げるって人が多いんですね。だから、そういう人からは、うちと仕事すると「あれだけやり直しが多いのはつんく♂さんのところだけですよ」っていわれるんです(笑)。最近の人は作曲家兼アレンジャーだから、レコードメーカーに曲が採用されたらそのアレンジも採用なんですよ。うちはアレンジも曲をブラッシュアップしていく過程でどんどん変わっていくから大変だっていわれますね。

── ということは、アレンジが入った段階で原曲とまったく違うイメージの方向性に楽曲に仕上がっていくこともあるんですか?

つんく♂:あります、あります。発注した方向とはまったく違うものが上がってきて「なんやコレ! おもろいやん。使おう」ってなる場合もありますから。たとえばモーニング娘。のアルバム曲に「HOW DO YOU LIKE JAPAN ~日本はどんな感じでっか?~」というのがあるんですけど。ヒップホップが得意なアレンジャーに渡したら、彼が予想外にハードに仕上げてきて。ハードロックファンクみたいなアレンジを入れてきたんですね。そのときは「面白いな! これはこのまま生かしや!」と思いましたね。で、そういう想定外のものが上がってきて面白いなと思ったら、歌詞を変えるんです。

── え、そうなんですか?

つんく♂:そうそう。そのアレンジに合う歌詞、あるいはまったく合わない歌詞にしてしまうんです。

── 曲が仕上がる前に再び歌詞を書き直す。

つんく♂:そうですね。でも、その前に最初のアレンジが仕上がって僕が自分の声で仮歌入れる段階で「なんじゃこりゃ」と思って歌詞を変えるものもいっぱいありますから。歌詞書いてる段階では「この歌詞おもろいで」と思ってても、歌ってみると「え?」というのがあるんです。たとえばプッチモニの「ちょこっとLOVE」は、プッチモニは、カワイイお弁当の歌とかがいいかなと思って、最初はこの曲「今夜はチキンライス」というタイトルだったんですよ(笑)。サビが<今夜はチキンラ~イス>って曲やったんですね。でも、仮歌を歌ってみて「これとちゃうな~」と思って書き直したんです。それで<恋という字を~>に変わったんです。

── ほほぉ~。

つんく♂:あとモーニング娘。の「ハッピーサマーウェディング」も、最初は夏の曲にしようと思ってたから「まっさかサマーホリデー」ってタイトルの曲だったんですよ(笑)。サビが<あー、まっさかサマーホリデー>って。

── おぉー(笑)。それ、合ってますよね。

つんく♂:いまの<あー父さん母さん>よりも、こっちのほうが本当はノリがいいんですよ。でも全部の歌詞を含めて仮歌歌ってみたら「これだとスベるな」と思って。ガサーンと全部止めて。俺ら(シャ乱Qは)結婚式の曲がなかったから、結婚式の曲に作り替えようって思って、わ~っと書き直したんです。ちょこちょこ直すのはダメなんです。こういうときも捨てる勇気を持たないとダメなんですよね。

── あの……いまさらなんですが、自分で作った楽曲の仮歌(※)は、かならずつんく♂さんがまず歌われるんですか?

つんく♂:基本的にはそうです。しかも、コーラスもすべて入れて。そういうことやってきたので、いま喉の調子がちょっと悪いんですけどね。

── では今後、作詞・作曲家としてはどんなヴィジョンを描いてらっしゃいますか?

つんく♂:気がついたら1600曲ぐらいまできてたので、2000曲はいきたいなと思ってます。そうしたら、野球でいう名球会入りはできるんかなと思って。ま、これはわからないですけどね。

※ 編集部 注:よく誤解されることだが、ハロー!プロジェクトのライブ中につんく♂プロデューサーがサプライズで登場する際に流される“つんく♂ver.”の楽曲と、ここで話している仮歌は別物。“つんく♂ver.”は、サプライズ演出用にボーカルも含めて再度レコーディングされるなど、つんく♂Pの、仮歌とはまた違うこだわりをもって仕上げられている。

(vol.4「いまの自分は子供たちともう1回人生を歩んでいってる感覚」に続く)

text by 東條祥恵
live photo by ytsuji a.k.a.編集部(つ)

【リリース情報】
「シングルベッド」
2013年7月17日リリース
通常盤:
CD 1,050円
1.「シングルベッド」
2.蜃気楼 しんきろう
3.Come on!僕たちの未来
4.「シングルベッド」
5.蜃気楼 しんきろう
6.Come on!僕たちの未来

初回生産限定盤:
CD+DVD 1,680円
DVD付
・shibuya eggman 記者会見ダイジェスト
・シングルベッド
※ shibuya eggman より
・上・京・物・語
・いいわけ
・愛するということ
・ズルい女
※ 結成20周年記念武道館ライブより

◆つんく♂ オフィシャルサイト
◆シャ乱Q オフィシャルサイト
◆BARKSアーカイブス
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