【ライヴレポート】川嶋あい、歩んできたこれまでを支えてくれたすべての人に捧げる渋谷公会堂ライヴ

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なぜ、ここまで彼女は自らを追い詰め、“頑張る”のだろう? 毎年8月20日に行われている川嶋あいの渋谷公会堂ライヴ。2003年から始まったメモリアル公演も11回目となり、デビュー10周年を迎えた今年も変わらず幕を開けたが、1曲目「I Remember」で“負けないよ それが約束だから”と歌い出されたステージが進むにつれ、胸に沸き出したのはそんな想いだった。その理由は毎年恒例の本公演こそ、シンガーソングライターとしての彼女の核に深く繋がるものであるから。さらに、“square one(=原点回帰)”をテーマに掲げる10周年というタイミングも加わって、川嶋あいはなぜ歌い、なぜ進み続けようとするのか?という根本原理を、いつにも増して浮き彫りにすることとなったからである。

セットリストの中心となったのは、6月にリリースされた3年ぶりのアルバム『One song』。客席からの手拍子を受けて軽快に綴られるラブソングも、澄み切ったボーカルを堪能させるスローチューンも、「心を籠めて歌いたいと思います」という最初のMCを完璧に体現したもの。その想いの深さのぶんだけ一音一音がジワリと胸に広がり、歌声の透明度のぶんだけ一言一言が真っ直ぐ心に刺さる。そこで浮かび上がってくるのが、背筋が震えるほどに強く、頑なな彼女の信念だ。2年間リリースが無かった理由を、東日本大震災被災地への支援活動にスタッフが専念していたためであり、そんな彼らを誇りに思っていると語った後は、そこで生まれた宮城県・戸倉小学校卒業生たちとの絆にちなんで、卒業ソング「12個の季節~4度目の春~」をピアノで弾き語り。さらに「鐘」では歌詞を映し出すスクリーンをバックに、悲しみに翻弄される人々へのメッセージをダイナミックに歌い上げる。その歌声は儚くも美しく、けれど確固たる力強さを秘めて、彼女の“人間”や“生命”に対する大いなる愛を明らかにするのだ。

「渋公盛り上がってる? いつ歌うの? 今でしょ! いつ立ち上がるの? 今でしょ!」

そんな客席との掛け合いを挟み、後半は一転、場内が一体となって燃え上がってゆくことに。大きく腕を振り、曲名通り「DonDon」と飛び跳ねて、ヒットシングル「見えない翼」では“世界で一番頑張っている渋公のあなたが好き”と、歌詞を一部アレンジしてオーディエンスと大合唱。しかし、それが単なる“楽しい!”に留まらないのは、ひたすらに“頑張る”という彼女のポリシーが、その歌に見え隠れしているからだろう。

「17歳で初めてここに立ってから、27歳になってしまいました。人は生きる中で何千、何万の選択をしていて、私もいろんな“もし”を思い浮かべるけれど、過去に戻っても今と同じ選択をしたい。頑張って、頑張り続けてるときの選択は正解になる。頑張ってれば間違いは無いってこと。良い選択が出来るように、前向きに笑顔で人生という道を進んでいきましょう」

そう話して贈られた「…Another road」は挫けながらも立ち上がり、泣かないことを決めて懸命に人生の選択をする様を描いた、まさしく“生きる”ための歌だった。本編を締め括った「Hello」でも“絶対負けない くよくよしていても輝けないよ”“明日を信じて くじけていた心にさよならしよう”と雄々しく宣言。「…Another road」の歌詞を借りるなら、川嶋あいにとって“歌”とは“呑み込んだ言葉を届ける”ための手段なのだ。

アンコールではTシャツ&短パンというスタイルに、なんと金髪おかっぱのウィッグで登場するや、場内は大熱狂!“square one”のシンボルを模した三角の青いペンライトやタオルが客席に舞い、「皆さんの心の中を小さな光となって照らせるように、心を籠めて歌います」と前置かれた「打上花火」では、スクリーン上で花火が打ち上がる。さらに、「あーい!」コールに応えて、ダブルアンコールも実現。そこで我々は、負けること/挫けることを絶対に許さない、恐ろしくストイックに首尾一貫された彼女のスタンスが、実は涙から生まれたものであることを知ることとなる。

「さっきのMCでは“過去に戻っても今と同じ選択をしたい”と言いましたが、本当は一つだけ後悔していることがあります。初めてお給料を貰った日、母に電話をしたら“ありがとう”って泣いてくれて。私も同じ言葉を返したかったけれど、照れくさくて言えなかったんです。翌日、母はこの世を去りました。あのとき“ありがとう”と言えていたら――その消えない後悔と共に、私は一生生きていかなくてはいけません。母の命日から始まった8月20日のコンサート、この景色の中に一度でもいいから、母が居てほしかった――」

言えなかった一言を歌に託した、この日のラストソングは「…ありがとう…」。ピアノだけをバックに綴られる美しくも切ない音色に、そして誰かに話しかけるような掠れ気味のボーカルに、彼女の正真正銘リアルな悲しみが、後悔が、感謝が溢れ出して、聴く者の魂を大きく揺さぶってゆく。そこで、はたと気づいた。その悔やんでも悔やみきれない過去を贖うために、川嶋あいは“何がなんでも頑張る”という十字架を、自らに課したのではないだろうか?


肩の力を抜くこと、頑張り過ぎないことが美徳とされがちな現代の日本で、彼女のような生き方は一種の怖れすら呼ぶものかもしれない。だが、血の滲むような努力も、汗も、涙も経ずして得た栄光に、いったいどれだけの価値があるというのだろうか? ひたむきに生きること、必死になることに臆病な時代だからこそ、彼女の頑張りが実を結び、華を咲かせることを願ってやまない。

取材・文●清水素子

One song ~Ai Kawashima 10th Anniversary~
@渋谷公会堂
M-1.I Remember
M-2.サヨナラ
M-3.YES/NO
M-4.Spice
M-5.奇跡をあなたと
M-6.Everyday
M-7.12個の季節~4度目の春~
M-8.天使たちのメロディー
M-9.鐘
M-10.レモン
M-11.見えない翼
M-12.ジャングル
M-13.DonDon
M-14.…Another road
M-15.Hello
アンコール1
M-16.もっと!
M-17.My Love
M-18.打上花火
アンコール2
M-19.「…ありがとう…」

9月18日(水)ライブDVD発売
川嶋あいデビュー10周年記念ライブ『I WiSH』
\6,300(tax in)
予約:http://p.tl/OEcK

◆川嶋あいオフィシャルサイト
◆川嶋あいオフィシャルブログ
◆川嶋あいオフィシャルTwitter
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